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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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11:雀と小豆

鳥籠に帰還した浅葱は、衛兵に声をかけ…事情を伝える。

彼女が鳥籠に足を踏み入れたと同時に、周囲の鈴が一斉に鳴り響いた。


これは「手の空いている籠守、至急入口へ集合されたし」の合図。

聞けば、手の空いている東雲以外の籠守が大体やってくる。

最も、東雲も気分がノったなら、気まぐれにやってきてくれるかもしれないが。


「ほう。お前の呼び出しか、浅葱」

「でたー。新橋。暇なの?」

「暇ではないが、ストレス発散ができるからなぁ。ノリノリで来た」

「尋問がストレス発散とか言い出す女、絶対お前ぐらいだよ」

「…そうでもないぞ?」


さて、最初に出会ったのは浅葱的に一番会いたくない籠守暫定一位の女こと新橋。

浅葱が折った腕の骨は添え木が外れたとはいえ、まだまだ安静にしていなければいけない状態ではあるのだが…彼女はスキップしながらやってきた。


「いやはや、お前がアイロンの一つかけられない間抜けだからなぁ…教育をしていたらストレスが溜まるんだよ」

「その説は申し訳ないねぇ」


浅葱の家事スキルが最低極まりないので、ここ最近は新橋が教育をつけている。

ちなみに浅葱はアイロンをまともに当てられないほどの家事スキルの保持者だ。

それをまともにするため、新橋は日夜浅葱の面倒を見ているとか…。


「そう思うのなら早く覚えて私の負担を軽くしろ。腕、まだくっついていないんだぞ」

「分かってるよ…あ、でも綺麗にくっつくよ」

「…綺麗に折っているらしいと聞いた。どこでこんな芸当を」

「軍属時代に、拷問と尋問を少々囓っておりまして。これくーちゃんには内緒ね」

「家事意外はわりとできるんだな、お前…」

「どや?」

「腹立つな。殴っていいか」

「安静にしてろよ怪我人。で、さっきの何?」

「さっきのとは?」

「だから、尋問をストレス発散にしてる女のこと。そうでもないって言っていたけど…」

「ああ…そろそろ主人と一緒に来るだろ」

「?」


浅葱の疑問に答えるように、その人物達は門の前にやってくる。


「罪人が運ばれてきたと聞いたのだが…新橋、その身で外出したのか?」

「いえ、私ではなくこちらの浅葱が…先日入った、金糸雀様の専属籠守です」

「お初にお目にかかります、浅葱と申します」

「あ、ああ…君が金糸雀のところの新人か」


茶髪の神を持つ女性の声は軽く震えている。

あえて低い声を使っているのだろう。それでいて不慣れな「男性らしさ」を意識した口調。

困った表情が隠し切れていない彼女こそ、まだ会ったことがない恩寵を受けし者。


「わたっ…俺は雀。恩寵を受けし者の一人であり、衛兵の指揮及び色鳥様とそれに連なる我らに対する反乱分子への対処を担っている、こちらは…」

「小豆は定期報告会で顔合わせが済んでいます。本題を進めていきましょ、雀様」

「そうか。では、お言葉に甘えて。その二人を牢屋に入れた後、事情を聞かせて貰いたい。話して貰えるか、浅葱」

「…構いません。が、条件をいくつか設けさせていただきたく」

「恩寵を受けし者に物申すのか。不敬が過ぎるぞ、浅葱」

「うるせ新橋。とりあえず、牢屋に運んでから…」

「条件を受け入れるかは内容次第だ。牢はこっちだ。ついてきてくれ」


雀の案内で鬱金と伽羅を牢屋に入れた後、浅葱は別室で雀と向かい合う。

小豆と新橋には、あえて外で待って貰った。


「…それで、君は俺にどんな条件をつける気だ?」

「まず、今回の二人は…籠守長である白藤と、恩寵を受けし者の一人である鴉羽様の両親に当たります」

「…なるほど。君が籠守二人を外させた理由は分かった」


