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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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6:金糸雀と鳩羽

鳩羽は鳥籠の外に出るため、金糸雀を連れ、鳥籠の門前に向かう。


彼女を始め、恩寵を受けし者の外出には条件が二つある。

一つ目は許可を取ること。鳩羽はこれをクリアしている

二つ目は籠守の同行。専属でなくてもいいので、とにかく籠守を同行させることが必須だ。

金糸雀はまだ許可を取っていないので、自分の外出許可と共に浅葱が申請してくると駆けていった。

今は、彼女の帰りを二人で待っているところだ。


「しかしいいのかい、金糸雀」

「いい、とは?」

「君、出歩けるようになったとはいえ…外は広いよ。杖をついている現状で、外出は問題ないのかなと思ってね」

「たまには、外の空気を浴びたくて。ごめんなさい、我が儘を聞いて貰って」

「構わないよ。外の空気を浴びるのは君の体調にもいい影響を与える。この程度、我が儘の一つにも入らないさ、お嬢さん?」


「…鳩羽様は」

「敬語も敬称はなくていいよ。年上ではあるけれど、僕らは同じ立場だからね。あの時だって敬語なしに呼び捨てだっただろう?」

「それでも…ええっと、あの時は…鳩羽さん」

「君の譲歩ラインはそこか。いいよ、それで。どうしたの?」


「鳩羽さんは、男性みたい。振る舞いとか、言動とか…所作も、男性を意識しているの?」

「そうだよ。僕が以前、過ごしていた環境ではこの方が楽でね。それに今も仕事をする上では、男装の方がいいんだ。よくわかったね、金糸雀」

「昔、よく見ていたから」


「以前は社交の場に出ることが?」

「一応、田舎村だけど、村長の娘という立ち位置だったから」

「いいところのお嬢さんなんだね」

「そんな。普通の家庭…」

「両親が揃って、屋根のある家で、食事に困らず暮らせる。君にとっては普通だろうけど、僕にとってはとてもいい家庭だよ」

「…確かに、そうかも」


「嫌味に聞こえたらごめんね」

「いいえ。確かにその通りだと思う」


金糸雀は目を伏せて、いつも隣にいる彼女を思いながら言葉を紡ぎ続ける。


「身近な人は、産まれてすぐにお母さんと引き離されて、お父さんは…死んじゃっている。両親が揃っていること、私の無事を今も願っていること…全て、幸せなことだと思うから」

「…浅葱のことかい?」

「そう。あ、そうだ。あの時はありがとう。権能の…お礼を伝えていなかったから」

「構わないよ。その様子だと、上手く使えたみたいだね」


「うん。あの…私に情報と本名を教えてくれたのって、浅葱が取引相手の」

「それもあるけれど、あの時言ったとおりだよ。僕は将来君に恩を売っただけ」


「何か、困っているの?」

「…ふむ。そう見えたかな」

「今日の買い物だってそう。貴方には白藤がいる。それなのに、浅葱に頼った。彼女にサプライズって空気でもない」

「どうしてそう言い切れるのかな」

「今の貴方の顔は、過去の私と同じだから。大事な人が側にいなくて、寂しげな顔…」

「…本当によく見ている」

「図星?」

「ああ」


「白藤は、貴方にとってどんな人?」

「大事な人。君にとって、浅葱のようなね」

「…」


金糸雀の顔が、真っ赤に染まる。

その愛らしさに鳩羽も笑みが零れるが…今の白藤の様子を思い返すと、素直に笑うことができなかった。


「できること、あったら言ってね。権能で動きを止めたりとかできるから…」

「もしもの事があれば、よろしくお願いするよ」

「うん。失いたくないもんね。大事な人なら、なおさら…」


金糸雀は目を伏せ、静かに鳩羽へ向き合う。

彼女が何をしたいのか、あの時はわからなかった。

自分の本名を、情報を売ってまでしたいことは…白藤を——―大事な人を守るため。

それがわかれば、金糸雀が抱いていた鳩羽への疑念は消えていく。

そして同時に、彼女に助けられたように…自分も鳩羽の為に何かをしたいと願えた。


「琥珀」

「ん?」

「私の本名。琥珀。教えて貰ったのに、私が教えないのは不平等でしょう?」


背中を押すように、風が吹き渡った。

新しさを運ぶ風は、金糸雀にも、鳩羽にも等しくやってくる。


「取引は、平等じゃなくっちゃ。そう思わない?」

「そうだね。その通りだ」


「く、金糸雀様。許可摂れたよ。出発できる」

「ところで、浅葱が呼んでいたくーちゃんって…」

「こはくのくーちゃん」

「なるほどね。でも、これは二人の呼び方かな?」

「そんなところ」

「特別なのはいいねぇ。僕も白藤のこと、しらちゃんって呼ぼうかな」

「それじゃあ貴方もしろちゃんにならない?」

「それもそうだね…名前が似ていると厄介だな…」


「二人で何話してるの?」

「「うちの籠守は可愛いなって話」」

「照れるなぁ〜。と、いう冗談は適当に受け流して、出発しよう。疲れたら言ってね、金糸雀様」

「うん」


外での呼び方に切り替えた浅葱は、金糸雀の手を取りながら門の外に出る。

鳩羽と浅葱からしたら、数日ぶり。

金糸雀からしたら九年ぶりの外へ、足を踏み入れた。

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