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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
19/40

19:朱鷺と月白

中央広間をゆっくり見ていくのは、琥珀にとっても浅葱にとってもはじめて。

少し歩いては休憩し、再び歩くの繰り返し。

けれど確実に前へ歩いて行けている。


「…ふぅ」

「ふむぅ。少しずつ時間と距離が短くなってきているね」

「そうなの?」

「そうなのそうなの。だから、そろそろ部屋にもどっ…!」

「ひゃっ!?」


浅葱が何かを嗅ぎつけたようで、琥珀を抱き上げ、近くの茂みに彼女を運ぶ。

持ち上げて、茂みに運ぶまで一瞬。

それでいて音は絶対にたてない。

権能よりも特殊能力じみた行動に、琥珀自身理解が追いつかない。


「…あ、あーちゃん」

「静かに。バレたら厄介だ」

「う、うん…」


浅葱に理由を聞きたいが、彼女のいつにない険しい空気が…琥珀の口を噤ませた。

その理由は、前から歩いてきた一組にある。


「ねえ、月白。昨日私がいったおもちゃ買ってきた?」

「買ってくるわけないじゃない。貴方に割く予算はもうないんだから」

「…使えない籠守。今までのよりも出来が悪いわ」

「そうね。優秀な人材は、貴方が全員殺しちゃったもの」

「へぇ…そんなこと言っちゃうんだぁ」


朱鷺はポケットの中に入っていたおもちゃを月白の目を狙って投げつける。

勿論彼女は避けるが、おもちゃに纏わり付いていた悪意だけは月白に襲いかかる。


「減らず口が多いお前、殺しちゃうよ?」

「そう言って恐れ戦く人間は今までの、貴方に忠実だった籠守だけよ」


月白は腰まである白銀の髪を靡かせ、真紅と深海の瞳を目の前の少女へ向ける。

少女はそれに臆することなく、歪な笑みを浮かべたまま、月白を見上げていた。


「…ねえ、あーちゃん。あの人達」

「白銀髪のオッドアイの籠守が月白。真紅と私の一件に目をつけて、私をここに招いてくれた恩人みたいな人かな。性格は汚いよ」

「きたっ…」

「で、一緒にいる子が多分朱鷺」

「あの子が…」


浅葱が来る前に金糸雀の籠守を務めた抹茶の、次の主。

琥珀自身、自分が年齢より下に見られる体格の為、正確な判断はできないが…こんなに小さい子供が鳥籠にいるとは思わなかった。

あの体格を信じるのであれば、十歳前後。

九年前、今代の恩寵を受けし者が連れてこられた際に、物心がついていなかった可能性だってあるのだ。


「…ところで、誰の性格が汚いのかしら、浅葱?」

「げっ」


浅葱が呻き声を出す前に、月白の足が浅葱の顔面めがけて飛んでくる。

勢いよく吹き飛ばされた浅葱は顔を守っていた腕をゆっくりと下げ、月白を睨み付けた。


「相変わらずですね」

「ちゃんと防げて偉いわ。これぐらいできて貰わなきゃ、困るけど」

「はいはい。で、月白殿。さっきまで朱鷺と話していましたよね。どこ行ったんですか」

「部屋に帰ったわよ。大方、おもちゃを壊して暴れているんじゃないかしら」

「「えぇ…」」

「癇癪を起こせば、何でも叶えられるのが当たり前だったんだもの。仕方ないわ」

「…彼女は、いつからここに?」


琥珀が疑問を投げかけると、飄々としていた月白も驚きを隠せなかった。

あの金糸雀が、喋るとは思わなかったから。

けれど、何となく喋る可能性は考えていた。

浅葱が、自分の命令に背いた場合とか。


「一歳の時よ。最も、産まれたと同時に母親と引き離されたから、産まれてから今日に至るまで、色鳥社に甘やかされて育っているの」

「だからおもちゃを買ってこない程度で殺すと」

「そうそう。それに、よりにもよって朱鷺の権能は「万物を守護する」権能。強力な結界を張ってくるから、自衛どころか対象の監禁も得意なの。避けられないことはないけどね」


「話には聞いていた上に、実行した身で言うのも何ですが…よく権能を避ける手段見つけましたね」

「色々あったのよ」

「あんたの色々って何だよ…」

「まあ、とりあえず」


その「色々」に関して話す気は無いようで、月白は話を切り替える。

空気からして、彼女は朱鷺の下へ向かうのだろう。

そう察知した琥珀は、彼女が去る前に…もう一つだけ質問を投げかけた。


「あの、月白、さん」

「敬称なんていらないわ。私は籠守。恩寵を受けし者に仕える者だもの」

「それでも、貴方は年上で、あーちゃんがお世話になっていて、聞いたことにも答えてくれる敬意を払うべき人だと、思うので」

「そう。じゃあ好きにしたらいいわ。それで、どうしたの?」

「他の籠守のことで。貴方の前に朱鷺の専属をしていた、抹茶という女性は…」

「…大変心苦しいのだけど、一ヶ月前に朱鷺からおもちゃを買って来られなかった罰として結界の牢獄に入れられ、そのまま…」


続きは言われなくても、分かってしまう。

涙は出ない。怒りも湧かない。

けれど、恐怖は徐々に琥珀を覆う。

そんな理由で人を殺す理由も、傷つける理由も…何一つ理解ができないからだ。

そして将来、目の前にいる月白が命令を下せば、浅葱は朱鷺を排除する為に動かなければならない。

最悪、抹茶の死に場所になった場所が、浅葱の死に場所になることだってあるのだ。

その可能性に行き着いた瞬間、琥珀の心は恐怖に支配されそうになった。

けれど、光はまだ残されている。


「話はこれでおしまいかしら」

「ええ。教えてくださり、ありがとうございました。おかげさまで、やるべきことを見つけられました」

「そう。じゃあ、期待しているわ」


月白は含みのある笑みを浮かべつつ、浅葱と琥珀の前から立ち去る。

二人は顔を見合わせて、ゆっくり息を吐いた。

急な嵐は、去ってくれたらしい。

けれどまだ嵐は止んでいない。


「あさぎぃぃぃぃぃぃぃっっ!?」

「どうされました?」


———いつも白藤とワンセットである鳩羽が、一人で徘徊していたところに遭遇してしまったのだから。

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