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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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13:鳩羽と鴉羽

浅葱と別れた後、金糸雀を部屋に送った鳩羽は、自室へ戻る前にある部屋へ訪れていた。


「…急に失礼するよ、撫子」

「鳩羽様?」

「急な用件でね。鴉羽は空いているかい?」

「それは…」


廊下を通じて声が聞こえていたのだろう。部屋の奥からわめき声が聞こえてくる。


「さっきのさっきでなんのようだ!姉様を放置して!ほっつき歩いて!今度は僕の元か!あっちいけあっちいけ!暇つぶししている暇があるのならば姉様を元に戻す方法でも足りない頭で考えていたらどうだ!」

「いい歓迎じゃないか」


まるで気に入らない親戚が遊びに来た時の、幼い子供の反応のようだ…なんて、鳩羽も撫子も口にはしない。

そんなクソガキ相手に鳩羽は怒る程度、狭い器量ではない。

しかし、苛つきはする。

撫子は若干眉間がヒクついた鳩羽の反応を見逃さない。


「申し訳ありません…うちの鴉羽様が…」

「苦労をしているようだね、撫子…可哀想に…君が謝る必要なんてどこにも無いんだよ。主が幼いと大変だね…あれ、二十歳越えていた気がするけど」

「鳩羽ぁ!?」


抗議の声はする。しかし鴉羽はやってこない。


「はぁ…うるさいな。あ、撫子」

「如何なされましたか?」

「緊急の用件でね。先程の鐘は聞いたかい?」


「ええ。籠守招集用の…新橋さんと小豆さんが向かわれていたので、人手は十分だと思いますが…」

「僕が話をしに来たのはその件なんだ。撫子にも頼み事がある」

「私に出来ることであれば」


「今回の一件には金糸雀も巻き込まれている」

「…浅葱は、今は何を?」

「彼女は被疑者対応に追われている。僕と金糸雀に絡んだ不届き者を連行して貰ったからね…」

「あれからそんな事が…なるほど。困りましたね。まだ彼女は一人にするような」

「そういうわけなんだ。金糸雀も権能を使って憔悴していてね。浅葱が戻るまで面倒を見てほしいんだ」

「それは構いませんが…その」


「あの幼児には仕事を任せる予定でね。大丈夫。早速金糸雀のところに向かってくれ」

「は、はい…鴉羽様、私は金糸雀様のところに向かいますので、お留守番お願いしますね〜!」

「待ってくれ撫子!私を置いていくな!なでしこー!」


素の一人称が飛び出るほどに狼狽える鴉羽はやっと表に這い出てくれる。

勿論それを見逃すほど、鳩羽は優しい大人では無い。


「迎えに行く手間が省けた」

「貴様ぁ…!」

「手短に用件を伝える。話の一部は聞こえていたな」

「聞こえていたに決まっているだろう!人の部屋でやかましいにも程があるぞ!」

「我々に接触したのは、君と白藤のご両親だ」

「っ…」


先程まで駄々っ子のように振る舞っていた鴉羽の表情が高まる。

複雑そうに口元を手で押さえた後、震える声で今、一番確認しておきたい事象だけを確認しておく。


「…姉様は、まだ接触していないな?」

「接触させるわけが無いだろう、あんな化物共…」

「それならいい。話を続けろ」


もう少し狼狽えるかと思いきや、結構冷静さを残したまま…会話を続けてくれる。

その姿は先程までのそれではない。

政治に関わり…保持する無限の知識で「万物を統治する」権能を持つ恩寵を受けし者、鴉羽。

———周囲が知る姿そのものであった。


これから、まともな話が出来るだろう。


「…僕と金糸雀、それから浅葱は君達と、君達の姉妹に相当する人物達、そして弟か兄になる筈だった存在が受けた所業を聞いている」

「全部か?」

「おそらく、全部であってほしいと思うところまで」

「そうか」


「…やけに淡々としているな」

「お察しの通り、僕は勉強さえしていたら穏便だったからな」

「それは、まあ…マシな部類ではあるけれど、君も虐待の被害者だろう」


「そうだな。それは事実だが…暴行は受けていない。命も奪われてはいない。僕の苦行は姉様に会わせて貰えなかった事ぐらいだ」

「…でも実際には」

「九年前のあの日まで姉様との接触はさせて貰えなかったよ。お前は姉様への所業は聞いているんだろう?それに比べたら、睡眠を設けない非効率な学習なんて可愛いも」

「…被害の重さを比較するな。被害の差はあれど、加害者が行った罪の名称も重さも全て同じだ。それぐらい賢いお前には分かるはずだ」

「…」


「とにかく、だ。君には被害者として雀に罪を進言する権利がある」

「ああ。そうか。じゃあ殺しておいてくれ」

「…そんなにあっさりでいいのかい?」


やけにあっさりと、方針を定めたと思う。

鴉羽は両親である存在に無関心を貫き通しながら、淡々と理由だけを述べる。


「勿論だ。あんな奴らはいない方がこの世の為だ」

「ちなみに、理由は?」

「見ただろう?奴らは初等教育従事者だ。僕の祖父母は共に教育機関の重鎮でね。両親の悪行はすぐにもみ消すし、その他にも色々と後ろめたいことを行っている。未来を作る人材に対して悪影響を及ぼしかねないし、事実及ぼしている可能性がある」

「…」

「しかし証拠を出さないもの。両親の所業に関してに限れば、僕と姉様の証言だけ。そう簡単に奴らの足場を崩すことは叶わない」

「そう、だろうね」

「そんな時に…ざっくりと「恩寵を受けし者に対する不敬罪」だろうか。なかなか手を出せなかったところに、ホイホイバカをしでかしてくれたというわけだ。この好機を見逃す程、僕も愚かではないよ」


鴉羽はゆっくりと立ち上がり、雀達がいるであろう尋問室の方へ歩き出す。

やるべきことを、果たす為に。


「過酷を乗り越え、恩寵を受けし者に仕立てて貰ったのはきっと、この日の為だろうさ。僕はこれだけは両親に感謝しなければいけないし、身体を張って被害を受けていた姉様や命を絶たれたきょうだい達に出来る弔いであるだろう」

「…」

「…此度の件、報告ご苦労だった。君も精神的に疲弊しているだろう。早めに休むといい。それから姉様には」

「…頃合いを見てから」

「そうしてくれ。結果は追って君にのみ伝達する。それから、言わなくてもいいと思うが…」

「この件を周囲に口外するつもりはない。君の籠守にもね」

「それでいい。賢明な君には、わざわざ問う必要も無かったかもな」


鴉羽の背を見送り、鳩羽は一息つく。

鳩羽に出来ることは少ない。

あの両親に関しては、娘の一人として鴉羽に全てを任せよう。


後、鳩羽がやるべきことは————。

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