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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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17:証明した価値の下、過去に決別を

鳩羽と白藤が自室で過ごしている頃。

鳥籠地下では…。


「えぐえぐえぐえぐ…」

「あらら、雀様…泣いちゃったのですか?」

「あじゅきさぁん…!」

「はい!小豆はここにいますよ!ぎゅ〜!」


鬱金と伽羅が起こした事件———白藤と鴉羽の過去にまつわる話を聞いた雀は、浅葱と共に部屋を出てきたと思えば、大粒の涙を零していた。

それに、外で待っていた新橋と小豆は驚かずにはいられなかった。


泣きながら歩いて来た雀は小豆が包み込み…疲れきった顔を浮かべて部屋を出てきた浅葱には…。


「何か頭痛いな…今日の出来事を話してからの記憶もないし…」

「お前、恩寵を受けし者を泣かせたのか…?」

「泣かせ…たってことになるのかなぁ…?」

「厳罰…処す…」

「ちょっ!待てって新橋!聴取!聴取だよ!拳を構えるな!」


「人一人泣かせる聴取があるの…?何したの?脅し?」

「誤解だよ小豆!」

「えぐえぐ…大丈夫ですよ、小豆さん。聴取の内容がとても残酷だったもので…泣かずにはいられなかっただけなんです…浅葱さんは悪くありませんよ…」

「それなら、いいのですか…」


小豆も軽く拳を握り、浅葱に向けるが…雀がきちんと事情を説明してくれる。

流石に雀がそう言うのであれば…拳を収めるほか無い。

しかし、しかしだ…。

目の前にあるこの光景は、なんなのだろうか。

今、疑問をぶつけなければ一生わからないままだろう。

浅葱も新橋は、互いに顔を見合わせて…その光景に対しての疑問をぶつけにかかる。


「「なにこれ」」

「ああ。雀様の口調?いつものよ?」

「…元々こっちの口調が素なんです。だけど、私が指揮しているのは…」

「衛兵…。内側は女性が担当していますが、外は男性が担当しているこの部門。雀様は恩寵を受けし者で男性と直接関わる存在であり…」

「そして、唯一今回の鬱金や伽羅のような奴らと対面する方ですもんね」

「あの性格は、周囲に舐められないようにしているのですか?」

「新橋さんの仰るとおりです…。気の弱い人間には誰もついてこないでしょう?」

「小豆はついていきますよ?」

「小豆さんはこんなわたくしでも慕ってくれている優しい方だから…でも、皆が皆そういう訳ではないでしょう?」

「「確かに…」」

「気が強すぎるのもなんでしょうけど、カリスマ…というものでしょうか。それを携えた存在の方が、ついていきたいと思うのかな、と。昔ご挨拶をさせていただいた未踏開拓軍の隊長さんと、ある方の姿を参考にさせていただきました」


