22:それぞれへの伝達
恩寵を受けし者達がいる地上フロアに戻った後、新橋は籠守召集の鐘を鳴らす。
先程の緊急召集用の鐘の後に鳴らされるこれは、それの事後報告を行う旨を示す。
その為、大半の籠守が業務を中断し…広間に集うのだ。
勿論、後片付けをしている小豆と、そもそも鳥籠にいない露草を除くことになる。
そして、鳩羽から抑えられている白藤も同様にここへ来られないだろう。
「浅葱!」
「おー、撫子。金糸雀様、具合平気そう?」
「少しお疲れ気味だけど大丈夫よ。それより、貴方は?」
「私?」
「貴方だって…さっきまで色々していたんでしょう?疲れてない?」
「大丈夫だよ撫子。私は体力なら有り余っているから
「そう…」
いの一番に駆け付けてくれたのはやはり撫子。
浅葱の身を案じ、ほっと一息を吐いた頃に…他の籠守も広間に集いだす。
「あら浅葱。元気そうねぇ」
「おう月白。よくもこのポンコツ技師を紹介してくれたな。おかげで照準が合わなくて誤作動起こした」
「あら、いたずらされたの?日頃の行いじゃない?」
「う゛っ…それを言われると辛い」
「技術者とは信頼関係を築いておきなさい、浅葱。新橋は元々優秀な子よ。椋様さえ絡まなければ」
「う゛っ…褒めて落とすとはこういう」
「なんで貴方達は言葉の刺さり方が一緒なのよ…とにかく、新橋。貴方はこの鳥籠でも優秀な技術者よ。それ相応の働きを心がけて」
「はい」
「浅葱。貴方の仕事は照準が合わない程度も折り込み済だと思っているわ。武器の性能でとやかく言わないで頂戴」
「…へい」
次に現れた月白は近くの壁にもたれかかりながら、浅葱と新橋にそれぞれ小言を告げる。
こうして二人に文句を言えるのは白藤を除けば、もう月白しかいない。
それぞれに…という点なら、浅葱には露草が。
新橋には、彼女がいる。
「新橋〜」
「萌黄。抱きつくな。重い」
「へへ〜、久しぶりっすねぇ」
「今日の深夜ぶりだ。まだ十二時間も経っていない」
「十二時間も会えていないとかいうんすねぇ〜」
「…」
「それより、また意地悪したんすか?」
「意地悪じゃない。腕のお返しだ」
「新橋はもう二十四歳の大人なんすから、未成年に誇れる大人になりましょ〜?」
「ぐぬぬ…」
萌黄が新橋に頬を押しつけ、うりうりと背後からじゃれ続ける。
「撫子、あれ。私も」
「やらないわよ」
「そう…」
「でも、どうしてあそこまで…」
「新橋さんと萌黄さんは色鳥社が直接運営している学舎時代からの同期なんですよ」
「山吹だ。やっほ」
「こんにちは、浅葱。撫子。お互いお仕事お疲れ様です」
浅葱の疑問に答えたのは山吹。
彼女もまた、召集を聞いてここへ集う。
「それで、色鳥社の学舎って?」
「三年制のエリート養成学舎よね。十九歳までなら誰でも入れるけど、受験に合格しないといけない上に、高い学費を払わないといけないわ」
「撫子は?」
「私は地方学舎の義務教育修了組よ。貴方もでしょう?」
「うん」
「私はお兄ちゃんが色鳥社の学舎に入れてくれたので、お二人の話も結構聞いていまして…現在の籠守で色鳥社学舎出身なのは、私と新橋さん、萌黄さんに…月白さんですよ」
「山吹、お兄さんいるんだ」
「はい。自慢のお兄ちゃんですが…もう亡くなっていて。元未踏開拓軍でしたから、覚悟はしていたんですけど…」
「マジで?誰?名前知ってるかも」
「浅葱は多分知りませんよ。もう十年以上前になりますし、単純に考えて、浅葱が就任する前ですし…」
「…狼型の被害者の一人なの?」
「はい。歳が離れた兄なので…名前は青磁です」
「…そっか」
浅葱は知っている。その名前の人物がどういう立場の名前なのか。
さっき、雀から聞かされたのだから。
