表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
48/61

18:世界の番人

「…あら?」

「こんにちは、金糸雀様。部屋に入っても?」

「ええ、撫子。こちらへ」


鴉羽が手すりを両手で握りしめ、階段をえっちらおっちら降り…無事に雀達へ合流を果たす頃。

食事や水差し他、荷物が載ったワゴンと共に撫子が金糸雀の部屋を訪れていた。


「ところで撫子。どうしてここに…?」

「鳩羽様から聞いたの。大変だったみたいね…具合は平気?」

「うん。大丈夫。少し休んだら…」

「体調は改善に向かっている途中なのだし、無理はしてはいけないわ。ほら、お水」

「ありがとう」


コップを受け取り、冷たい水を口に含む。

ひんやりとした感覚が、身体にすうっと通り…身体の熱を落としてくれる。

口を離し、一息ついて…金糸雀は再び撫子に向き合った。


「ふぅ…」

「いい飲みっぷりね」

「そう言われると、恥ずかしいかも…」

「飲めていなかった時間の方が長かったんだから、こうして飲めている姿を見れるのは良いことだと思うわ。それに、浅葱みたいにがぶがぶ飲んでいるわけでは無いし」

「あーちゃんったら…あ、撫子の前だけよね!?不特定多数の人の前ではしていないよね?」

「少なくとも、研修職員時代は私の前だけよ。未踏開拓軍時代は…やっていても許すべきよ」

「そうだね…」


金糸雀も、ちゃんと未踏開拓軍がどういう場所かは理解をしている。

恩寵を受けし者になる前にも、学校で軽く話があったし…。

こうして動けるようになってから、かつて浅葱がどういう環境に身を置いていたか、ちゃんと調べた。

いつ水分補給をきちんとできるかどうか…摂っている間に何が起こるかも分からない環境と言うぐらい、理解している。


でも、今…金糸雀の頭を占めているのは別のこと。

鬱金と伽羅…親のことだった。


「撫子」

「なあに?おかわり?」

「違う違う。もう満足…そのね、撫子は…ご家族はご存命なのかしら」

「ええ。両親と妹が六人。弟が三人いるわ」

「大家族!凄く珍しい!」

「そうね。こういうご時世だもの。親が二人ともいるというのは、非常に珍しいことらしいわね。色鳥社の研修職員時代、私だけだったわ。両親が揃っていたの」

「そんな規模なの…?」

「ええ。それに今代の代替わり時…」

「うろ覚えだけど…色鳥様の力が弱まったと観測されたのよね」


これは引きこもりを続けていた金糸雀でも知っている話。

初等学校時代。先生達が話していた光景をよく覚えている。

浅葱は興味なさそうに居眠りをかましていたことも覚えているし、その前で真紅が「死ぬなら早く死ねば良いのに」と、誰にも聞こえない程の小声で悪態をついていたことも、はっきりと。


