表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
17/40

17:前人の形跡

翌日、目を覚ました琥珀は無理のない程度に朝食を済ませた後、浅葱にあることを頼んだ。

昨日歩いた時も、凄く重くのしかかった代物。

それを、切り落として欲しいと。


「…こんな感じでいい?」

「うん。さっぱりした」


足下まであった髪を、胸元付近の長さに整えて貰う。

髪を地面に垂らすこともないし、今までと比べて格段に動きやすくなった。

まるで枷がなくなったのような身軽さ。

満足げに笑う琥珀の横で、浅葱は切り落としたばかりの髪をじっと眺める。


「どうしたの?」

「…こんなに長い髪があれば、ロープとか」

「私の髪の毛で何をする気…?変なものに活用しないで。絶対に捨てて」

「えぇ…この手頃の長さがちょうどいいのに…あ、光の粒子」


琥珀を中心に、権能を使用した形跡…光の粒子が舞い踊る。

瑠璃が発した青色の光とは異なる、金色の光。

金糸雀に相応しい色合いで舞うそれは、決して美しいものではない。


「嘘、また権能使ってた?」

「命令口調だと権能の効果が混ざりやすいみたいだね」

「言葉には気をつけないとね…」


ただ、権能の効果が出るまでに時間差があることは瑠璃のおかげで把握できている。

光の粒子が対象に溶けたら、効果が発動する。

他の恩寵を受けし者がどうかは不明ではあるが、少なくとも瑠璃と金糸雀は同じ条件の下、能力が適用される。


「そうだ、あーちゃん。また中央広間に行きたいな。撫子にも、会えるかもしれないし」

「ん。わかった。掃除を済ませるから少し待っていて」

「はーい」


そういえば、と琥珀は思い返す。

今まで着ていた衣服は、寝間着なのだ。

ドレスと言い張れば納得されるが、琥珀からしたら寝間着。

これで人前に出るのも、なんだか気が引ける。


そういえば、二ヶ月前まで勤めていた籠守が「外行き用のドレスをクローゼットの中に入れておく」と言っていた。

彼女は一定距離を保った上で、金糸雀を着飾りたい欲を隠さず、似合いそうな服を自腹で買ってきてはクローゼットに入れていた。


浅葱以上の高身長だった彼女は、金糸雀が今着ているレースがふんだんに使われている服を着たがっていたのだが、そのサイズに合う服がなく…諦めているらしい。

金糸雀みたいに似合う存在が着ている姿を眺めるだけでもいいからと、沢山服を買ってきてくれた。

人事異動で朱鷺の担当になったと聞いているが、彼女は元気にやっているだろうか。

いつか、会えたらいいのだが。


「ねえ、あーちゃん。あーちゃんは、抹茶という籠守に会ったことはある?」

「抹茶?いや、ないね。誰かの専属?」

「二ヶ月前、浅葱と露草がここに来るきっかけになった人事異動が行われる前に、臨時の配置換えがあったの。私の専属から朱鷺の専属になったんだけど…」

「……まさかな」

「どうしたの?」


浅葱の様子がおかしい。

ただ、会ったこともない人間の事ならば「知らない」というだけで終わる話。

けれど彼女は何か心当たりがあるらしい。

しかし、その様子から見て…いい心当たりではないことは、琥珀にも察することができた。


「…なにか、知っているの?」

「もしかしたら違うかもしれないんだけど、もしかしたらと思ってね。一応、話すけど」


浅葱は申し訳なさそうに目を逸らしつつ、話を続ける。


「まず一つ、今の朱鷺の専属は抹茶ではなく月白殿が勤めている」

「次の人事異動で配置換えになった、とか…」

「私がここに来た時、白藤から「この前も籠守が一人殺された」という話を聞いた。理由は、新発売のおもちゃを買えなかったから」

「う、うん…」

「次に、月白殿から指示されている処分対象。一人は真紅で、もう一人が朱鷺。我が儘放題で、自分の望み通りにならなければ籠守を殺す、幼く残虐な恩寵を受けし者」


「まさか…抹茶は、殺されている可能性が」

「ないとは、言い切れない。今回の人事異動で逃げ切っていればいいけれど、正直…時期が時期だから」

「…そう」


「白藤に、抹茶がどうなったか聞いてみるよ。もしかしたら、私が会っていないだけで誰かの専属籠守として鳥籠にいるかもしれない」

「お願いしていてもいい?どんな結果でも、ちゃんと受け止めるから」


「わかった。でも、どうしてその抹茶とやらを?」

「実は、ここのお洋服を買ってくれたのが抹茶なの。こうして外に出ようと思えた時、よそ行き用の服を買ってきてくれていたから、スムーズに外出できるから。だから、お礼をと」

「くーちゃんはお礼を言うことが外出の目的になっている気がする…」

「お礼は大事だよ?」

「そうだね。でも、これ全部?抹茶一人で?」


巨大なクローゼットの中に、ぎゅうぎゅうと押し込まれた衣服の数。

どれも小柄な琥珀によく似合う可愛らしい衣装なのだが、数がおかしい。


「うん」

「こんなに経費が落ちるんだ。色鳥社贅沢だな…」

「抹茶の自腹だよ?」

「え」

「抹茶の趣味なの。自分は着られないから、着ているところを見せて欲しいと」

「…絶対お礼、いわないとだね」


浅葱は琥珀が見ていない代物…衣服についたタグを眺めながら、心に誓う。

趣味の為に、他人へ総額七桁を使用した抹茶のことを、浅葱は生涯忘れることはないだろう。

是非とも、生きて会いたいものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