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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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8:帰る前にお買い物

市街地の港エリアに到着した三人は、その賑わいに感嘆の声を出す。


「着いたよ」

「わぁ…!」

「…」


鳩羽の案内を受けつつ、琥珀ははしゃぎ…浅葱は目を泳がせながら港エリアを進む。


「二人は、ここに来たのは初めてかい?」

「うん。海ってなんか…思っていたより…磯臭いね…」

「そういえば、くーちゃんは海初めてかも。ほら、うちは山間部の田舎村だからさ」

「ああ。だからこの落胆…」

「なんか、こう、もっと…」

「砂浜に行けば何か違うかも。元気になったらリゾート地への外出でも申請してみようよ」

「うん…」


海にどんなイメージを抱いていたのか、琥珀は思ったのと違うと言うように肩をすくめ…しょんぼりとした表情で浅葱に手を引かれる。

それに加え、港エリアは基本的に魚市場状態。

磯の香りに魚特有の生臭さも充満している。

それらは琥珀の落胆に拍車をかけていた。


「浅葱は初めてじゃないのかい?」

「遠征で何度か。船に乗ることもありましたね」

「船旅!いいねぇ」

「よくない…終始揺れるし。酔って吐くし。それに船が沈没したらどうしようもない…」


なんだかんだではしゃいでいそうな浅葱は鳩羽の予想とは真逆の反応を浮かべる。

青ざめた顔で海を眺めている彼女の様子が気になって、鳩羽は琥珀へ耳打ちをする。


「…あの怯えようは?」

「あーちゃん、泳げないから…」

「意外だね…」

「でしょう?昔、泳げないってわかっていながら川に飛び込んだことがあってね。その時に溺れちゃって」

「…はい?」

「流石にそれで堪えたみたいで、足のつかない水辺が苦手なの」


「…あの子、アホなの?」

「…ちょっと変な方向に思い切りがいいだけ。籠守の試験も十一位で落ちたぐらいだし、ちゃんとあーちゃん賢いから!本当!」


琥珀の必死なフォローに、鳩羽も笑みを浮かべるしかない。

ただ、浅葱への認識は若干変えた方がいいかな…とは、心の中で考えてしまった。


やっぱり浅葱は猟犬ではなく、駄犬ではないかと。


◇◇


目的の白身魚を購入した一行は、帰る前に少しだけ遠回りをして…港周辺を見て回る。

特に、こうした買い物を久々に行う琥珀のはしゃぎようは、見守り役に徹し始めた鳩羽からしたら愛らしさを感じるものだった。


「見て、あーちゃん。星の砂だって」

「え、ただの砂じゃん…」

「…浪漫がない。ほら、よく見て。ちゃんと星形になってるでしょ?」

「でもそれが…」

「可愛いでしょ?」

「…カワイイカモ」

「でしょ。すみません。これ、青と黄色で一つずつ〜」

「あいよ〜。おっ、仲良しさんか〜。ラッピングサービスしておくよ」

「え、でも…そんな。有料の」

「いいんだよ。思い出作り。彼氏さんと都市の観光に来たんだろ。サービスしておくよ」

「かれし…?」

「ほら、一緒の…」


店員のおばさんが指さす先には、変な仮面を眺めている浅葱。

琥珀は自分が何を言われているか自覚し、俯きつつ…ぼそぼそと…髪を弄りつつ、複雑な中でも嬉しさを滲ませながら、事実を伝えてみる。

「あ、あーちゃんはそんな…恋人とかではなく…」

「そうなのかい?けれど、それの一歩前だろう?」

「そ、そう見えますか…?」

「ああ。さっき商品を選んでいる時も特有の空気が…」

「〜〜〜〜〜!」


特有の空気というものがどんなものか分からない。

けれど店員さんの言葉に琥珀がいい反応を返すため、店員さんと鳩羽も笑みが零れてしまう。

