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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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5:鳩羽と愉快な猟犬

「あしゃぎー!」

「うわっ。出た」

「あーちゃん…」

「流石にそれは不味いわよ…」


自室から金糸雀の部屋に移動した鳩羽は、金糸雀の籠守…浅葱の元へ訪れる。

鳩羽が一番頼りやすく、信頼が置ける籠守は白藤一択ではあるのだが…それ以外となると、予め月白に雇われていることを伝えられている浅葱が信用に値する。


未踏開拓軍の猟犬…その噂は鳩羽も知らないわけではない。

未踏地に潜む大型魔物や危険指定魔物を単独で討伐し続けた軍人。

その戦績も知っているからこそ、正直会うのが怖かった。

鳥籠着任時も、教育係を担当する白藤を単独で会わせたくなくて「お出迎え」という行動にも取ったわけだが…。


「で、鳩羽様。何用で?私今、くーちゃんに「いいこ、いいこ」されてるところなんですけど」

「君には羞恥心なるものがないのかい?」


…未踏開拓軍の猟犬は、鳩羽が想像していたよりも穏やかだった。

むしろ、アホ犬の方が近かった。


「いやぁ。くーちゃんに頭を撫でられる至福に対して羞恥心なんて抱くわけがないんですよねぇ」

「…全く。ところで、そちらにいるのは撫子かい?」

「は、はい。鳩羽様」


金糸雀と浅葱が一緒にいた相手は撫子。鴉羽の籠守だ。

新米時代の浅葱と同期らしく、萌黄新橋コンビの様に自由時間でも仲良く過ごしているところをよく見ていたが…。

鳩羽自身、知っていたとしても金糸雀を交えての団らんを過ごしていたとは想定外だった。


「そういえば…鴉羽、君がいないと水が飲めないらしくて、先程会った時は水路に顔を突っ込んで水分補給をしようとしていたよ」

「げぇ…」


「浅葱達との時間も大事だろうけど、戻った方がいいのではないかな」

「そ、そうですね!教えていただきありがとうございます!浅葱、私戻るから

!金糸雀様も、またね!」

「またねなでしこ〜」

「またね」


慌てて鴉羽のところに戻る撫子を見送る中、鳩羽はふと浅葱の方へ目を向ける。

まだ「いいこ」は続行中らしい。


「…ところで、それに至るまでに何があったのかな」

「さっきまで三人でトランプで遊んでいたんですよ。私が一抜けしたので、敗者のくーちゃんに当たり障りのないお願いをしまして」

「それが、これというわけです…」

「君も災難だね、金糸雀…まあいい。その呼び方をしていると言うことは、君は目的を果たしたわけだね、猟犬」

「…ふむ」


鳩羽にそう呼ばれた浅葱の眉間が小さく動く。

それから名残惜しそうに金糸雀の手を何度か触った後…ゆっくりと起き上がった。

その目はもう、癒やしを享受する駄犬の目ではない。


「くーちゃん。名残惜しいけど仕事の時間らしい」

「…仕事?」


撫でられるのをやめ、浅葱は呆けた空気を内側に押し戻す。

そしていつも通り、どこかつかみ所のない立ち姿で、金糸雀を守るように鳩羽の正面に立つ。


「その呼び方をしてくると言うことは、やっぱりあんたが情報屋?」

「如何にも」

「あ、あーちゃん。一体これは…」


状況が掴めなくて狼狽える金糸雀を一瞥し、浅葱は鳩羽に「少し待て」と合図を送る。

それから、金糸雀の前に跪き…簡単に事情を説明した。


「私が月白殿に手招きされてここに来たのは話したよね」

「うん」

「同時に手招きされたのは露草殿。それから他に、月白殿の協力者として「情報屋」がいるとは聞いていた。必要な事があれば、月白殿を通じて調べさせるとね。最後まで会うことはないだろうと思っていたけれど…まさか直接接触してくるとは思わなかったから…」

「あーちゃん、わりと大変なことに巻き込まれていない?」

「いや、大丈夫。死ぬような現場じゃないし」

「それはそうだけど…」


「心配してくれてありがとう。君と再会できたのも、この取引があったからだから」

「けれど、君の目的が果たされても…取引が終わったわけではない」


「そうだね。それで、君は何をしてほしいのかな」

「…至って簡単なことさ」

「そういって、私に人一人暗殺してこいとか」

「それは私が絶対に許しませんからね…!」


「…いや、そんな物騒なことじゃなくて。一緒に市街地へ買い物に出てほしいだけなんだけど…」

「は?」

「…はい?」

「…」


情報屋、取引、何もかも物騒なことを連想させるワードの後にやってきた、ありふれたお願い。

呆けた浅葱と金糸雀は互いに顔を見合わせる。


「だから、一緒に買い物へ出てほしいんだけど」

「「もう一回」」

「だから、買い物に…」


「本当に、殺ってこいとかそういうのじゃなくて?」

「私が聞くのもなんだけど、本当にそれがお願いなの…?」

「本当にお願いだよ!?君達はどうして変な方向に話を持っていくんだい!仲良しか!」


「仲良しだって、くーちゃん」

「仲良しだって、あーちゃん。当たり前だよね〜」

「…どうして普通に買い物に行くってお願いだけでこんな苦労を。前振りか?前振りがわるかったのか?」


変な方向に脱線していく二人の横で、鳩羽は自分の行動を省みる。

意味深な行動は、今後控えようと…心に刻んだ。

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