未踏開拓軍の隊長…その称号を聞いた瞬間、浅葱の顔が「冗談だろう?」と言わんばかりに顰められる。

彼女は元未踏開拓軍。その隊長の姿を知っているし、何をしていたかも事細かに覚えている。


「露草をぉ…?あれは遊びまくりの飲んだくれですよ。どうしてそう思ったんですか?」

「…いえ?私が拝見し、挨拶をさせていただいたのは露草さんではなく、青磁せいじさんです」

「青磁…ああ、あの人か」

「浅葱、知っているの?」

「ん。歴が長い人からね。昔の事を色々聞いているよ」

「浅葱さんは…」

「ここに来る前は未踏開拓軍として従軍していました」


浅葱は軽く思案する。

未踏開拓軍の隊長クラスの知り合い…親戚筋にしては、雀はやけに育ちが良すぎる。

露草とその弟であるろうは親を亡くして廃村区画に住まいを構えていた元浮浪児だと聞いている。

生きる手段を求めて、未踏開拓軍に入る孤児は少なくはない。

浅葱は、琥珀に会う為の踏み台として未踏開拓軍に従軍したが…露草や花鶏だった少女は別だ。

彼女達が生き残るには、あの場所しか無かった。


そうなると、青磁側が育ちのいいお坊ちゃんだった可能性がある。

でも、あの豪快な露草と付き合える育ちのいいお坊ちゃんはいるのだろうか。

…雀は一体、元は何者だったのか。そこを特定した方が早そうだが。


「雀様は…あの」

「そうですね。聞きにくいですよね。お二人と知り合いな理由…」

「ですね。なぜ、貴方のような育ちの良さそうなお嬢さんが、野蛮人の露草相手に挨拶なんて…と」

「これは独り言なのですが、私は色鳥社の宮司…その娘だったので…祭事には参加をしておりまして…その縁で」

「…これは私の独り言なのですが、納得しました」

「それなら何よりです。独り言おしまい…」


雀の特徴的な独り言に対して、新橋と小豆はさりげなく耳を塞ぎあっていた。

聞かないことがいい話題に対しては、二人とも動きが速い。


「雀様が二人に会ったのは…」

「お二人とお会いしたのはそれこそお二人の婚姻式です。任務の都合でズレこんで…その時には露草さんのお腹にはお子さんもいらして…元気にしていらっしゃいますか?」

「…少なくとも、露草は元気です」


その言葉で、雀も状況を理解する。

青磁という露草の夫も、蝋という露草の弟も、もう未踏開拓軍にはいない。

浅葱が着任する前の狼型襲撃の際、二人とも命を失ったと聞いている。

そして、露草があるものを代償にしなければ、未踏開拓軍はあの時全滅していたとも。


「なんなら露草は今年から、花鶏様の籠守に就任しまして」

「もう十歳ぐらいでしょうか。でも、籠守をしながら子供を育てるのは大変では?それも花鶏だなんて…」

「…あの、雀様」

「なにかしら」


「…私、露草に子供がいた事、初めて知りました」

「それは、どういう…」

「あ、いえ…周囲に聞いたのは、狼型の時、誰かが戦わないと全滅する状況の中、露草がかなり無茶をしたこと。その時の傷が原因で、もう子供を成せないことだけは…当時の生き残りから聞いていました」

「…そう、ですか」

「で、その青磁達が亡くなった襲撃時に、全滅を回避する為…露草が殿を務め、片割れの討伐を果たした結果」

「…お腹の子供が犠牲になったと」

「…と、言うことでしょうね」


雀は軽く目を伏せ、静かに歩き出す。

向かう場所は、鬱金と伽羅がいる牢だ。


「…未踏開拓軍が戦っているのは、色鳥様の力が及ばない闇から生まれた獣だと伺っています」

「らしいですね。あれがなんなのか本当に分かりませんが、とりあえず食えないことだけは分かっていますよ」

「ふふっ…こんな時に変な人」

「場を和ませるジョークって奴ですよ。少し、重くなりすぎましたから」

「…ですね」


牢屋に繋がる扉を開く前に、雀は息を吐く。

何度も深呼吸を果たして、いつもの調子を取り戻すのだ。


「なあ、浅葱」

「…なんでしょう」

「この世は理不尽だな」

「そうですね」

「…それでも、生きなければいけない。そして我々は生きる手段を見いださなくてはいけない」


牢の戸を開ける前に、背後からの声に視線を向ける。

その先には、真っ黒な装束に身を包んだ女性が佇む。

今、この場にいない方がいい存在。その片割れが。


「…雀。僕も同行させて貰おう」

「しかし鴉羽…この先には」

「構わない。もう話には聞いているんだろう?身内として、そして恩寵を受けし者の一人として、統治の権能の下に…判決を下すまでよ」

「…無理は、していないな?」

「多少はするさ。僕は大嫌いだからな。姉さんをいじめたあいつらが」


鴉羽は我先にと牢の戸を開け、二人が待つ牢へと進んでいく。

取り残されそうになった四人は、慌てて彼女の後を追った。

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