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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
53/60

23:事実を目下に

召集の鐘が鳴る。

この鐘は、処理が終わったことを告げる鐘。

この後、籠守が広間に集合して…報告を受ける。


「…結構早かったな」

「早く終わるような事だったの?」

「いや、どうだろう…僕が見てくるよ」

「…これは籠守の仕事よ。貴方が行ったら」

「大丈夫。大丈夫だから。白藤、ここにいて」

「どうして止めるの?」

「それは…」

「仕事ぐらいしないと…」


鳩羽の制止を振り切り、聞いたのがあの報告。

浅葱と新橋の口から語られた両親の死。

執行の許可を出したのが鴉羽———菖蒲であること。

新橋が自分を気遣うように情報を制限することは聞こえた。

月白がそれを拾って、全員に問い…全員が受け入れたことも理解できた。


でも、もうこの世に両親がいない事実を…白藤はまだ受け止めきれなかった。


「え」


あっけなく出てきたそれを飲み込んだ後、白藤は地下へと歩き出す。

そこに全ての答えがあると、分かっているから。


「白藤!」


背後から鳩羽の声が聞こえても、止めるように腕を引いても…白藤の歩みは止まらない。

地下へ歩き…牢屋がある空間へ。


おびただしい血が付着した牢屋を通り過ぎた後、その先にいる声の主の元へ向かう。


「やっとこっちの処理に移れるわね…まずは死体を袋に入れなきゃ…」

「小豆」

「へっ!?白藤さん!?なんでここに!?来ちゃダメ来ちゃダメ!ここはグロテスクだから!雀様も吐いちゃったレベルだから!」


これまたおびただしい血だまりを隠すように、小豆がブラシをぶんぶん振り回しながら白藤にそれが見えないように取り計らうが、残念ながら白藤はその先に残っていた遺体を目に入れる。

