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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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29:光差す朝

…いつもの時間に目が醒めた。

いつもより身体が軽い。

夢を見なかったからだろうか。

ここ数日、両親から罵倒されている夢を見て、気が休まらない日々を過ごしていたが…今日は何も見なかった。


というか…光の入り方が違う。

私の部屋には小さな小窓しかない。

換気目的のそれは、景色なんて見ることすらできない。

当然、朝日が部屋に差し込むなんてこともない。一種の独房。

それでも私は落ち着く環境だと思っていたし、毎朝暗闇の中で目覚めることが出来ていた。


だけど、今日は朝日が差し込んでくれたことで起きられた。

…部屋が明るくなれば、自然と起きられるって本当だったのね。

しかし、なぜ私の部屋に朝日が?

そんな訳の分からない思考も、側で眠る彼女を視界に入れたら、全然違うことぐらい理解できる。


「くぅ…」

「…白梅」


今日の寝相は全然酷くなかった。

普段の彼女なら、布団を床に押しやって、大の字で寝ているはずなのに。

今日、この格好で大の字になっていたら…それはそれでマズイ気がするけれど。

今日のところは蹴られた記憶がなかった。

それどころか、私をずっと抱きしめたまま———眠り続けていたらしい。

抱き枕があれば、寝相が良くなるのかしら。


「…あれ?もう朝?」

「ええ、朝よ。おはよう、白梅…起こした?」

「ううん。そろそろ起きる時間だし…おはよ…しらふじぃ…」

「ねぼすけ。ちゃんと起きて」

「おきるぅ…」


名残惜しそうに私から腕を放し、白梅は上体を起こす。

はね放題の寝癖。うねる髪は普段整えている。

この白梅を見るのは、私の特権。

…例え東雲でも、見たことはないわよね?


「ああ…そうだった。ごめんなさい。白梅…寒いでしょう?」

「んー?」


いけないいけない。仕事をしなければ。

今までサボっていた分、今日から気合を入れ直さないと。

私を大事にしてくれる貴方を支える仕事は、私だけにしかできないし…させたくないもの。

ちゃんと、側にいられるよう頑張るわ。


「待っていて。今、今日の服を取ってくるから…そういえば今日は何日?もう少ししたら会食の約束があったわよね…」

「今日だねぇ…」

「じゃあ、外出用の衣服にするわね。誰との会食だったか、覚えている?」

「川辺近くの集落…その村長だよ」

「…何を話すのか、わかる?」

「それを収集していたのが…あの日の外出…」

「そうだったの?」

「うん…どうやらあの村長、村に教育機関と図書館を作る気のようでね」

「なるほど。村から「籠守」でも輩出したのかしら」


鳥籠を囲むように存在する集落は村と呼称され、それぞれ村長が設けられている。

教育機関や図書館もだけれど、何かを作るときは色鳥社にお伺いを立てる必要がある。

だけど大体は棄却される。

そこで村長達が目をつけるのは恩寵を受けし者。

その中でも「鳩羽」はよく外出を行うし、今代は特に気さくな人柄。

こうやって会食の話を持ちかけられ、「お願い」をされるのは珍しくはない。

むしろ白梅はこういう役を喜んで引き受ける。

食事が好きなのか…それとも、純粋に人の話を聞くのが好きなのか。

かつての仕事柄、情報を集めるのが大好きなのかは定かではないが、誘いは必ず受ける方針だ。

…おかげでスケジュールの管理が大変だけど、やりがいは十分ある仕事だ。


「如何にも。そこは撫子の出身地だよ」

「起きた…」

「?」

「なんでもないわ。しかし撫子ねぇ…てっきり、小豆か山吹かと」


こうして籠守を輩出した村が…次代の籠守も育成しようと、教育に熱を入れ始めるのは多々ある。

私の出身地もそうだった。私だけでなく鴉羽も輩出したものだから、御爺様主導で宿舎を併設し、各地から優秀な子供を集め、色鳥社の学舎に次ぐ高度教育機関として名を馳せていると聞いた。

…まあ、それ以上の興味はないけれど。


しかし…今回はあまりにも動きが早い。

名前を出したとおり、山吹や小豆———一年経過した籠守の出身地なら分かるのだ。

籠守が誕生したことを受け、一年かけて企画を作り…色鳥社にお伺いを立てる。

そういう流れが今までも出来ていたし、私の時だってそうだったと聞いている。


「そうだね。僕もそう思った。だからこそ会食までに情報を集めた…」

「かったのよねぇ…ごめんなさい…私のせいで…」

「べ、別に攻めているわけではないからね!?それに白藤の不調で僕の仕事が滞ることはない!君が気にすることは何もないんだよ!」

「…私を心配して、滞ってくれてもいいのよ?」

「君は僕がしっかりしていた方が安心するだろう?」

「狼狽えて、抱きついたまま動かなくなるのも」


外出用の着替えと化粧道具を始め…身だしなみに使う品を手に、一度ベッドへ戻る。

戻った後、濡らしたタオルで彼女の身体を軽く拭いてから…衣服を着用させ始めた。


「…服は自分で着られるから」

「たまには甘えなさい。それで、なぜ学校を?」

「あの村は農耕土地。畑だけでなく、牧場もあるだろう?人手不足や跡継ぎ問題を解決するため、子供も自ずと多くてね」

「そうなの…」

「ああ。だけど、今まで、農耕作業の手伝いばかりをさせて…学びの機会が無いまま、読み書きすらままならない存在が多いと聞く」

「そんな環境で籠守になった撫子って、なかなかの逸材なのね」

「そうだね。まあ、撫子は特殊事例として彼も認識しているだろう。問題は、他の大勢のほうだ」

「…そういう状況だものね」

「ああ。村長は長い間水面下で進めていたのではないかな。で、撫子の籠守化で」

「一手を打つべきだと、動き出した」

「ああ。籠守を輩出した村に教育機関が無ければ教育機関を。あればその拡充を進言しやすくなるからね」


次代の籠守を再びこの地から———いい謳い文句。

でも…もしも。


「…教育機関に注力するようになったら、貴方はまた暇無しね」

「おや、別に僕は中継役。仕事で言えば…そうだな、営業みたいな存在と言えばわかるかな」

「会社と会社を繋いで…実際の仕事は」

「内側にいる人間が行う。僕自身は学がないからね。色鳥社に話を繋ぐところまではするけれど、実際の仕事に関わることはないよ」

「そっか。でも…誰が関わることになるのかしら」

「普段なら…こういう仕事は辺りだろうけど、今回は鴉羽になるだろうね」

「どうして?あの子も日夜法に携わる存在として忙しく…」

「上に立つ者として、現場に立ち、教育問題を直視する仕事が主な理由にしたいけれど…今回は派手にやり過ぎたらしい」

「…もしかして」

「そのまさかだよ、白藤」


両親の処刑———それを実行したのは鴉羽、菖蒲。

実際に手を下したのは別だろうけど、指示を出したのはあの子自身だ。

…それを、色鳥社が見逃すわけがないと言うのだろう。

晴れやかな朝に、影が落ちる。

何事もなければ、いいのだけど…。

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