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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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20:この世界はどこまでも

「さて、お前達の処罰をそろそろ決めないとだな…」

「…恩寵を受けし者に対する不敬が多すぎる。規定に則って処刑が妥当だろう」

「処す?処す?」

「殺るか?殺るか?」

「そこの寒色コンビは少し黙っていた方がいいと小豆は思うの。気持ちは分かるけどね」


靴についた血をボロ布で拭きながら、小豆はそう吐き捨てる。

彼女は無言で鴉羽に視線を向けるが…鴉羽はそれに気がつかない振りをしながら思案を続ける。


「雀も同様に?」

「ああ。最終的な判断は統治を行う裁定者に委ねよう。俺の意見としては、そういうことだ」

「…では、浅葱」

「へーい。仕事で?」

「ああ。方法は君に任せる」

「なるべく苦しませてもいいし、さくっとやってもいいと」

「ああ。判決は出した。ここは空気が汚い。僕は執務に戻る。撫子も引き取るから、主人かなりあが心配ならさっさとやれ」

「そういう誘導は卑怯だと思うんですけどね〜」


浅葱は鴉羽が立ち去ったのを確認した後、腰のホルダーから銃を取り出す。

新橋が反射的に嫌な顔を浮かべるが、その銃を見かけたのは骨を折った一件の際。

思い出して、嫌になるのも無理は無い。

…はず、なのだが。恐怖というよりは、どこか気味悪そうな目線を向けていた。


「私も仕事だからさ。お互い楽したいよね」

「…ね、ねえ本当に」

「嘘だろ。ただ娘と話しただけじゃないか」

「その娘って本当に鴉羽様なの?」

「わ、私達の家に来たわ。菖蒲が鴉羽様に選ばれたと!」


伽羅が言うことが、事実なのか鴉羽にも雀にも測りかねる。

勿論、新橋も小豆もわからない。


しかし浅葱だけは、半分は事実だと証言できる。


確かに恩寵を受けし者になる存在の家に色鳥社の人間が訪れ「この家の娘が恩寵を受けし者に選ばれた」と告げに来る。

しかし、誰がどの恩寵を受けし者になるかは告知されなかった。

琥珀が金糸雀になるとは、言われていなかった。

言われていたら浅葱も最初から金糸雀狙いで動いていた。

琥珀を探し出すため、金糸雀の記憶を試すような真似もしなかった。


「最後まで往生際が悪いな、嘘つき共め」

「私達は嘘を吐いていないわ!」

「———いいや、嘘だよ。そんな告知がされていたら、私は苦労をしなかった」


浅葱が放った銃弾は叫ぶ伽羅の眉間に命中し、彼女だったものは後ろに仰け反り…地面に倒れる。

ピクリと反射で動いた後、彼女は二度と動かなくなった。


「まずは一人。大人しくしていたら…ちゃんと狙ってあげられるからさ」

「ひっ…」

「だから遺体を盾にして隠れるのやめろよ。お互い手短な方がいいだろう?」

「人でなし!」

「自己紹介どうも。お互い様で嬉しいな。次はあの世でやってこい」


遺体を狙って銃を撃ち続けるが、鬱金はなかなかその影から出てこない。

浅葱が乱射し続けた結果、檻の鍵部分に弾が当たり…扉が歪な音を立てて開く。


「あ、やべっ」

「こればっかりは怒るわよ浅葱!あまりにもおばかさん!」

「…ちゃんと狙えカス」

「うるせー!この銃てめぇにメンテ出したら照準合わなくなったんだぞ新橋ぃ!月白が凄腕だっていうから預けたのにこんなポンコツ押しつけられるたぁ、思わなかったわ!」

「ああ、それは私がズレるようにしたからな。むしろよく当たっていたな。キモいぞ…」

「その療養中の腕逆方向に曲げてやろうか」


「というか、片腕でこんな面倒な銃のメンテしてやったんだ。感謝しろよ」

「カスはてめぇだよカス!忙しくていつもの工房に依頼できないからお前に頼んだ私が大間違いだったわ!もうお前には頼まねぇ!」

「お前が依頼している工房長の元上司は私だぞ?技術力は私の方が上なのを自覚しろ。後おまけで装填数増やしたんだ。感謝しろ」

