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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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7:市街地の三人

鳥籠を囲う森を抜け、しばらく歩いた先にある市街地。

そこが今回の目的地だ。


「さて、せっかく本名を知ったし、僕もそちらで呼ばせて貰おう。琥珀」

「なあに?」

「僕と手を繋ごうか」

「えっ…」


鳩羽の急な提案に、琥珀が軽く狼狽える。

それを見た浅葱は眉間を軽くヒクつかせつつ…鳩羽と琥珀の間へ瞬時に入り込んだ。


「鳩羽様。くーちゃんと手を繋ぎたければ煮沸消毒をお願いします」

「それはなんかただれちゃうね」

「ただれてんのはあんたの心だっ!」

「いうねぇ」


「全く。白藤一筋みたいなことを言いつつも、くーちゃんに手を出すかっ…!油断も隙もないな…!」

「それは誤解だね、浅葱。僕が特定の相手がいる人を口説くと思っているのかい?」

「事実口説いているじゃあないかっ!」

「おや。おかしいね。僕が集めた情報では…琥珀はまだ特定の相手はいないはず。金糸雀になる前も、結婚を約束した相手はいなかったと資料には書かれていたよ」

「そ、それは…」

「そんなことまで調べられているの!?」


恩寵を受けし者は事前に権能の受け皿になれる才があるか調査をされている。

琥珀や鳩羽になる前の少女だけではない。全ての恩寵を受けし者が対象だ。

強いて言うのなら、新生児時代に権能を授かる朱鷺だけが例外となるだろう。


「色鳥社の情報機関もだけど、僕の情報網も舐めないでほしいね」

「ぐぬぬ…」

「それで浅葱。君は琥珀の何だと言うんだい?特定の相手と言える間柄なのだろうか」

「し、親友で幼馴染!」

「それは特定とは言い難いねぇ。そういうのは恋人や婚約者、夫婦になってからいうものではないかなぁ〜」

「それはなんか、まだ違うと…」

「ほぉう。“まだ”と来たか〜」

「あ、あーちゃん…」


浅葱が盛大に掘った穴に引っかかるのは浅葱だけではない。

琥珀もついでに引っかかり、言葉の意味を意識して…紅潮していた。


「あっ…ああ…だめだこれ以上は墓穴を掘る羽目になりそう…」

「もう掘り終えた上に、入りこんでいるけどね〜」

「もう黙っとく…」

「あはは。可愛いねぇ」


項垂れる浅葱の頭を冷静になった琥珀が撫でる横で、鳩羽はこっそり琥珀へ耳打ちしておく。


「必要な情報があればいつでも頼ってね、琥珀?」

「う、うん。ありがとう、鳩羽さん…。それで、手を繋ぐ理由とは?」

「ああ。僕の権能だよ。周囲に溶け込む権能、手を繋げば同行者にも作用させることができるんだ」

「「そういうのは早く言うべきじゃない…?」」

「からかい甲斐があって楽しくてさぁ。ごめんごめん。浅葱はどうする?」


「上着脱げば私服だし、私服で行動するよ。今回は鳩羽様にくーちゃんを一任する…非常に悔しいけどね!」

「任された。琥珀もそれでいいかい?」

「そういう事情なら…それよりも」

「どうしたのかな」


「…あーちゃんの私服、どんな感じなんだろう。凄く楽しみ」

「君達ってやつは…」


特別な関係ではまだないけれど、間に漂うのはそれと同じ空気。

間に挟まる鳩羽は、それを羨むことしかできなかった。


◇◇


浅葱の私服は至ってシンプル。

愛用のワイシャツに、深い青のベスト。

動きやすさにこだわりパンツスタイルをセレクト。

ネクタイは緩く身につけ、ラフさを演出。

これで完成。普段ならこれでいい。撫子も納得してくれた浅葱十八番のお洒落スタイルだ。しかし今回は、この格好が問題を生んでいる。


「あら、あの人達…」

「真ん中の子の護衛かしら…」

「格好いいわぁ…」


浅葱の身長は172cm。ちなみに鳩羽は170cm。

どちらも女性としては高い部類に相当する。

それでいて鳩羽は男装を主に行っている。

仕事の都合とはいえ、基本的にそう見えるように所作を洗練させており、格好もそう見えるように丸みを違和感なく消す衣服を着用している。


対して浅葱は未踏開拓軍時代に培った体格が武器。

作らなくても恰幅がいい彼女は、表情が変わらないことも相まって、普通にしていても立ち姿やオーラが彼女を女性だと認識し辛くさせている。


「…二人とも、顔面のオーラしまって」

「無理かも〜」

「無理だね〜」


間に立つ華奢な金糸雀の存在もあり、鳩羽の権能が上手く作用せず…人目を集め続ける。

どこからどうみても上流のお嬢様とその使用人、そして護衛の組み合わせになってしまっているのである。


「あーちゃんの私服、超かっこいいんだけど…格好いいんだけどぉ!」

「ありがと、くーちゃん」

「いいんだよ。でも、その格好で居続けたら、あーちゃんの格好いいところが全世界にバレちゃう…!」

「大げさだなぁ」

「本当だよ…」


その姿はまるで恋する乙女のように、浅葱の姿を見て悶える少女の姿。

それを軽く受け止める浅葱も口元が緩んでいる。

鳩羽からしたら、そんな些細な時間でさえも羨ましいと…何度も感じてしまう。

自分も、白藤とこんな会話ができたなら…と。


「どうして、その服のセレクトを…」

「スカートとかワンピースとか全然似合わないって言うか、体格に合うやつなくてさぁ。基本的に男物かオーダーメイド。鍛えすぎた弊害だね」

「大変だね…でも、僕でも着られる女性服はあるわけだし、浅葱にも…」

「身長はクリアしても、肩幅がどうしてもさぁ…。着たい服はあるんだよ。本当本当」

「「あぁ…」」


落ち込む浅葱に、琥珀も鳩羽も慰めることしかできない。

鳩羽も同じように着たい服が身長に合わなかったことはよくある。気持ちは理解できる。


「あーちゃん」

「どうしたの、くーちゃん」

「今度私と可愛いの…オーダーメイドしよ?」

「もちのろん!」

「やった!」


「君、琥珀が来てる服の系統が好きなの?」

「いや、できれば泥が付着しても許される服がいいですね」

「完全に犬…」


「でも、くーちゃんがお揃いを着たいって言うのなら、叶えたいじゃないですか。私に似合うかどうかは別として」

「…そこは、彼女も考えているんじゃないかな」

「私もそう思うので、後はくーちゃんに任せてみますよ」

「そうかい」


「鳩羽様は?白藤とはそういうの」

「僕は…結局のところ君達のように特別に片足を突っ込んでいるわけではない、ただの片思いだからねぇ…」

「いや、プレゼントとかでさりげなくお揃い作戦ですよ」

「…天才か、君」

「こういうことに関しては、頭が回るもんでして」


未踏開拓軍時代。

生と死の狭間で、異性愛も同性愛も蔓延る環境に身を置いていた浅葱は、唯一誰にも興味を抱かず、純粋に「幼馴染に会いたいんだ…」と言い続けた結果、なぜか相談を持ち込まれることが多く、こういうことに関してはアドバイザーとも言える戦果も出している。


まあ、自分の事には疎いが。


「君の意見に乗った!」

「健闘を祈ります」


鳩羽に知恵を吹き込みつつ、一行は目的地へと進んでいく。

目的の店があるのは、港エリアだ。

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