なお、浅葱の方は…。


「鳩羽様、この仮面滅茶苦茶良くないですか?」

「どこの文明の仮面で喜んでいるんだい。もう少しいいものを…」

「どうしました?」

「あ、いや…この髪飾り…石で富士を作っているんだなと」

「あー。立体的にできていますよね。せっかくですし、白藤にどうです?名前にもちょうどいいし、色合いも彼女に合いますよ」

「そうだね。白藤は、紫が映える」


手に取った藤の髪飾り。

鳩羽の中でそれを身につけた白藤の姿を想像するのは簡単だった。

彼女の白髪には、よく映えるだろう。

けれど、髪飾りを贈る程に二人の関係は深くない。

むしろ白藤から重いと思われる可能性だって…ないこともない。


「ここでさりげなく自分も似た意匠のものを買っておくんですよぉ…」

「あ、ああ…なるほどね。しかし、僕に藤はあまり…」

「そうですね。全身紫ですもんね。藤の髪飾りなんてつけたら一体化しますよね」


「せめて恩寵を受ける前だったらねぇ」

「あ、やっぱりくーちゃんみたいにかつての色が…」

「まあね。僕も白髪ではあったから、元に戻ればこれも似合うんだろうけど…」


戻れる保証は、どこにもないからね。

いつになくしんどそうな顔で、作り笑いを浮かべた鳩羽は作り笑いを浮かべながら、そう告げた。


「あ、あーちゃん。お財布…」

「え。ああ…大丈夫大丈夫。予算はちゃんうん!?」


鳩羽の言葉の続きを聞く前に、琥珀から助けを求められた浅葱は彼女の元へ向かう。

恩寵を受けし者になった琥珀が財布を持ち歩いているわけがない。

鳩羽みたいに元々外出が主になっている存在が、白藤からお金を預けられている場合もあるが、基本的に恩寵を受けし者の財布は籠守だ。

それに倣って浅葱も財布を取り出すが…表示されている桁がおかしい。


「特殊な砂だからねぇ。お値段はなかなか…」

「申し訳ありません。今、手持ちがなく…こいつでつけておいてください」


浅葱は職員札をさりげなく提示し、自分の身分を証明する。

これの使い方を聞いた時は抵抗があったが…まさかツケ払いをお願いする目的で提示するのが初回になるだなんて思っていなかった。


「はいはい。え…貴方、お兄さんじゃなくお姉さん!?しかも籠守!?」

「請求書が到着次第、予算の方でお支払いさせていただきます。金糸雀様、それでよろしいですか?」

「勿論です。すみません。本来ならその場でお支払いをしなければならないのに…」

「金糸雀様ご本人…」

「今はお忍びで…だから、あまり大きな声でいうのは」

「承りました。浅葱殿のサインを頂いた後に、色鳥社の方へ請求書を送付させていただきます」

「お手数をおかけいたします」

「いえいえ。金糸雀様、浅葱殿。今後ともいい商品を取り寄せますので、今後ともご贔屓を賜ることができればと思います」

「是非。星の砂だけではなく、目移りするものが沢山ありましたので。また商品を見させてください」

「ありがとうございます」


丸く収まり、店員さんと和やかな会話を続ける琥珀と浅葱を見守る鳩羽の視界の中に、ある髪飾りが目に入る。

藤の髪飾りと同じもので…それでいて、馴染みのある花の意匠。


「店員さん、僕にはこれを」

「あ、ああ。ありがとうございます。ラッピングは如何なされますか?」

「梅の方に、贈答用ラッピングを。藤の方は、自分用に」

「承りました」


不思議な洗濯をした鳩羽に、浅葱がささっと寄り添う。


「…なんで梅が贈答用なんですか?」

「なんとなくだよ」


浅葱が首を傾げる横で、琥珀だけが笑う。

彼女は鳩羽の本名が「白梅しろうめ」だと言うことを知っている。

だからこそ、贈答用に白い梅の髪飾りを選んだ鳩羽の事を…可愛く思えてしまうのだ。

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