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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
3/40

3:花鶏と露草

一方、中央広間に戻ってきた白藤はそこで待ち構えていた鳩羽と合流する。


「おかえり白藤〜」

「ただいま、戻りました。鳩羽様」


白藤に強要しているため口ではないということは、中央広間に第三者がいるということなのだろう。


「よっ、新米籠守長」

花鶏あとり様、露草つゆくさ殿」


鳩羽も白藤も彼女達の登場に、胸を安堵させる。

恩寵を受けし者———花鶏は十人の中でも癖がない良心的な存在だ。

しかし権能の影響で鳥籠に留まることはできないので、籠守と共に延々と旅をしている。

鳥籠に戻るタイミングもまちまちであり、戻っていても会えないことの方が圧倒的に多い。

九年の内、何度か帰還していたらしいが、白藤が花鶏に会えたのは鳩羽の専属になった九年前以来の話となる。


「あ〜。白藤ちゃんだっけ〜。こんにちは〜。鳩羽は久しぶり〜」

「久しぶり、花鶏。珍しいね、君が帰って来るだなんて」

「うちの前任籠守ちゃん、人事異動で鳥籠を出ちゃうからさ。今回は交代の為に帰還したってところなんだ。ごめんね、指定時刻に戻りたかったんだけど」

「怪我の療養で数週間遅れる旨の便りは届いておりました。お気になさらず。それよりも、如何ですか。新任の様子は」

「まだかな。うちは旅をしながら相手を知る方針だから。まあ、露草はうちが指名したし、今までよりは気楽に過ごせると思う」


花鶏が色鳥から与えられた権能は「無限の持久力」

権能の影響で、常に体力が湧き上がってくる彼女は、一ヶ所に留まっていると体力を消費しようと暴れ出してしまう。

その対策で、籠守と共に世界を放浪し続け、体力を消費し続けている。


しかし無限の体力があるのは花鶏のみ。同行している籠守には存在しない。

花鶏は他の面々のように問題行動を起こさない。大半の籠守は花鶏の冒険家としての活躍を知っているので、花鶏の専属になりたいと希望する。

それでも花鶏の籠守は代替わりが激しい。彼女の持久力に、ついて行けないから。


花鶏は今回の人事異動で、金糸雀同様籠守を自ら選んだ。

露草は彼女の希望で籠守に異動し、彼女の専属となった経緯がある。


「露草殿は、未踏開拓軍に属していらっしゃったんですよね」

「ああ」


未踏開拓軍———この世界の端に存在する色鳥の力が及んでいない“未到の地”での探索を専門とした小隊の総称だ。

現在、鳥籠で籠守をしている職員では、露草と浅葱が以前そこに属していた。

想像もつかないような劣悪な環境で、毎日地図を描き、襲い来る異形と戦い続けているそうだ。

死に急ぎか、露草のように戦場でしか生きられない人間か、浅葱の様に短期間で多くの成果を獲得したい人間が行く場所として、色鳥社の職員内では有名な部署だったりする。


「前の生活だと寝ずに戦闘なんざ毎日。泥と緑の血で顔を洗ったこともありますね。おかげで体力に自信はつきましたが」

「えぇ…」

「あ?」

「きゅぅ!?」


鳩羽は内心を隠せず、引き気味の声を上げてしまうが…それに立場を忘れて不快感を覚えた露草に睨み付けられ、萎縮した声を出してしまう。

露草自身、恐れられることには慣れている。しかし、同じ戦場で命を任せ合った仲間を馬鹿にするような真似は恩寵を受けし者であろうとも許すことはない。


「露草、鳩羽は最年長ではあるけれど鳥籠という天国で過ごし続けた子だ。色鳥社の薄暗い部分までは流石に知らないよ」

「ふんっ…」

「露草殿。鳩羽様には後日、私の方から未踏開拓軍が如何なる存在かお伝えいたしますので、この場はどうか…」

「白藤籠守長の顔は流石に立てないとだよな。今回はこれで。後は頼んだぞ、白藤籠守長」


この場が無事に収まったので、白藤は胸を撫で下ろした。


「と、ところで白藤。彼女は?」

「ご紹介が遅れましたね。彼女は露草。本日付で花鶏様の籠守に就任した元未踏開拓軍の隊長よ。浅葱の元上官でもあるわ」


「へえ…浅葱って、未踏開拓軍出身なの?」

「出身じゃ悪いのかよ、温室育ち」

「別に?ただ、意外だなって思っただけだよ。何でもかんでも噛みついてこないでよ、猟犬」

「露草殿、どうか…」


一触即発の空気を感じ取り、瞬時に露草と鳩羽の間に入り込む白藤。

そろそろ黙れと言うように、鳩羽の足を踏んづけるのも忘れずに行っておく。


困った白藤を見下ろした露草は、怒りの籠もった目を徐々に緩め、鏡写しの様に同じ表情を浮かべてしまう。

前任者は立場を考えろと言わんばかりの圧を見せてきたが、今の籠守長は情に訴えかけてくるタイプ。

逆らうのは、気が引けた。


「…あいつは私達みたいに戦闘大好き人間じゃないのでご安心ください。たまに出没する成果を急いでいる側の人間です」

「ああ、そっちか」

「浅葱は未踏開拓軍に配属される以前からずっと「鳥籠に入ることが夢だ」と周囲に言っていました。こうして成果が認められ、月白げっぱく殿に引き抜かれた時は、上官として安堵しましたよ」

