21:浅葱と新橋
それぞれの主の元へ帰還する道中。
浅葱と新橋はそれぞれ並んで歩いていた。
お互いに、出来れば並んで歩きたくはないけれど。
でも今は…一人になるのは少し嫌だった。
「なー、新橋ー」
「んー?」
「月白から凄腕とは聞いていたけど、何してたの?」
「籠守になる前か?」
「ん」
「ここの整備士長」
「そんな大層な役を捨てて、あの女のお守りって」
「自ら望んだことだ。外野がガタガタ言うな」
「…それもそうだね」
浅葱も新橋も、過去の選択をとやかく言われる事だけは許せない。
全ては琥珀の為に選んだ道であり。
全ては椋の為に選んだ道なのだから。
二人に、後悔はない。
「お前は未踏開拓軍だったな」
「そうだよ」
「やけに落ち着いているわけだ。戦闘力は…小豆より下みたいだが」
「小豆強いの?」
「あんな可愛い声を出しながら、蹴りで檻を壊す女だぞ。凶暴だからあまり怒らせるなよ」
「どれぐらい強いか具体例が欲しいかな」
「半年前ぐらいか。ちょっと肩を掴まれただけで骨が粉砕。引退を余儀なくされた籠守がいる」
「…へ」
「鴉羽様の前の籠守だ。これがなかったら…撫子だったか。あいつはここにいないかもな」
「…なるほどねぇ」
小豆の戦闘力は見たものが全て。
戦闘技術を軍人上がりの露草や浅葱のように持ち合わせているわけではない。
彼女の場合は、純粋に力が強い。
それ故に暴力的。
それ故に、彼女が自らを律しない限りは———止められない。
「技術面は普通だな。でも、白藤がいなくなったら…次の籠守長候補になるだろうな」
「優秀なんだ」
「上が不甲斐ないだけだ」
「白藤の次は…」
「私か萌黄が長い。萌黄は育ちの関係でよく思われていない」
「あんたは?」
「長の役目は面倒だからやりたくない。一部の層は私に権力を与えたく、籠守長へ推薦しているようだが」
籠守は今でこそ露草が最年長だが、ここにいる面々だけだと月白の二十五を越える籠守はいない。
籠守の歴こそ短いが、整備士長をこなすほどの人材が椋にのめり込んだ理由を浅葱は知らない…が、目の前にいる新橋が相当優秀な事だけは理解した。
「…あんたを籠守長に推薦している層って?」
「椋様信者だ」
「まだいるのか…」
「あの方が授かった権能は色鳥様と会話ができるもの。あの方の言葉が色鳥様の言葉と同義と考える連中はいるし、恩寵を受けし者全員を敬わず、椋様だけを敬う層もいる」
「…そんな大層な権能がついていたんだな」
「ああ。でも、でたらめで人を弄ぶこともあったな」
「…よくある手法だよ」
「そうなんだな」
「…話は戻るけどさ」
「ん」
「東雲は?」
「東雲も育ちが廃村地区でよくない部類なんだ。籠守長に選ばれるのは優秀さだけじゃないんだよ」
「へぇ…面倒くさいね」
「ああ、面倒くさい。こういう身分差社会も、色鳥に支配され続ける現実も。早く見つけろよ、あれの庇護下に無い土地」
「狼型倒せないと、私達ならともかく一般人の安全な移動が確保出来ないから無理でーす」
「狼型…十年前に未踏開拓軍が全滅しかけたっていう」
「そうそう。あれで当時の隊長も死んでる。露草は当時の生き残りだし、あんたならそのトンデモ技術で手伝えることあるんじゃない?今度帰ってきた時に紹介してやるから、話してみなよ」
「そうしようかな…露草は何を獲物にしているんだ?」
「双剣」
「わぁお。かっけー」
「でしょでしょー」
浅葱も新橋も、感性が少年なので武器を見ると非常に喜ぶ。
とっても喜んでしまう。
「新橋は剣とか作れるの?」
「包丁は伯父の工房で作った事があるが、剣は作った事が無いな…祖父の伝手で工房を探しておく」
「修行すんの?」
「しない。そういうのは専門に任せた方がいいだろう。腕が良い鍛治師に心当たりはないが、祖父なら誰か知っているはずだ」
「おじいちゃんっ子なんだね」
「ああ。先々代の整備士長だった祖父について、整備の仕事も覚えたからな」
「わかる。私もお父さんが生きていた時は、細工師の仕事を近くで見せて貰ったな」
「…そのピアスか?」
浅葱の髪の間から除くピアスに新橋が気がつかない訳がない。
それに触れながら、浅葱は小さく呟いた。
「うん。お父さんの遺作」
「…例の、椋様の嘘で死んだという」
「そう。お父さんはあいつが言うように、酷いこととか、何にもしてないの。最後までお父さんらしくしようって…嫌がられても、嫌われていることを自覚しても、ちゃんと…お父さんしようと」
「もういい。わかった…今度、落ち着いたら御父上の事を聞かせてくれ」
「…興味あるの?」
「技術者としては、腕のいい細工師の仕事の様子とか聞いてみたい話はある。そのピアスの石だって宝石だろう?買い付けに同行したことは?」
「数回…」
「覚えている範囲でいいから聞かせてくれ。興味があるんだ」
「ん…」
「せっかくだから、金糸雀様からも聞きたいな。幼馴染なんだろう?」
「くーちゃんにぃ…?何もしない?」
「誓約書書いて良いから…」
「じゃあくーちゃんがいいって言うならいいよ」
「…そうか」
父親の事を思い出して、俯いた浅葱の気を逸らすように新橋は慌てて方向を転換させる。
細工師の仕事に興味はあるし、それに…あの椋を、真紅を育てていた父親の話に興味があった。
こういうのは本当にダメだと、新橋自身理解している。
これは恩寵を受けし者の過去を探る行為。
だけど、これからは…自らの目で見極めなければいけない。
どこまでが嘘で、どこまでが本当で。
椋が…信じるに値する存在であるか…きちんと判断を下す必要がある。
もう、盲目ではいられない。




