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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
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21:週に一度の招待状


恩寵を受けし者同士が交流する機会は多々ある。

中央広間でばったりあって会話するということもあれば、手紙のやりとりだって行う。


勿論、恩寵を受けし者の手紙は籠守長の検閲が入っている。

謀を防ぐ為だ。白藤には負担がかかるが、仕方のないことなのだ。


「…で、なんであんたが検閲しているんですか」

「あら。不快?」

「不快ではないですよ。ただ、なぜ先代である貴方が、白藤殿の代わりに手紙の検閲を行っているのか疑問を抱いただけです」

「白藤の精神状態が芳しくないと、鳩羽様から相談を受けたの」

「…左様ですか」


「鳩羽様は曲がりなりにも九年間、白藤を見てきた人よ。貴方は知っている?白藤と鴉羽様の関係」

「ええ。先日鳩羽様から軽く。それから、鴉羽様の過去は撫子から伺っています」

「貴方、幼馴染を探す為に同期まで巻き込んでいたのねぇ…。まあいいわ。白藤は優秀な子なんだけど、彼女の妹君…鴉羽様は更に優秀だった。あれと比較されるのは、正直可哀想」


「平等に子供を見ることは、できないのでしょうか」

「貴方のお父さんができていても、他の人間ができるとは限らないわ。それに、まっすぐ育てているつもりでも、いつの間にか歪むことだってあるの。人の人生を育て方一つでコントロールできたら、誰も苦労しないわ」

「そう、ですね」

鳥籠からの手紙は厳重に、外からの手紙は見ずに検閲を終える。

わざとだと分かっていても、月白の行動に浅葱はため息を吐くしかできなかった。


「はい。これ」

「私以外にはしていませんよね、これ」

「していないわ。送りも同様の処理をしてあげるから、検閲されたら不都合な事があれば、今のうちに手紙を書きなさい」

「…助かります」


「そういえば、貴方宛の手紙は誰から?筆跡が男性のようだけど」

「ああ。琥珀のお父さんですよ。私のお父さんが死んだ後、身寄りの無い私を引き取って面倒を見て頂いたんです」


籠守になる前に、近況報告の手紙を出した。

そろそろ返事が来るとは思っていたが、予想よりも早い到着だった。

籠守になる旨は伝えられたが、内部の事や、琥珀を探していることは彼には伝えられていない。

だけど、彼からの手紙を琥珀に見せることは叶う。

早く帰って琥珀に見せたい。

やはり表情には出ないが、弾む心は隠せない。


月白は「わかりやすいわねぇ、浅葱…」と呟いた後、本題というように別の手紙を差し出した。


「…これは?」

「金糸雀様宛の手紙よ。差出人は、椋」

「…ふむ」

「週一の罵倒大会…いえ、お茶会のお誘いよ。渡したくはないでしょうけど、渡してあげられる?」

「勿論です。お預かりします」


「そういえば、あの時金糸雀様が吐いた原因はわかったの?」

「瑠璃様謹製の問診票や本人の話を統合すると、精神不調の一種かと思われます。幸福を覚える度に、あの女から浴びせられた罵倒が脳裏をよぎると教えて貰いましたので」

「…その根本には?」

「言わなくても分かるでしょう?」


答えをひらひらと振り回し、乱暴に扱いながら浅葱は籠守庁の執務室を後にする。


「今は大丈夫なの?」

「私がいるので大丈夫です」

「凄い自信ねぇ…ホント」


その背後で、月白は呆れながらも微笑んでいた。


「ほんと、あの人にそっくり」


◇◇


琥珀が待つ部屋へと戻った浅葱は、手始めに自分宛の手紙を彼女に手渡した。


「はい、これ」

「これ、浅葱宛の…」

「差出人」

「あ、パパだ!」

「籠守になる前に、近況報告を送ったその返事。開けていいよ」


「でも、浅葱宛てだよね」

「大丈夫。帰りに読んだから。両親の様子、知りたいでしょ?」

「ありがとう」


「ただ、朽葉おばさんの様子は、芳しくない」

「…病気?」

「帰郷の儀に関することを知っちゃって、精神が参っている」

「…そう」


琥珀の両親は、幼少期からここに来るまで、彼女に沢山の愛情を注ぎ続けた。

長年悩み、やっと来てくれた一人っ子の琥珀。

朽葉はそんな琥珀を大事に愛しんでいたのを、浅葱は覚えている。


琥珀が恩寵を受けし者に選ばれた時は、喜んでいた。

自分の娘がこの世界を作り上げた神に選ばれたのだ。

引き離される寂しさはあったが、娘が名誉を賜れたことを心から喜んでいた。


しかしその一ヶ月後。彼女は恩寵を受けし者の末路を浅葱経由で知ってしまった。

先代は帰郷を終えた。

今代への代替わりを果たし、琥珀が金糸雀となり、恩寵を受けし者と化した頃だ。


色鳥社から、浅葱宛てに荷物が届いた。

包みの中には、金髪の中に少しの赤毛が混ざった髪束と指輪、それから小さな松ぼっくり。

そして、色鳥社の手紙。

包みの中身は全て、先代の恩寵を受けし者になった浅葱の母親の…遺品だった。

髪束は死体から切り落とし、部屋の中にあった私物を遺族に送りつけたらしい。


悪趣味なそれの意味を理解できなかった浅葱は、一緒にいた琥珀の両親に聞いてしまったのだ。

そこで初めて浅葱は自身の母が恩寵を受けし者になったことを知り…。

朽葉は、恩寵を受けし者の末路を知ってしまった。

その日から、朽葉は心を病み、部屋の中でじっと過ごす事が多くなった。


「と、いうわけなんだ」

「そう、なんだ」


父からの手紙を開く。

その中には浅葱に対する心配と、母親の近況。

それから、琥珀を見つけたら…そんな話まで書いてあった。


『元気にしているといいんだが』

『一人で寂しくしていないだろうか』

『もしも琥珀を見つけても、正体を明かせないのだろう?』

『君の不都合になることはしなくていい。ここまで来るのに、君が如何なる代償を支払ったのか…僕らは知っている』

『せっかく掴んだチャンスなのだから。大事にして欲しい』

『けれどどうか、僕らの代わりに琥珀を見守っていて欲しい』

『どうか、あの子を恩寵の運命から救い出す方法を探し出して欲しい』

『難しいことを頼んで済まない。君の無事を、遠くから祈っているよ』


そう、書かれていた。

少し前までの琥珀にとって、帰郷は恐れることではなかった。

自分を対価に、浅葱の愁いを消せるのだから。

でも、今は少しだけ怖くなった。

自分がいなくなった後の浅葱のこと。

両親の事。どうなってしまうか、想像だけでも怖かった。


「それから、これ」


浅葱は乱雑に扱ったそれを、琥珀の前に差し出す。

琥珀の、愁い。

恩寵を受けし者の一人…椋からの罵倒会おちゃかいのお誘いだ。

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