「浅葱は、上官から大事にされていたのですね」

「白藤籠守長はご存じでしょうが、あいつは“名目上”天涯孤独の身。軍の仲間は家族と思うように育てていました。大事なものがあった方が、生き残りやすいですから」

「そうですか」


経歴書に書かれていたことだから情報としては知っていた。

表向き、浅葱の家族構成は亡き父親のみ。

本来の家族構成は両親と、双子の姉だ。


母親と姉は恩寵を受けし者として色鳥社に招集されている。


恩寵を受けし者となった実の家族を追って、色鳥社に———鳥籠を目指すものは少なくはない。

浅葱もきっとその例だろう。自分と同じ、家族を追った者だ。

白藤はそう、静かに確信した。


「あの、白藤籠守長」

「何でしょう、露草殿」

「我々はそろそろ出立するのですが、その…出る前に、浅葱と会うことは叶いませんか」

「申し訳ないのだけど…」


花鶏の旅はほぼ年単位の話だ。

その間、花鶏に随伴しなければならない露草は単独で鳥籠に帰ることはできない。

限界を迎えるか、命が尽きるか、役目を果たすか、花鶏がここに来る用事がない限り、戻れないのだ。


「残り一年で再びここに戻れることは理解しています。ただ、今度は側にいられない分、何もできやしません。あいつが不安な時に話を聞くことも、背中を押し出すこともできないので…せめて声をかけるだけでも」

「ごめんなさい。今は…金糸雀様と一緒ですから…」


必死に訴える露草の願いを、白藤は拒否することしか叶わない。

できることなら会わせてやりたい。

同じ場所で戦って、家族の様に接してきた二人なのだから。

けれど、この場所ではそんな簡単な再会すら叶わない。

恩寵を受けし者が優先されるこの場所では、籠守の事情など———


「白藤ちゃん」

「花鶏様」

「うち、その新人の子に会ってみたいなぁ。新人ちゃんがうちと会う機会って少ないし、顔合わせぐらいはしたいかも〜。白藤ちゃんとも九年ぶりだしさぁ。会える時に会っちゃおうかなって」

「花鶏…」

「家族なんでしょう?うちらはそういうの、恩寵うんたら〜って奴になってから全部無い事にされたからさ。今あるものはちゃんと大事にしなよ、そういう関係性」

「…恩に着るよ」

「恩は労働で返してね〜」


花鶏の命とあらば、聞かないわけにはいかない。

それを理解しているからこそ、こうして助け船を出してくれたのだろう。


「浅葱は今、金糸雀様のお部屋にいますので…連れて参ります」

「いや、あいつの相方の顔も見ておきたいので、伺わせて頂ければと」

「どうしてでしょうか?他の恩寵を受けし者の方々と会うのは」

「できれば接触を避けたいですね。でも、自分じゃ気づかないこともあるだろうと思いまして」

「気づかないこと、でしょうか」

「あいつ、誰かを探すためにここに来たがっていたんですよ。理由は話さなかったんですけど、やっぱり唯一の肉親ですし、双子の姉を探しに来たんじゃないかって。母親はもう帰郷しているだろうから」


その言葉に、鳩羽だけではなく花鶏も眉をしかめる。

恩寵を受けし者にとって避けられないタイムリミットを示すものなのだから。


「…露草殿。その言葉はあまり使われないように」

「この場で適切な表現が思い浮かばなかったもので。申し訳ない」

「では、金糸雀様の部屋へ向かいましょう。あまり騒がないでくださいね。金糸雀様の情報は配布資料で把握を」

「鳥籠にいないしどうでもいいかなって。捨てた」


「…鳩羽」

「白藤、花鶏目の前にいるよ。敬意忘れちゃってるよ。どうしたの?」

「説明。して差し上げろ」

「…え、白藤。僕に金糸雀の紹介をさせるの?僕主よ?それに僕も金糸雀のことよく」

「いいから。やれ。暇だろ」

「僕の扱い!」


「仲いいねぇ、君達」

「花鶏にはこれが仲良く見えるの!?」

「以前訪れた村では夫婦仲円満の秘訣を「夫は尻に敷かれてなんぼ」と言っていてねぇ。よかったねぇ」


とても主とは思えない扱いを受けている鳩羽を眺めつつ、笑みを絶やさない花鶏。

助けを求めるように白藤を見ても、さっさとやれと顎を向けられる。

唯一同情した目線を向けていたのは…天敵だと思っていた露草だけだった。


「で、金糸雀はねぇ」

「…文句は言いつつも、ちゃんと説明はしてくれるんだな」

「しないと白藤怒るもん」


「花鶏…九年間、籠守が変わらないと上下関係ってできるわけ?」

「うちはできなかったよ。上下きっちり」

「だろうな!」


鳥籠の中でも特殊な部類にある白藤と鳩羽の関係に触れつつ、二組は黄色の扉を開いた先にある廊下を歩いて行く。

その部屋にいる、二人へ会う為に。

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