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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
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5:頼れる存在

金糸雀の専属を務めだしてから、一週間が経過していた。

最初こそ慣れない世話も、徐々にだがコツを掴み、手際よく行えるようになっていた。

ただ、一つだけ悩みがあるとしたら…。


「金糸雀様、お食事を用意しました」

「……」


金糸雀は受け取った器から、一口だけご飯を掬い…小さな口で咀嚼する。

金糸雀の体調面を考えて、病人食を調理部に用意して貰っているのだが…金糸雀は全然手をつけてくれない。

一口食べてくれるだけでも御の字というべきなのか。

しかし、このままでは金糸雀は弱る一方だ。

この細腕では、文字を書くことだってままならない。


ベルを鳴らしたり、首を振るだけでは意思疎通の幅が狭すぎる。

権能の影響で声が出せない現状、彼女と意思疎通を図るためには筆談が必須なのだ。

だから彼女には早く回復を促すためにも食事を摂って欲しいのだが…。


「……」


スプーンを握り締めたまま、辛そうな顔を浮かべる金糸雀。

この食事が好きではないのか、それとも九年間同じような食事を摂り続けた結果、飽きてしまったのか。


「金糸雀様、食べたい食事は」

「……」


自分で聞いてなんだが、今の金糸雀は「はい」か「いいえ」でしか答えられない。

好きな食事はあるか、なら答えられるが、詳細を述べることは不可。

これが非常にもどかしくて、早めにどうにかしたくなる。


「……」

「どうしました、私を指さして」


無言で浅葱を見上げ。指さす金糸雀。


「あの、私は食べられないのですが…」


今度は首を横に振る。神様から選ばれた人間である訳だし、食事も人と異なるかと思いきやそんなことはないらしい。

…資料にも、そんなおぞましいことは書いていなかった。


「私の好きなもの、ですか?」


首を縦に振る。浅葱の好きなものが食べたいらしい。


「私の好きなもの、軍用携帯食なのですが…」

「……」


金糸雀が「嘘でしょ…」と言わんばかりに、あわあわし始める。

相変わらず無言ではあるが、表情は結構豊か。

浅葱とは大違いである。


「美味しいですよ」

「……」

「食べますか?ありますよ。どうぞ」


浅葱は制服の裏側に潜ませていた包みを金糸雀に差し出した。

普段から持ち歩いているのは乾パン。

食後は口の中がもしゃもしゃするが、お腹には貯まる完全補給食だと浅葱は思い込んでいる。

それを受け取った金糸雀は訝しげにそれを様々な角度から眺めつつ…一口、咀嚼した。


「もしゃもしゃもしゃ…」

「美味しいですか?」


浅葱の問いかけの代わりに、金糸雀はすすっ…と、コップと残りの乾パンを申し訳なさそうに前へ出した。


◇◇


籠守には一応、主と離れる「自由時間」という概念が存在している。

過ごし方はその名称通り自由。

最も、大半はその時間の間に食事や清掃に携わる部署、そして籠守同士の連絡時間となってしまっているので、自由らしい自由は存在しない。


しかし連絡を効率よく終わらせることができたら、話は別だ。

籠守同士で相談をしたり、情報交換をする時間ぐらいは設けられる。


「と、言うわけなんだ」

「貴方ねぇ。高貴な方々に軍用食勧めたの?」

「だって美味しいし。金糸雀様、私が好きなものを食べたいって伝えてくれたし」

「あれは極限環境で過ごす人間が手軽に持ち運べるようにされた食事でしょう。せめて一緒についている金平糖とかにしなさいよ。乾パンはハードル高いわ」

「一緒についていた全部露草にあげた。露草甘いもの好きだし。私嫌いだし」

