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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
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27:歌えない金糸雀が求める唯一は

「ん〜。この松ぼっくり、見た目よさげ」

「そうねぇ。あ、私これがいいわ。この開き方、可愛いと思わない?」

「なんでこんなところにこだわりを見せるんだ君達はぁ…っ!」

「「いいじゃないかいいじゃないか」」

「もう少し、煌びやかなものに目を向けてくれ…」


「あら、松ぼっくりも可愛いものよ。ねー?」

「ねー」


気に入った松ぼっくりと枝をお父さんに手渡すと、早速工作に取りかかってくれる。

いつも持ち歩いている紐を器用に松ぼっくりへ通し、枝へと括り付けた。


「ほら、浅葱」

「ひょあー!ありがと、お父さん!くーちゃん喜んでくれるかなぁ」


「くーちゃんって?」

「琥珀ちゃん。浅葱の友達。村長の娘さんで、凄くいい子なんだ。歌が凄く上手らしい」

「村長さんの…同い年だとは知っていたけれど、そう。ねえ、浅葱。琥珀ちゃんのこと、大好き?」

「大好き。くーちゃん、凄く優しくて、甘やかし上手で、お菓子もくれて、ぼーってしてる私の手を引いて、沢山面倒見てくれて、夢に一生懸命な子なんだ!」

「うんうん」

「くーちゃんは将来お姉さんみたいに歌を仕事にしたいんだって。沢山応援して、助けて貰った分いっぱい応援して、助けて…くーちゃんが夢を叶えるところを見るのが、今の私の夢なの!」


目をキラキラさせた、幼い私。

まだ純粋に夢を見ることができていた、優しいお伽噺のような世界で夢を語れていた。

そうだ。私には、夢があった。

琥珀の夢が叶うのを、見届ける夢があった。


「そう。本当に大好きなのねぇ」

「ん!」

「貴方そっくりねぇ…?」

「うるさい」


私に抱きついて、にんまりを笑う先代金糸雀の横で、ふてくされたお父さんは彼女にあるものを手渡す。

先程私に作ってくれた、松ぼっくりマイクだ。


「あら、私の分まであるの?」

「おそろい。こういうのしか今は作れないけど」

「時間があったら、何か作ってくれるの?」

「指輪やピアス以上に、家族四人で身につけられるものを作れた」

「そうねぇ。家族でおそろい。憧れるわね」

「ああ」


そうはいうけれど、憧れは憧れのままで終わってしまった。

私達が大人になる姿を、お父さんは見届けられなかった。

それは勿論、隣にいる彼女も…。

色鳥社の手紙と、指輪と髪束、それから松ぼっくりと共に私の元へ帰ってきてしまった彼女も同じ。


「いつかの為に作っておいてよ」

「私欲しい。お父さんとおそろいの金槌!」

「それは装飾品じゃなくて仕事道具だ…でも、考えておくよ。何かあれば、もしもの箱に細工付きで隠す」


「からくり細工まで嗜むようになったのね…」

「少しでも稼ぎたいからな〜」

「そういえば、あか…金糸雀様。ピアスは?」

「装飾品を身につけていたら、周囲から色々言われてね…今は外しているわ。指輪は首から提げているけど…」


「そうか。一緒にいた籠守…月白。彼女はそういうのに興味は?」

「あるわね。年頃だし、興味があるみたいなの」

「籠守に装飾品の制限がなく、君があげていいと思うのなら。ピアスはあげていいから」

「ありがとう。貴方が作ったものは装飾が少なく、素朴だけど美しい。籠守でも身につけることができると思うし、ダメと言われたら私からの命令で身につけさせていると言うから」


