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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第二章:鳩は随伴の帰郷を願う
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3:優秀な姉、天才の妹

鴉羽が鋭い目で鳩羽を睨み付ける。

白藤によく似た目元。彼女に憧れて伸ばしたであろう髪は、今の白藤と同じ髪型にされていた。

たとえ色が変わっても、姉妹であることは変わらない。

外見でそう訴えかける彼女から鴉羽は目を離さず、声をかけた。


「で、君はどうしてここに?」

「…わた、僕の籠守が戻らないから探しに来ただけだ。職務放棄をして」

「…まあ、探すのは自由だろうけど。なぜ水路に顔をつけようと?」

「あ、あいつは小さいからな。水路に潜り込んでいるかもしれない」

「…喉、乾いたの?」

「そそそそそそそんなわけないだろう!私とて水一つコップに入れられないぽんこつではないわい!」


鴉羽の焦りに、鳩羽は内心「図星か…」と、思い…目を細めてしまう。

かつて白藤が語った鴉羽…菖蒲という少女の話を鵜呑みにするのならば、彼女は天才が故に、回りから手厚い世話を受けてきている。

雑事をする暇があるのなら、学びにその時間を使ってくれというように。


だから、日常的な動作…例えばコップに水を淹れるだとか、手を洗った後はタオルで手を拭くだとか。

そういう“当たり前”の事ができない傾向にあるらしい。


鳩羽としても嘘としか思えない話だったが、他でもない白藤の語ることなのだ。

信じてはいたが…こうして、奇抜な行動を目撃すると、頭を痛めてしまう。

目の前に広がる光景が、嘘であって欲しいと切実に願ってしまう程に。


(…こういう点では、鴉羽も可哀想な子供ではあるんだよな)


白藤は親からの愛情を受けなかった姉。

鴉羽は親から庇護されすぎて当たり前を得られなかった妹。

どこまでも対照的で、どこまでも交わらない。

けれど、二人はこんなところで巡り会ってしまった。

交わらない原因となった両親の知らない場所で。


「で、僕の身の上話はいいだろう。問題は姉様だ。姉様はなぜそんな虚ろな状態なんだ」

「…君には関係ないよ」

「関係ないわけがないだろう!私は姉様の妹だ!家族なんだ!」

「九年間、それ以上まともに会話すらしていなかった人間が、家族だって。笑わせるな。この子の痛みを知らないままに生きてきたくせに」

「…それは姉様も同じだ。私がいくら声をかけても、無視を続けられた。苦しくないわけないだろう」

「…」


確かに白藤は鴉羽を無視し続けていた。

理由は分からないが、鴉羽を見ただけで恐れる彼女の性質は九年経とうが変わっていない。

菖蒲の名を聞くだけで、未だに身体が硬直するのだ。

その疑問を問うと、白藤は動揺して、酷い時には嘔吐や気絶までしてしまう。

だから鳩羽も鴉羽の話題にはなるべく触れず、彼女には合わせないように図っていた、

けれど鴉羽は、そんな白藤の意中を察することなく、何度も会おうと図ってきた。

全て無視した結果は、積もり積もってこんなところで爆発するらしい。


「私達が親だと呼ぶべき人物がしてきた所業のことは理解している。幼子だった私が姉様の実情を理解していなかったのも、自分の中では理解している」

「…じゃあ」


「しかし私が姉様の妹であり、この九年、密かに姉様の身を案じていた事実は変わらない」

「…何が言いたい」


「私は姉様が普通の乙女子らしく笑えているから、お前の側にいることを許していた。しかし!現状の姉様を見たら私の判断は大いに間違っていたことを痛感させられた!」

「だから、変えろと?」

「姉様を自由にしろ。私の籠守でなくてもいい。姉様がお前の側から離れることができれば、姉様は元に戻るだろうさ」

「…そんなわけがないだろう。今の白藤に必要なものは」

「穏やかに過ごせる時間だ」

「そんな綺麗事で済むわけがないだろう、このお花畑が…っ!」


今の白藤に必要なのは、認める事。

どうしてあの日、あんな行動をしてしまったのか。

その発想に至るまで、白藤は何を考え、どんな結論を出したのか。

その全てに答えを出し、自分の中にある感情を認めること。

たとえその答えが出た先で、自分が切り捨てられようとも…鳩羽は白藤に自分の感情の答えを導き出してほしいと願っている。


しかし、鴉羽の考えは違う。

そんな綺麗事で白藤が元に戻るのならば、とうの昔にやっている。


「…」

「白藤は、君には渡さない。僕が必ず取り戻す」

「お前にできる訳がない。姉様を」

「この世で一番白藤がどんな女の子か知り、彼女の全てを愛しているのは僕だ。お前みたいな家族という枠に執着し、白藤を姉としか見ていないガキに、白藤は渡さない!」

「…」


「せめて、白藤を白藤と見るところから始めろ」


白藤の方を抱き、鳩羽は自室への道を歩き出す。

鴉羽の横を通り過ぎ、しばらく。

後方から、鴉羽が荒い声を上げた。


「私は九年前、姉様と共に過ごせる時間を奪ったお前のことが心底嫌いだ」

「嫌いで結構。僕もお前のことが嫌いだよ、菖蒲。白藤に縋るだけ縋って、白藤の傷を見ないお前のことが…心底嫌いだよ」


そう言い捨てるために振り返った先には、九年前と同じく…今にでも泣きそうな鴉羽が立っていた。

鳩羽はそれから目を逸らし…白藤を連れて自室への道を歩いた。

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