「ええ。だから、色鳥様へ少しでも力をつけて貰うために、男女それぞれ五百人ずつ人柱にされたと聞いているわ」

「…意味あるのかな」

「さあ…とにかく、そういう事情で尚更人が少ないわ」


勿論だが、人柱に意味は無い。

しかしこの色鳥信仰の下では、誰も抵抗できない。反抗も出来なければ、反論を用意することすら出来ない。


この世界は、色鳥の庇護の下で成り立ち…人々が住まう土地は、色鳥が守護していると信じられている。

未踏開拓軍が戦う魔獣達は侵入すら出来ないようになっていることは事実として人々の前に提示されているのだ。

そしてまた、その魔獣達は歴戦の猛者である存在でもあっけなく死んでしまうほどに、凶暴で強大な力を誇るとも。


神が死ねば、この世界もまた主と共に滅ぶだろう。

残された人々は魔獣に蹂躙されるであろう。

その答えに行き着くには十分な材料もまた、人々の前に提示されている。


だからこそ、人柱は決行された。


無意味に人命を散らし、世界の安寧を崩して———残された人々は偽りの安寧を得た。

その事実に、人々は気がつかないが。


「撫子のところは、誰も選ばれなくて良かったね」

「…そうねぇ。両親が色鳥社と懇意にしていたからかしら」

「それは、どういう?」

「うちは農家なの。恩寵を受けし者や色鳥様に捧げられるお米を作っているわ」

「御用達ってやつね!」

「そうなるわね」


「子だくさんなのも…人手?」

「そんなところ。それから我が家系で米の供給を独占する為よ。神様に捧げられる米を作れる家庭って箔をつけたいらしいの」

「…色々なところで」

「計略が動く。私は後を継げなかったわ。継ぐ気もなかったけど」

「どうして?」

「だって私は長女だもの。親は長男に家業を継がせたいの」

「…」

「でも長男は画家になりたいの。凄く絵が上手いのよ。農家を継ぎたいのは長男と双子で生まれた三女の方。植物が大好きなの」

「撫子は、凄くお姉ちゃんね」

「そうでもないわ」


確かに、そうでもないかも…と、心の中で金糸雀は感じてしまった。

あの浅葱でさえも、真紅の事は名前で呼んでいた。

でも、撫子は———一度も弟妹の名前を呼ばない。

長男、三女…符号で呼び続ける。

その違和感に触れていいのか分からず、金糸雀は———。


「ところで、撫子」

「なにかしら」

「あーちゃんは今、どうしているのかな」


———逃げることを、選んでしまった。

関係性が薄い自分が触れるのもなんだかな、と思ったのもある。

正直怖かったのだ。

ここに触れて、久方の友人を失うことを考えたら…事実から目を逸らす方が楽だった。


「そうね…。雀様への報告兼聴取が終わった頃じゃないかしら」

「聴取って、そんなに短くて済むのかな」

「浅葱の説明は結構あっさりしているから、比較的短時間で済むはずよ。感情的になることも滅多にないでしょう?」

「確かに…」

「だからさくって説明して、おしまいって感じだと思う。それとも、今日のことは…感情的になるような事だった?」

「…うん。多くは語れないけれど」

「ええ。あまり聞く気にはなれないわ。ただ…鴉羽様も巻き込まれた事だけは分かるわ」

「どうして?」

「鳩羽様が私をここに行くよう指示をした後、彼女は鴉羽様と何かを話していたの。それから鴉羽様は部屋を出て、地下に行かれていたわ。それこそ…」

「…あーちゃん達がいる場所に」

「…何をする気かはわからないけれど、鴉羽様が必要なのは相当よ?」


「思えば鴉羽って、何をしている恩寵を受けし者なの?」

「「万物を統治する権能」…あれは「完全記憶能力」みたいな感じね」

「…なんかしょぼくない?」

「意志を持って命じることで誰でも操れる貴方がいうと、確かにしょぼいけど…見たこと聞いたこと…全て鴉羽の権能「記憶の書架」に刻まれて…いつでも引き出すことが出来るそうなの。勿論、歴代鴉羽が刻んだ記憶もね」

「それは凄い…」

「でしょう?恩寵を受けし者が誕生してから今に至るまでの記録がいつでも引き出せる、歴史の生き証人みたいな存在よ」

「…でも、その人は一体どうして地下になんて」

「今はその権能を使って法の番人をしているのよ」


世界の安寧の為に決まり事を作って、色鳥信仰を盤石なものへ。

人々が暴れないように法で抑えつけ、逸脱したものには法の下、裁きを下す。

それが今の鴉羽が続ける仕事だ。


「…ねえ、琥珀。私が聞くのもなんだけど…貴方達が遭遇した存在は何者なの?法の下で裁かなければいけない存在なの?」

「…少なくとも、私はそうした方がいいと思った。あの人達は表に出てはいけない。子供のことを物のように扱って、気に入らなければ暴力で抑えつけて…」

「…」

「…それが白藤と鴉羽の両親なら、尚更だと思わない?」


「普通のことだと思うわ」

「…へ?」

「親ってそういうものでしょう?抑えつけて、言うとおりにするように仕向けるのなんて普通の事よ。私もよくやられたわ」

「…撫子?」

「あの人達、子育てとかしなかったから。弟と妹の世話は全部私の仕事。少しでも成績が悪かったら、テストを受けた本人じゃ無くて、教えた私が怒られたわ」

「…」

「でも今はそんなことがないから気が楽。もう帰りたくないわね!…あれ、どうしたの琥珀?頭が痛い?」

「…少し」


金糸雀は頭を抱え、項垂れる。

両親が揃って、今もなお浅葱を通じて身を案じ続けてくれる優しい両親。

自分の両親のように、自慢できる両親は———周囲にもいると信じていた。

だけど現実は真逆。

想像しただけでも凄惨な過去を生きた白藤と鴉羽。

そして辛い過去を何事もなかったかの様に語る撫子。


自分が如何に恵まれた環境で生きていたか、改めて痛感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