浅葱が二人を外させたのは、恩寵を受けし者の過去に関わる話題が含まれているから。

自らは積極的に暴きにかかっていたが、本来暴くという点は禁忌に含まれる。

間接的に知ってしまった場合の処遇は不明だが、知るべきではないことは知らない方がいいだろう。

…浅葱的には、椋の正体をその場に居合わせた影響で知ってしまった新橋が無事だから大丈夫そうと考えてはいるが、何があるかわからない。

慎重に動く必要があるのは、彼女だって理解している。


「君の判断は正しい。それに加え、聞かせたくない話題が含まれているな?」

「ええ」

「君がつけた罪状は「恩寵を受けし者に不快な話を聞かせた罪」…初期の白藤は見ていられないほどの心神衰弱を見せていた。鴉羽を視認する度に激しい動悸を起こすものだから、月白に進言して鴉羽との接触を行わないように取り計らったのは懐かしい」

「そこまで…」

「鴉羽もよく白藤を…姉を求めて泣いていたのを覚えているよ」


雀だって九年間この鳥籠で過ごしている。

関わりが薄いとはいえ、少なからず恩寵を受けし者とは同じ時を過ごしている。

九年間、籠守を続けている月白と白藤だって同じような存在。

恩寵を受けし者と世話係の籠守。

その差はあれど、彼女の中では同じ屋根の下、共に過ごしている家族のような存在であることには変わりない。

彼女は公正な立場でいなければならない。

でも、今だけは…そうではいられない。


「その二人を産みだした両親が、まともではない事は理解している。受け入れる覚悟は…正直、ない」

「この話は、金糸雀様と鳩羽様も聞いてしまっています。本音を言えば二人に事実確認を行うのを控えてほしいのですが…せめて、金糸雀様だけでも、免除していただけないでしょうか」

「ふむ…二人への聴取は時間をおいてからと考えていた。特に金糸雀。彼女はかなり疲弊して戻ってきたと聞いている」

「権能を二回ほど、感情的に使用しています」

「…ほう。それほどまでの事が」


「更に言うなら、雀様にも聞かせたくない話です」

「俺は聞かなければならない立場だ。どんな不快な話でも。詳細に。そうしなければ、罰を与えることはできないのだから」

「…気分が悪くなったら、いつでも申してください」

「わかった」


鬱金と伽羅の言葉の数々を、浅葱は感情を押し殺しながら淡々と告げる。

こうして告げなければ、泣きたくなるからだ。

いくら戦場にいても泣けなかった過去は遠い。

今の浅葱は、感情が———表情が動く。

初めて鳥籠に来てから、面倒を見てくれた上司である先輩。

そんな彼女が隠していた過去を知り、心が揺れ動かないほど…浅葱は冷たい人間では無い。

雀も同じ。浅葱が声を震わせないように、意識的に淡々と告げる横で…胸を押さえ、自分の事のように涙を流し、嗚咽を漏らした。


「…あの」

「…あまりにも酷すぎる話で…話、中断させてしまって、申し訳ありません…」

「…普通の、反応ですよ」


子供の様に恐怖を感じ、泣きじゃくる雀をみて、逆に頭がすっきりして…席を立ち、彼女の背を撫でる。

華奢な幼子である雀の背には背負いきれなかったらしい。

ああ、どうしてこんな愛しい幼子が。こんな運命を背負わなければならないのだろう。

彼女が泣き止むまで、側にいて差し上げねば。

すずめさまのために、できることを、しなければ。


「雀様、大丈夫です。大丈夫です…」

「ごめんなさい…また、無意識に権能を…」

「権能なんて使われていませんよ。大丈夫です、雀様。ご安心ください」

「…早く抑えなければ」


雀の呟きは、権能の支配下に置かれた浅葱の耳には届かない。

雀の権能は「万物に愛される」こと。

彼女が権能を使えば、全て彼女の都合良く回り始める。

彼女自身が軍師や刑務官に向かなくとも———軍師として人々をまとめ上げ、刑務官として尋問役に徹するのには、理想的な権能なのだ。

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