「本当は新しいのを作ってやるべきなんだろうけど」

「時間が無いものね。しかし、やけに月白を気にかけるわね」

「妬いているのか」

「妬いてないわよ。ただ、気になっただけ」

「未婚の母って境遇が…俺の母さんと同じでな。どうも気になってしまう」

「…そう」

「そういう君だって、凄く気にかけているだろう?」

「まあね。妹に似ていて、放っておけなくて。亡くなった人と重ねるのはどうかと思うんだけど、どうも重なるところが多くて」

「お互いに、大事な人の影を見ちゃっているんだな」

「申し訳ないけどね」


両親は静かに肩をすくめ、今度は私の方をじっと見る。

過去の影は大きい。

けれど二人にとって、それ以上に…未来の光の方が大きいのだ。


「お父さん、お姉さん、どしたの?」

「ううん。なんでもない。そういえば、質問はもういいの?」

「んー。多分もう大丈夫。大事なことは教えて貰ったから。あ、そうだ」

「なぁに?」

「お姉さんの歌、聞きたい。路上で歌っていたのは、歌詞がない歌だったから…」

「…ごめんね。どうしても、歌詞がある歌だけは歌えなくて。メロディーだけじゃダメかな?」

「えー」


当時はこの意味がわからなかったけれど、金糸雀の籠守として彼女の権能を知った今なら意味が分かる。

先代金糸雀は普通に話すことができる。それは金糸雀となったくーちゃんも同じ。

話す程度は問題ないのだ。

その権能は、感情の揺れで発動してしまうのだ。普段のまま話す程度なら、権能は発動しない。

けれど歌っている時は…その声に感情を乗せてしまう。

歌詞に権能を発動させながら歌ってしまうことに気づいた彼女は、今までの様に歌えなくなった。


「歌詞、なんで歌えないんだ?」

「詳しくは言えないんだけど、恩寵を受けし者の権能が影響しているの。話すのは大分練習して、できるようになったんだけど…歌だけは、感情の抑制が効かないから」


「そうなのか。あれ…雪?」

「あら、これは…権能の…でも、効果がない…」


雪のように、森の中にしんしんと何かが降り注ぐ。

優しくて温かい、黄色の光を見た先代金糸雀は、お父さんと顔を見合わせ…小さく笑った。

二人揃って物寂しそうに私を立ち上がらせ、背中を支えてくれる。


「浅葱、聞こえる?」

「なにが…」

「耳を澄ませてごらん」

「ん…あ」


お父さんの言うとおり、耳を澄ませる。

その先から、懐かしい音色が聞こえてきた。

小さい頃、何度も聞いた歌。

何度も聞いた、大好きな歌。

けれどそれに歌詞はない。

ハミングで歌われた懐かしい曲。

それを誰が歌っているか、私は知っている。


「浅葱」

「なあに、お父さん」

「こんなに大きくなれるんだなぁ。父さん、安心したよ」

「それにその制服、籠守ね。凄いわ。沢山頑張ったのね」

「大きくって…」


ふと、自分の身体を確認する。

気がつけば十九歳の姿で、私は両親に向かい合っていた。


「夢の時間はもうおしまい。貴方が待ってくれている子が、貴方の帰り道を教えてくれているから…今のうちに」

「でも、今帰っても…私は」


人を傷つけて笑える壊れた人間に戻るのは、正直怖い。

もしも琥珀がこんな私を拒絶したらと思うと…このまま夢の中で…幸せだった時間を過ごしていた方が、いいのではないかと思う。


「浅葱はいつだって優しい子だよ。父さんは知っている」

「…人を傷つけて笑う子でも?」

「そうでもしないと、心が持たない環境にいたんだろう?それは死んだ事で、浅葱をそんな環境に追いやった父さんにも責任がある。だから、そこまで自分を責め立てるな」

「…」

「それに、そんな酷い人だったら…貴方の帰りを待ちわびている人は、貴方の帰りを待たないわ」


先代金糸雀は…お母さんは私の手を安心させるように握り締める。


「貴方の親友が、次の金糸雀なのね」

「…うん」

「さっき語ってくれた夢。今も変わりがないのなら…貴方の居場所はこんな場所じゃないわ」

「…お母さん」

「貴方の夢はまだ潰えていないわね?」

「そうだと、いいな」

「じゃあ戻るの。貴方の夢は、金糸雀の…くーちゃんの隣でしか叶えられないんだから。あの子も待っている」


「…くーちゃんが?」

「そう。この光は、あの子が作り出した権能の象徴。けれど効果がないの」

「…効果がないって」

「貴方に権能を使いたくないって思いだけがそこにある」


お母さんは光をすくい上げ、私の手のひらにそっとのせる。


「権能で無理矢理命令できる力がある金糸雀。権能を使いたくない相手は、少なからず存在しているわ。くーちゃんにとって、貴方はそういう存在。無理矢理命令を聞かせたくない、尊重したい大事な存在なの」

「…」

「自信を持ちなさい、浅葱。大事にされていることを自覚しなさい」

「…うん」

「歌えない金糸雀が求める唯一は…貴方の未来よ」


お母さんは私の背を押し出す。

その先にあった道はなく。ゆっくりと身体が浮かび上がった。

見下ろした先には、見送ってくれる両親の姿。

言葉はもう出ない。


『こっちだよ、あーちゃん』

「私のところに———戻ってきて』


私の意識はもう夢でなく、現実にあるのだから。


◇◇


浅葱が眠る小部屋の中で、歌声が響く。

歌詞は歌えない。言葉をのせて歌おうとしたら、権能が発動しそうになったから。

権能の光は出てしまっているけれど、効果はないと思いたい。


「〜〜〜〜〜」


浅葱と手を繋ぎ、意識を導くように歌い続ける。

しばらくすると、ぼんやりと…浅葱の目が開かれた。

何が起きているのか分からず、周囲を見渡す浅葱の頬へ手を添える。


「…あーちゃん、夢はどうだった?」

「最初は怖かったけど、最後は…優しくて、寂しくなった。後で、話すね」

「うん」


琥珀は浅葱の涙を拭い、自分を見つめさせながら…笑顔で告げるのだ。


「おかえりなさい、あーちゃん」

「…ただいま、くーちゃん。待っていてくれて、ありがとう」

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