そこに横たわるのは確かに鬱金。自分の父親。

腹が爆発したように吹き飛んでいるが、彼の顔は苦悶を浮かべてはいなかった。

何が起きたのかわからない———そう言わんばかりに、間抜けな顔を浮かべていた。


「…ね、小豆」

「ダメよ白藤さん。体調が安定していないと聞いているわ。こんな物を見たら具合が悪化してしまうもの。お願いだから、鳩羽様と部屋に帰って欲しいわ」

「ううん。その遺体を見せて欲しいの。どうしても、確認したくって…」

「ダメなものはダメなの!」

「それが本当に私の父親か確認ぐらいさせてよ!」


普段の温厚な白藤から発せられたとは思えない大声に、小豆も萎縮してしまう。

鳩羽がそんな白藤を止めようとしても、白藤はすり抜けていく。

そして、それとやっと向き合った。


「…本当にお父さんだ」

「…聞いているかわからないけれど、恩寵を受けし者に不敬を働いた罪で処刑されているわ」

「あら、そんな罪で死んだの?まあ、あの人達じゃあ、恩寵を受けし者を貶す程度しかやれないわよね…」


「…どうして」

「?」

「どうして、白藤さんは平然としていられるの?両親が死んだのよ?小豆はわからないわ」

「…ごめんね。私は出来損ないだから人としてまともな感性も持っていないの」

「…?」

「私は両親を死んでいい人達だと思っていたの。早く死なないかな〜って、ずっと思っていた」

「…」

「だから、こうして死んだ姿を見て思ったことが「ああ、やっと死んでくれた」ってだけなの」

「…小豆は、白藤さんが両親とどう暮らしていたかはわからないわ」

「ええ、言っていないから…知らないでしょうね」

「それでも、死んでいい人達っていないと思うわ」

「そう思えるのは、小豆さんが優しい世界で、真っ当な両親に真っ当な感性を育んで貰ったからよ」


伽羅の死体は既に片付けが済んでいる。

だから、白藤が見たのは鬱金の最期のみ。

それだけで十分だった。


「…肉親の死を喜べるなんて、凄く残酷な事だと思うわ」

「そうね。私もそう思う。だけど、そうなってしまったのだから…仕方無いわ」

「…」

「小豆。それの片付け、引き続きお願いしても?」

「…小豆の仕事だから、最後までやり遂げるわ」

「ごめんなさいね」

「…いいの。それよりも、もっと休んだ方がいいわ。嫌な考えは、疲れからでるものなんだから」

「…そうするうわ」


小豆は白藤に背を向けて、清掃を再開する。

白藤はそんな小豆に申し訳なさを覚えつつ、踵を返した先には———。


「白藤」

「…鳩羽、様」

「小豆がいるから…今はちゃんと畏まるか」

「…そういう取り決め、ですからね」

「そうだね」


今度は絶対に離さないと言わんばかりに力強く腕を掴まれる。

九年間一緒にいても見たことがない程に不機嫌さを見せた鳩羽に…白藤は堪忍して、全てを委ねた。


◇◇


彼女に手を引かれた先はいつもの室内。

いつもとは違って明かりが灯っているけれど…空気は冷たい。


「白藤」

「…ごめんなさい。命令、聞けなくて」

「僕は君に命令をした覚えはないよ。ただ、お願いはした。部屋にいて欲しいと」

「…私に、両親の醜態と死を隠すため?」

「…ああ、そうだ」


つまり、ここへ両親を連れてきたのは…鳩羽と共に出かけた誰か。

鳩羽が他の籠守と関わるなんて事はこの九年間一度も無かった。

だけどそれは白藤自身が知らないだけで…交友関係はあった。


月白が相手?いいやそれはない。

月白は朱鷺から離れられないし、本人は鳥籠から出ることを拒んでいる。

じゃあ、相手は自然と絞られていく。

鳩羽と籠守の狭い交友関係。

何かを頼めそうな存在を、白藤は月白から聞いている。

自分がいなくなった時、暴れた恩寵を受けし者の制御を担う者として…白藤はその名前を聞いていたのだから。

月白と内通していた鳩羽が知らないはずはない。


「…ここへ両親を連れてきたのは、浅葱かしら」

「…そうだね。なんでわかったの?」

「貴方が関わりを持つ籠守は少ないから。月白さんと…今回、もしもの時に召集された未踏開拓軍の二人かなって」

「そこは知っていたのか」

「ええ。月白さんから…何かあったら、汚れ仕事含めて頼めと」

「…」

「まさか、私より年下の子が派遣されるとは思っていなかったわね」

「…あの環境にはゴロゴロいるよ」

「そうよね。私はもう、二十三歳なわけだし。普通に、いるわよね」


鳩羽的には、環境面でそうなる話をしたかった。

廃村地区には親を失った子供が沢山いる。

東雲のように名前すら持たなかった子供も当然のようにいる。

その子供達が生き残るために選ぶのがその環境。

…まあ、浅葱のように実績目的で入り込む存在もいるが、制限がない未踏開拓軍を選ぶ人間は多い。

…確か、蘇芳だったか。花鶏になる前の少女が未踏開拓軍を選んだのもそういう事情であり。

同時に露草とその弟も、生き残るために選んだと資料で確認している。


しかし、白藤は自分が歳を重ねたからそうなったと考えた。

何も出来ないくせに、長く生きすぎたから…年下の誰かが増えていると。

確かにそれも正解ではあるが、未踏開拓軍に若年層が構築されているのは、この世界の仕組みが主な原因である。


「…十年前の人柱が原因だ。あれで親を失ったり、親世代が真っ当に育たず…君のような子供も沢山増えた」

「…」

「君と鴉羽の過去は聞いている」

「…じゃあ、幻滅したでしょう?」

「それは…」

「…何をやっても半端。自我を見せたら痛い目を見ると知っていても、自我を見せてしまう出来損ない。それが私。こんな存在なんだから、貴方の籠守には」

「僕は誰でもいいからと君を選んだわけじゃない」


「…成り行きじゃない」

「成り行きでも、僕の選択には一切の間違いは無い」

「…」

「僕は君がいいから、君を選び続けた。それだけは、理解して欲しい」

「私にそこまで言って貰える価値はないわよ」

「僕にとって、君は最上の価値なのに」

「買いかぶりよ」

「事実だよ」

「…」


正気?と言うように、白藤は鳩羽を見上げる。

彼女は至って正気だ。

平然と、白藤を見下ろしていた。

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