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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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26:包み隠せない姿を白昼に

どうして、こうなったんだろうか。

勢いで全部ぶちまけて、そのまま流れにここへ来たのは確かだ。


そもそも…と、言いますか。

白藤、僕の事好きなの?

え、なに。これ夢じゃないよね。

現と夢の区別もつかなくなって、頬をつねって痛みを感じる。

よく分からない感覚だ。痛くも痒くも無いけれど、触った感覚はあって…。


「白梅」

「ぬぬっ…?ぬぬぬ…」

「頬をつねって何をしているの?」

「これが夢かどうか確認を…」

「現実よ?」

「とてもじゃないけれど、あまりにも急展開過ぎる上に理想オブ理想だから頭が追いついていなくて夢のようにも感じていて…」

「落ち着いて白梅。動揺しすぎよ。本当にあの言葉勢いで言ったのね?」

「うう〜…ごめんよぉ…もう少しスマートに振る舞って欲しいよねぇ…」


「別にそんなことはないわ。勢いでも、本音ならいいのよ?そこのところどうなの?」

「嘘つける程、器用じゃない」

「器用でしょ、情報屋さん?」

「…こんな時まで器用に立ち振る舞えるわけがないだろ〜?」


白藤に頬を弄ばれながら、次第に上着に手をかけられる。

流れで上着を、ネクタイを、ベストを…ワイシャツの第一ボタンを———。


「なにしてんねんしらふじ」

「何って…お風呂に入るんでしょう?服脱がなきゃ」

「そうだけどこれぐらい自分で出来るから!」


とっさに手を掴み、白藤の動きを止める。

これ以上は、流石にマズイ…。

あれが、バレてしまう…。


「思えば…貴方は風呂の世話だけは嫌がり続けて、ずっと一人で入っていたわね」

「…こういう育ちな上、僕は成人してからここへ来ているからね」

「ある程度、自分の事が自分で出来る状態で…誰かの世話になるのは抵抗がある?」

「そんなところだよ。それに、素肌はあんまり見られたくなかったし」

「私もよ」


白藤が見せてくれる、タオルで覆われていない部分。

腕には細かな傷、肩には…何か噛まれた痕。

隠れている部分にも、まだきっと———。


「沢山あるわ。汚いでしょう?」

「…君が沢山我慢した証じゃないか。ねえ、白藤」

「なあに?」

「…君が鴉羽…ここでは菖蒲というべきか。彼女に会わせてと言った時の傷は、あるの?」

「…この肩の傷よ」

「じゃあ、この傷が一番綺麗だ」


本来なら縫合が必要な程の傷だったのだろう。

まともな治療を施されていないから、白藤の肩の皮部分は色が変わっていて、しわくちゃになったまま。

痛々しくて、とても見ていられないけれど…。

その傷は確かに、白藤が菖蒲を思って受けた傷なのだから。


「白藤が誰かの為に動いた傷。妹のことを一瞬でも大事に思えた傷」

「…でも、それ以降菖蒲と会おうとすると、動けなくなるのは貴方も知っているでしょう?」

「…そうだね。あの子と会話すらできないんだよね」

「…ええ。声を出そうとしても、どうも」

「困ったね」

「ええ。どうするべきかも分からないまま、九年経っちゃった」


彼女と菖蒲の間には、何もない。

親に阻まれて、互いに関わろうとする気はある姉妹だ。その気になれば、普通の姉妹になることはできるはず。

だけど、親が作った呪いが二人を阻む。

家族がいない僕からしたらそれはとても悲しいが…。

家族としてでも、菖蒲に白藤を取られることを考えたら…無性にむかつく。


「白藤は、菖蒲とどうなりたい?」

「…自分の問題で関われないけど、一度だけでも話してみたいわ」

「それだけ?」

「ええ。家にいた時は互いに声を聞くだけだったから。顔を会わせたことすらなかったのよ」

「じゃあ、あの初対面が本当に初対面なのかい!?」

「ええ」


白藤と僕の初対面は、菖蒲との初対面でもあった。

これは、流石に想定外というか…なんというか。


「…なんだか、悪いことをしていたようだね」

