12:新橋と小豆
さて、扉の前の二人。
浅葱から外で待つように言われた二人は、年齢差があるのであまり多く関わる機会はない。
小豆から見たら、新橋は五年以上鳥籠にいる大先輩に相当する。
ここは恩寵を受けし者の機嫌次第で、あっさりと命を落とすような環境。
専属という関係は非常に難しい。
小豆の前任者は、雀の権能に振り回され…彼女を心から愛しているのか、それとも権能によって愛しているのか。混乱を来し…最終的には雀を襲い、自殺を図ったと聞いている。
その為、雀の専属は「精神軸が強固な者」が優先的に選ばれている。
そんな小豆でさえも、朱鷺や椋には当たらなくて良かったと心底思うぐらい、二人は厄介なのだ。
「あの…新橋さん、だったかしら」
「ああ。こうして二人で話すのは初めてだな。椋様の専属を務めている」
「ああ…貴方が。上手くやれているの?あの人、怖いと聞くわ」
「具体的には?」
「その…専属は絶対青系統の髪で、高身長じゃないといけないし、気に食わないことがあるとすぐに癇癪を起こすと…それになんか変な宗教も運営しているとか」
「全て事実だな。私はその運営には関わっていないが、親姉弟が入信しているよ」
「えぇ…」
「椋様が君の言う恐れる対象であった原因の数々は、基本的に浅葱に集約されている」
「なぜ?」
「これは私もこの前知ったことなのだが…椋様になる前の彼女は、浅葱の双子の姉だったそうだ」
「凄い偶然ね。浅葱は姉に会いに来たの?」
「まさか。むしろ殺したがっていたよ」
「身内なのに、愛憎漂う間柄なのね」
「そう…なのか?」
浅葱側には一切愛情が無いような気がするのだが、これを指摘してはあの一件を…自分が腕を折るきっかけになった話をしなければならない。
新橋からしたら不名誉な一件なので、できるだけ隠匿しておきたい。
それに、恩寵を受けし者の過去に関わる話。
籠守の規則に、恩寵を受けし者の過去を知ってはいけない決まりがある。
浅葱のパターンのように既知の知り合いならば例外として処理をされるだろう。
新橋のように偶然聞いてしまい、月白から口外を控えるように言われている者も、もしかしたら知らないだけでいるのかもしれない。
…まあ、口外するなとは言われていないので、必要であれば口外するが。
ただ、噂話程度で知って…小豆が規則違反を受けるのは避けておきたい。
新橋は籠守としてではなく、籠守の整備士として勤めていた過去もある。
先代の時代…鳥籠の改革前。
———鳥籠が女人だけの世界になった原因も見てきている。
雀の専属になり、心を壊した籠守は何も小豆の前任者だけでは無い。
先代雀の時代にも、大量の死者を出していた。
それを知っているからこそ…。
「ところで、小豆」
「なにかしら」
「雀様とは、上手くいっているのか?」
「ええ。私と雀様、相性最強に決まっているじゃない!」
「それならいいんだよ。それなら」
あの心の弱そうな今代雀が一年以上続いている相手であり、雀の専属を勤め上げられる人物。
小豆という少女は、なかなかの逸材だ。
新橋が「椋の相手が唯一できる籠守」であるように、彼女も同様に「小豆の相手が唯一できる籠守」と言えるだろう。
「…専属、外されたりするのかしら」
「いや、その心配は無い。前回の人事編成同様、私も君も前回同様を与えられるだろう」
「やっぱり小豆と雀様が仲良し過ぎるからよね!引き離すのも訳ないと考えているらしいわ!」
「…そういうことでいいよ。そういうことで」
常にハキハキと胸を張りながら話す小豆は、新橋からしたら真逆の立ち位置にいるような存在だ。
「新橋も、前回同様椋様よね?」
「ああ。私自身が希望した。あの人の相手を勤め上げられるのは、私だけだろうからな」
「凄い自信ね。でも言えるのも分かるわ。貴方が専属に就いてから椋様のところも死人が出なくなったみたいだし」
「髪色以外ほぼそっくりだと、椋様が」
「浅葱に?」
「そんなところ。今ではあれと似ていると言われるだけで顔が引きつりそうだが」
「…全く似ていないと思うけど」
「それは助かるが…本当にか?嘘偽り無いな?」
「必死すぎよ…」
肩を掴んで、必死に確かめる新橋の形相を見て、小豆の顔も軽く引きつる。
小豆は不安そうにする新橋を宥めつつ、自らの意見を述べ始めた。
「でも、うん。小豆は断言できるわ。浅葱と新橋は全然似ていない。二人ともあまり関わりが無い身で言うのもなんだけどね」
「いや、それでもいいよ…」
「申し訳ないけれど、大雑把なところは似ているのよ?青系の髪だとか、目の開き方がぼんやり気味だとか、高身長とか…腕の筋肉がしっかりしているとか」
「言われてみれば…」
浅葱の腕っ節は軍属時代の賜物だろうが、新橋は整備士時代の賜物だ。
そこそこの力仕事を求められていたので筋肉はついているだろう。
籠守になる際に護身術を身につけた。腕には自信がある。
それでも浅葱と同じような代物ではないと新橋自身でも断言できる。
「顔つきが似ているかと言われたら違うし、双子とか姉妹とも思わないわ」
「助かるよ…」
「…こう言ったらなんだけど、椋様って浅葱似〜ってことで新橋を選んだのよね」
「ああ。そんな感じだ」
「そこまで浅葱に執着しているようで、浅葱のことよく見ていなかったんじゃない?だって外見のことばかりじゃない。本当に浅葱が良かったらあえて避けるわ。本物が一番だもの」
「確かに…」
「外側さえ似ている程度で良かったってことなら、別に浅葱じゃなくても…自分に都合が良ければいいってことなのかしら」
「…」
小豆の言葉に、新橋は息を呑む。
あの一件以降、盲目に椋を信仰していた新橋の視界も少しずつ、開けていく。
少しずつ、新橋は浅葱という存在に興味を抱き始めた。
それが、信仰崩壊の一歩だと分かっていながらも、彼女は真実を探り続ける。