…世間は本当に、狭いものだ。
事実を知っているからこそ、道化を演じる必要がある。
出来たばかりの友人と、長年共に戦った戦友を傷つけないバランスを探る必要があるのだ。
「こんなに綺麗に成長した山吹が見れなくて残念だぜ〜」
「そ、そんなことないですよ…」
「色鳥社の学舎って凄く学費が高いっぽいじゃん?対して未踏開拓軍の給金って相場より滅茶苦茶良いんだ。命賭けてるからね」
「…」
「そこに属してまで学費を稼いだってことは、お兄さんは山吹のことが大好きだったんだ。そんな大好きな山吹の成長を見守れないのは、寂しい事だよ」
「…でも」
「私もさ、九歳の時にお父さんが死んじゃっててさ。こうして立派に籠守やってる姿とか見せたかった訳ですよ。なかなかなれないじゃん?この仕事」
「そう、ですね…この制服だけでも、一目見せたいなと思います。お墓参りにも行けませんからね」
「山吹のお兄さん、遠方にお墓あるの?」
「…お墓自体は近くにありますが、そこであの人に会いたくないので」
「あの人っていうのは…」
「…お兄ちゃんの奥さん。色々あって、お葬式の時に、揉めちゃって…顔を合わせるのも気まずくて」
「なるほどねぇ…多分今なら大丈夫だって。私の勘を信じて、一緒に墓参り行こうよ」
「えぇ…」
山吹は知らない。露草が花鶏の専属籠守になったことを。
露草も同時に知らない。山吹が籠守をしていることを。
現在の露草の動きは分からないが、少なくともこの近辺にはいない。
墓参りに行くなら、今のうちだろう。
「撫子も外出しよーぜー」
「ごめんなさい。私は遠慮しておくわ」
「えー」
「同じ場所で働いていたとはいえ、会ったこともない人のお墓参りなんて行きたがるのは浅葱ぐらいですよ…」
「そんなもん?」
「そうですよ。でも、心強いです。助かります」
それから、面倒くさそうにふらふらとやってきた東雲が合流する。
雑談はここまで。白藤はここに呼べないと踏んでいた浅葱と新橋は、このメンバー内に報告を入れる。
まず、恩寵を受けし者に不敬を働いた存在を二人拘留。鴉羽の判断で処刑を執行したこと。
その存在が白藤の両親であることは、新橋の判断で伝達された。
「…今回は対象が対象だ。白藤も現在体調不良で業務に支障が出ている。彼女の不安を煽るような真似はしないよう、籠守内で取り決めを行いたく、伝達を行った次第だ」
「…そうね。籠守長代理としては新橋の意見を取り入れたいわ。全員、それでいい?」
全員が黙って頷く。
これで話は終わり。
後は月白が総まとめをして、解散。
浅葱も金糸雀の元へ戻ろうと歩く中、それを引き留めるように撫子が手を取る。
「浅葱、貴方…」
「大丈夫、こういうのは…まあ、仕事だしさ。誰かがやらないといけないことなんだから」
「…鴉羽様の籠守は私よ。鴉羽様の指示なら」
「あの時は撫子が金糸雀様の籠守を代行していた。その逆を勤めるのは、当然じゃないかい?」
「…そんなことないわ。私だって、籠守よ。仕事が回ってくるのは、いつでも覚悟をしているわ」
「…私は君にそんな覚悟を持ってほしくはないけどね」
「貴方はいいっていうの!?」
「良くない。慣れるのも、得意になるのもよくない」
「じゃあ…」
「私の手はもう汚れきっているけど、君の手はまだ真っ白だ」
「…」
「一度汚れたら、その手に戻る方法はない。大事にした方がいい」
撫子の頭を撫でた後、浅葱も仕事へ戻る。
ふてくされた彼女は小さく「バカ」と言い捨てて、自分もまた戻っていく。
広間には再び静寂が訪れる。
誰もいない、広間に———。
「え」
否、鳩羽の制止を振り切り、伝達を聞いていた白藤の呟きだけが…誰もいなくなった空間によく響いた。