「糖分補給は大事にしなさいよ。元軍人…」


浅葱の隣でため息を吐く籠守———撫子なでしこ

彼女は浅葱が色鳥社の新米時代こと研修職員をしていた時代の同期である。

今回、浅葱と別枠で新人籠守として鳥籠にやってきた。


正規配属の歳に、浅葱は未踏開拓軍、撫子は色鳥社事務員と配属先が分かれたが、その間も手紙のやりとりは欠かしていなかった。


「そういう撫子は見ない間に随分カリカリするようになったね。カルシウム不足?」

「貴方の天然ボケに付き合わされる身にもなってみなさいよ。カリカリもするわ」

「私はボケていない」

「そういうところよ」


最初こそ撫子が研修成績の件で浅葱に噛みついてきていた。撫子は負けず嫌いなのである。

しかし、浅葱は浅葱で自分より三歳年下の女の子が自分と同等って凄いなぁ…と、関心していた。

目障りな撫子を目の敵にするどころか尊敬の念を向け始めた浅葱に、当時の撫子は相当振り回されたのだが、今はこうして普通の友人らしく接している。

浅葱にとって、二人目の親友と言える存在である。


「で、話は戻るけど…金糸雀様は貴方が好きなものを食べたいと要望したのよね」

「うん。だから乾パンを」

「それはいいから。質問の意図の方を見ましょうよ。どうしてそんなことを願ったのかしら」

「私の事が、知りたいから?」

「そうね。それが可能性としては高いわ。けれど、金糸雀様って貴方の話を聞く限り、貴方を専属に指名したんでしょう?」

「らしいね」


「…恩寵を受けし者は、権能を授かったらお姿が変わるのよね。元々赤紫色の髪と紫色の目を持っていた人が、権能を授かったら黒髪黒目になって、身長もお姉さんと同じぐらいだったのに、高くなったとか。顔つきに変化はないらしいわ。一部の、それこそ容姿に関する権能を持つ白鳥しろとり様は違うみたいだけど、御年十七歳だからこちらも候補外ね」

「具体例がしっかりしているね」

「うちの鴉羽様の話よ。だから、姿が変わってわからないけれど…金糸雀様って、貴方の知り合いではないの?」

「…その可能性はあるけれど、どちらかはまだ分からない」

「姿が変わる分、判別材料は中身だけだものね」


撫子が浅葱の印象を変えた一件で、撫子は浅葱の目的を聞いている。

彼女が何故成果にこだわるのか。そして鳥籠に行って何をしたいのか。

露草にも語った二つの目的も撫子は把握している。

そしてその片方が、ある人物の利害と一致していることも…彼女は浅葱から知らされている。

何も知らないよりは、知っていた方が何かと便利だろうから、と。


「確定できるところは早めに確定したいものね。現状、絶対に違うなと言える人物は?」

「鳩羽様と花鶏様、白鳥様は年齢が違う。鴉羽様も今回で違うと確信した。いもうとはいても、姉はいない。その情報の信憑性は?」

「鴉羽様のお姉さんは白藤籠守長よ。籠守長本人にも確認をしておいたから、これは確定」

「仕事が早いね」

「当然よ。まあ、応援したい気持ちはあるから。最も、片方だけだからね」

「わかってる」

「そうだ。せっかくだから、貴方が村に住んでいた時に好きだった食事を作るのではなく、貴方が会いたがっている方が好きだった食事を用意するのはどうかしら」

「名案だね。流石撫子、頼りになる」


「ちなみにだけど…会いたくない方と、会いたい方。共通した好物ではないわよね?」

「…どうだったかな」

「そこは覚えていなさいよ。色々あって、昔のことが曖昧なのは分かっているけれど、大事な人の記憶ぐらい持ち合わせていなさい!とりあえず、調理部にリクエストしに行くわよ!」

「ん」


撫子に連れられ、浅葱は調理部へあるものをリクエストしておく。

父親を失い、明日に希望が見いだせなくなった浅葱に手を差し伸べてくれた一家が振る舞ってくれたもの。

金糸雀は、どう反応を示すだろうか。

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