「気にしないで。菖蒲を見て、動けなくなったし…あのまま菖蒲の専属籠守になっていたら大変なことになっていたでしょうし」

「…流石に月白が身内同士で離すと思うけど」

「そこまでの権限は籠守長にないわよ?貴方も、浅葱の件で把握していると思ったけど…」


そういえば、月白が「誰が専属籠守がいいか」を聞くのを決めた時…誰から聞くかは決めていたっけ。

今回は衰弱していた金糸雀の要望を優先的に聞き入れるべきだと月白と白藤が相談して決めて、金糸雀から順番に選んだ。

希望者が被った場合は、先に名前を出した方に優先権があると。


金糸雀が初手で浅葱を選んだから、金糸雀は浅葱を手に入れた。

聞いた順番で優先権が発生するため、金糸雀の後に浅葱を希望した椋は…浅葱を選べなかった。

なるほど。最初から金糸雀の元に浅葱が行くように仕組んでいたか。

食えない女だね、月白。


同時に召集した露草も、素性が素性だ。選ぶ人間は…かつての知り合いのみ。

朱鷺と椋の抑止剤という意味も強いが…露草は花鶏の為に用意された籠守なのだろう。

花鶏と露草は知り合いというか…ただならぬ間柄のようだし。

そういえば…女性同士でどうやって処女を奪うのか、聞きそびれたな。

…なんで今、こんなことを思い出すのだろうか。


浮かんだ考えを振り払い、白藤の話に耳を傾ける。

そうしていなければ、余計なことを考えてしまうから。


「だから、月白さんも「鴉羽様が私を専属に選んだ」となったら…」

「それ以上は、手を出せないって訳か」

「そういうこと。だから、貴方に手を引かれて本当に助かったのよ」

「おかげで、今があるからね」

「そうね。本当に、貴方でよかった。だからこそ、貴方にお願いをしたいの」

「何を願うんだい?」

「…私を、菖蒲とちゃんと向き合えるようにしてほしい」


…今は、非常に不本意だが私欲を優先させている場合ではないらしい。

菖蒲と白藤。残された家族達を、あるべき形に戻す。

その為に、今後は動いていこう。

白藤が、望むがままに。


「いいよ。少しずつ歩み寄れるようにしてみよう」

「ありがとう」

「君の事情を知る浅葱を経由して、撫子とタイミングを計りながら菖蒲と接触を重ねてみよう。撫子側からも、菖蒲がどう思っているか聞きだして貰う必要がありそうだね」

「…仕事が早いんだから」


穏やかに笑う白藤を見て、僕も胸が温かくなる。

こうして笑う白藤が好き。

ずっとずっと、このまま———。


「ところで、白梅。いつ服を脱ぐの?少し冷えてきたのだけど…」

「あ…ああ、少し待っていて欲しい」

「ええ。待つ…わ…」


ワイシャツのボタンを素早く外し、衣服を洗濯籠の中に放り込む。

上等な生地で作られた上着とズボン、それからベルトは洗濯には出せないが、それ以外は全て毎日洗って貰っている。

肩につけていた「肩幅を広く見せるため」に仕込んでいた特注の当て布を外し、非常に嫌だが…さらしに手をつけた。

しっかりと巻いて、固定していたそれを緩め…床の上に布を落とす。

口の中から綿を出し、顔つきを元に戻せば…普段の僕になる。

全てを脱ぎ去った後に残るのは、仕事柄都合が悪い姿のみ。


「なにそれ」

「…あまり見ないで欲しい。好みではないんだ」

「貴方が見られたくなかったのは…」

「廃村地区に住んで、栄養不足であるはずなのに…発育だけは非常に良くてね。ほら、白藤。お風呂!」

「はいはい…私より大きいわね、胸もお尻も…立派なものをお持ちで」

「そこまで見なくていいから!」


白藤の視線を浴びながら、僕は風呂の準備を整える。

栓をつけて、お湯を足の甲が浸かる程度まで溜めたら、それでおしまい。


「これでいいの?」

「ああ。後で蛇口からお湯は出すけれど…基本的には水浴びの要領で風呂に入ろうと思う。それなら、君の怖いものはないと思うのだけど…」

「…貴方が側にいてくれるなら、多分どうにかなるわよ」

「そ、そっか。じゃあ、さっそく浸かろうか」

「ええ」


白藤の手を引いて、浴槽の中へ。

二人で入るのにはやっぱり狭いけれど…これは二人に必要なこと。

成り行きとは言え、成ってしまった事象を前に…やるべきことを初めていこう。

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