「マジかよ。気付かなかった」

「貴方の技術そんなことまでできたの!?器用ねぇ!」


三人がはしゃぐ中、鬱金は伽羅の遺体を振り払い、前へ駆け出す。

片腕が折れていても、籠守にさえ捕まらなければ問題なく逃げられる。

鳥籠の構造は円。

地下であるここの出入り口は一つしか無いが、籠守達がいる方から真逆に走り続けることで…彼女達の後ろにある出入り口へ向かうことができる。


「バカな女達だ。これが優秀な籠守とは笑わせてくれる」


それにこの世界は、鳥籠の設備を除けば浅葱の銃が「最新技術」と言われるような環境だ。

まだまだ産業革命は始まったばかり。

しかし、ここには誰がいただろうか。


「逃げてくれるよなぁ」

「逃げるわよねぇ」

「むしろ逃げてくれないと困る。浅葱、試したいものがある。あいつは私に寄越せ。今度はちゃんと銃調整してやるし、お前のカスタム要望聞いてやるから」

「じゃあいいよ」


籠守達は勿論想定内。

大人しくしてくれたらいいのにと溜息を吐く程度。

浅葱も小豆も追いかけることはできる。

新橋は面倒くさがって出入口で待つだろう。

それでも、全員が逃走者を処理できる。


新橋は片手で腰から下げたホルダーを開き、その中から、静音ではあるが奇妙な音を立てる何かを浮かばせる。

怪我をしていない方の手には何かを握り、それの突起を前に傾けた。


それらは鬱金を追いかけるように飛来し、追いついたら彼の身に留まる。

時が来るのを、静かに待つ。


「ねえ、新橋。あれはなあに?」

「この前作ったプロペラ付き極小爆弾だ。威力は物を壊さない程度に調整したが…」


新橋は握りしめていた何か———リモコンのボタンを押す。

それに連動するように、遠くから小さな爆発音が聞こえた。

建物は揺れる程度のものではない。

だけど確かに廊下の先から火薬の匂いと…特有の嫌な香りが漂ってくる。


「まあ、ゼロ距離で爆発させたら、普通に死ぬだろうな」

「物騒!」

「そんなもの持ち歩くなよ!」

「いいだろう。お前が銃を使うように、小豆が物騒な肉体を持つように、私だって仕事用に爆弾ぐらい持っていたっていいじゃないか」

「まあ、それはそう」

「小豆の肉体が銃と爆弾と同列に扱われるのは不服よ!もー!」


「…なんでお三方はこんなテンションで処刑を終えているのでしょうか…」

「「「それが仕事なもんで」」」


最後まで徹底して空気になっていた雀の疑問に、三人は口を揃えて答えた。

そう。これが仕事。

籠守の業務の中に含まれている。ただ、それだけのこと。

だけど籠守の間でも適性はある。

白藤と月白、露草はそつなくやり遂げるだろう。

東雲と萌黄も同様に。

だけど、山吹と撫子はきっとそうは行かない。

二人とよく一緒にいる小豆と浅葱は分かっている。

だからこそ、浅葱は代役を担う。

小豆も今の小豆と同じ立ち位置にいたのなら、誰かの代わりを担う。


この世界の均衡は、歪に作られている。

色鳥と恩寵を受けし者という絶対的な象徴を穢すことは許されない。

この世界を、保つために必要な事なのだ。


「…仕事でも異常ですからね。とりあえず遺体の処理を手配しておきますので、浅葱さんと新橋さんは自分の持ち場に戻ってください」

「はい」

「お願いします」

「小豆さんは私と共に。それから…三人とも、カウンセリングの手配をしておきますので、必ず受けてくださいね」

「「「…」」」

「恩寵を受けし者である私達がそうさせているとはいえ、倫理に背いたことをした自覚だけは…常に持ち続けてください」

「「「はい」」」

「殺しを、正当化してはいけませんよ」


雀は小豆を連れ、鬱金がいるであろう場所へと向かっていく。

浅葱と新橋はそれに背を向け、それぞれの主の元へ向かっていく。


目を背けることはない。

倫理に背いた自覚もまた、忘れてはいない。

それでも彼女達は進み続ける。

恩寵を受けし者を守り、この歪に揺れる世界の均衡を守ることこそが、彼女達籠守の役割なのだから。

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