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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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9:根源

それからも一行は港周辺を探索する。

珍しいものに目を輝かせ、事あるごとに浅葱におねだりする琥珀の後ろで、浅葱が悔しそうに職員札を出す様に鳩羽は腹を抱えて大笑い。

それを何度か繰り返し…そろそろちゃんと帰ろうかと話題に出た頃だ。


「ぐぬぬ…ツケ払いをしないと決めていたのに、くーちゃんの甘フェイスの前では敗北せざるを得ない…」

「完敗だったね、君…しかしなんでツケ払い嫌なの…?」

「鳩羽様知りません?かつてツケ払いを容認した店が、客に代金を踏み倒された挙げ句、借金まみれで廃業したって話。店主のお爺さんは過労で亡くなって、遺された家族は借金から逃げるために離散したそうです。怖いですよねぇ。一家全員死んだ身としては離散とか嫌すぎます」

「げぇ…それはなかなかきつい話だね…しかもそれ」

「未踏開拓軍時代、帰還したら必ず通っていた店だったんですよ。馴染みの店の話です」


「へぇ…食堂かい?」

「いえ、骨董品屋です」


「…なんで帰還したらそんなところに」

「商品自体はなかなか面白いものを取り扱っていましてね。くーちゃんが好きそうな感じの」

「ああ…」


少ない時間でも、琥珀が骨董品や珍しい品物が好きなのは鳩羽でも理解した。

小さい頃からこんな感じだったのだろう、とも。


「でも、基本は仕事ですよ。補充の必要があったので」

「補充というと」

「遠征の度に、何人か死にますからね。その骨董屋、奴隷商の仲介もしていまして…そういうことです」


未踏開拓軍が奴隷を求めたと言うことは、軍で奴隷を運用していたのだろう。

浅葱の顔も、鳩羽の顔ももれなく重かった。


「…君、なかなか難儀な仕事をしていたんだねぇ」

「調査も兼ねていましたので。ま、空振りでしたけどね」

「なんの調査だい?」

「元々私はご存じの通り、主にくーちゃんを探しにここに来たんですけど…他の恩寵を受けし者に関する情報も集めていたんですよね」

「ふむ」

「その骨董屋、娘が恩寵を受けし者って噂を聞きつけましてね。本名でも探って将来脅しの材料にでもしようかと…ま、意味のないことでしたけどね」

「何てことを考えているんだい…」


本名を探って脅しの材料にする案は無謀だ。

本名を暴いて損するのは籠守側のみ。

恩寵を受けし者に影響は何もない。


「でも、通い詰めたことで…店主のお爺さんには可愛がって貰いまして。葬式も唯一参加しました」

「ああ。家族離散しているんだったね…」

「で、ここからが本題なんですけど」

「唐突に来たね…」

「その娘さんの名前は教えて貰いました。煤竹というそうです。店主の真似をして一人称は「儂」」

「骨董屋の娘で…煤竹…」


鳩羽は恩寵を受けし者になる前の光景を思い返す。

色に詳しいわけではないが、煤のような色と言うことは華やかな色ではなく…濃く、渋みのある色のはず。

あの場に集められた面々で、その色に該当する少女は一人。


「その子が誰になっているか予想はついたけど、断言はできないね」

「私も同様です。できれば、鳩羽様には煤竹の正体を突き止めてほしい」

「…なぜ?」

「お爺さんの遺書を預かっているんですよ。少なからず関わりがあった方の依頼です。該当者が確定できたら、連絡をください」

「承った」


流石の鳩羽もこの依頼は引き受けなければならない。

独り身の鳩羽には、大事な人とのつながりと言うものはよく分からない。

だけど、思いは大事にすべきだと…理解している。

気持ちを通じた人は勿論、友人にも、そして…。


「見つけたわ、あなた!」

「ああ。彼女が金糸雀様かな」

「え、あ…あの…」


浅葱と鳩羽が話し込んでいる隙にうろうろしていた琥珀は、見知らぬ男女に囲まれた。

困惑する彼女の前に浅葱が素早く入り込み、夫婦を睨み付ける。

鳩羽もその後を追いかけるが…近づく度に、動悸を覚えた。

嫌な予感がする。


「失礼。貴方たちは?」

「ああ。籠守の方でしたか。私は鬱金と申します!家内の名は伽羅といいまして…」

「はあ…」

「恩寵を受けし者の一人、鴉羽の親に相当します!」

「…鴉羽様ということは」


かつて撫子が言っていたことを思い出す。

鴉羽は、白藤の妹。

つまり目の前にいる鴉羽の両親を名乗る二人は…白藤の両親でもあるのだ。


「白藤のご両親でもありますよね。お会いできて…」

「誰ですか、そいつ」

「私達の娘は菖蒲…鴉羽一人です」

「あんな出来損ない、知りませんよ」

「家族ではありません。他人です」


妙に勢いのある夫妻は、白藤の名を聞いた瞬間…感情を消失させる。

その反応に琥珀は怯え、浅葱も恐怖を覚えた。

浅葱は少なくとも、鴉羽という人物がどういう存在かは知らない。

けれど、白藤のことは少ない時間でも知っている。

面倒見がよく、優しくて聡明な籠守。

そんな彼女の親が、これだと浅葱は受け入れることができなかった。


「あんなゴミの事はどうでもいいじゃないですか!」

「どうでもよくないだろ…」

「娘は、娘はどう過ごしていますか?」

「健康でいますか?あの子、一人で生活できないから、籠守の皆さんが総出で世話をされているんですよね?」

「な、なんで…実の娘相手にそんなこと言えるの?」

「むしろそうであるべきだ。あの子は大事にされるべき存在!」

「親である私達が側にいられない分、丁重に…」


「まさか、あの出来損ないが世話をしているわけではないよな!」

「あんなのが一緒だと菖蒲の教育に悪いわ!今すぐ引き離して頂戴!」

「あのの出来損ないが…余計な事ばかり…」

「言われたこともこなせず、私達に恥ばかりかかせて…今もどこかで恥を晒しているのかしら。ああ、おぞましいったらありゃしない」

「早く死んでくれたほうがいいんだがなぁ」

「殺すのはねぇ。罪に問われるのは嫌よ」

「野垂れ死んでほしいんだがなぁ」

「だから面倒を見るのもやめたのに、台所のゴミを食べて生きていたのよ?」

「穢らわしいな…」


つらつらと当たり前の様に述べられる、白藤への暴言。

浅葱も琥珀も、親から沢山の愛情を受けた自覚はある。

数多の感情を与えられた自覚も、ちゃんとある。


でも、こんなものは知らない。


親から敵の様に恨まれ、呪いの様に刻まれる言葉の数々。

ここに白藤がいなくてよかった。


…いや、違う。


これを毎日、白藤は聞かされていたんだ。

その答えに、浅葱と琥珀の二人が辿り着くのに時間はかからなかった。

これ以上。

これ以上聞いていたら、おかしくなりそうだ。


「金糸雀様…正直言うと、私は貴方に権能を使ってほしくない。けれど、これは———っ!」

「分かってる。これ以上は聞くに堪えないから…!」


涙を流しながら、琥珀は権能を行使する。

「鬱金、伽羅。私達が立ち去るまで口を閉ざして…!」と———。


その様子を、鳩羽は遠目で眺めることしかできなかった。

そして空間が静寂に包まれた後に、悔しさで歯を食いしばった後、ゆっくりとその先へと進む。

白藤が受けた呪いの根源と、向き合うために。

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