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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
15/40

15:私は貴方と生きていたい

重い言葉が、部屋に響く。

まっすぐに放たれたそれの中に偽りはない。


有事の際に真紅に手を下す目的は残されているけれど。

ここに来たかったのは、真紅に会うためではない。


心底嫌いな色鳥を崇拝する色鳥社の門を叩いたのも。

撫子ほど優秀ではない自分が稼げる成果を求めて、命を懸け、多大な成果を得られる未踏開拓軍に入ったのも。

全ては琥珀と再会し、約束を果たすためである。


彼女が今、どんな境遇に置かれていたとしても、鳥籠の中で変わっていたとしても。

浅葱にとって、会いたいと思っていた人物は目の前にいる琥珀だけなのだ。


「…どう、やって?」

「それは」

「どうやって、一年の終わりをなくすの?今までなくならなかったんだよ」

「具体的なことは分からない。でもね、後一年あるんだ。足掻いてみせるよ。間に合わなかったら、一緒に未踏地へ逃げよう」


「でも、あそこは危険だって…何があるかわからないからって」

「大丈夫。私は十二歳の時から、そこの前線で戦ってきた」


浅葱が色鳥社の新米職員をしていた時代の成績は、平均より少し上。

籠守の育成を兼ねている事務員の枠には、収まらなかった。

浅葱は撫子のように、何でもそつなくこなせるわけではない。

最短ルートが閉ざされた彼女が選んだ道はただ一つ。

命懸けの、道だった。


幸いにして、恵まれた体格や思い描いた動きを実現させる運動神経、そして過酷な環境でも耐え抜ける体力を持ち合わせていた浅葱は無事に生き延び続けた。


琥珀自身も未踏地の話は聞かされていたので、どれぐらい危険なのかは理解を示しているつもりだ。

しかし、あの場所は彼女が想像しているより過酷な環境だ。

そんなところに身を置いてまで、浅葱は琥珀との再会を、あの日の約束を追いかけた。

そして、成し遂げたのだ。


「今は無理でも、元気になった琥珀一人ぐらいなら、守りながら進める」

「……」

「だから残り一年で死ぬなんて言わないで。一年後も私と生きていて。もう、家族わたしを置いていかないで」


彼女の表情は変わらない。

けれど目元からはポロポロと、涙が落ちて…琥珀の胸元に落ちていく。

たった一滴なのに、重みがかかったようにズシンと降り積もるそれに、琥珀もつられてしまう。


「あーちゃんは、本当に強くなったね」

「頑張って、来たから」

「でも、私はそこまで強くなれないよ」

「琥珀…」

「外の世界を知って生きたあーちゃんに、自分だけを見ていて欲しいって思っちゃって権能を使った!身体どころか、心もダメなの!ずっとこの鳥籠の中で、二人きりの方が幸せだって思っちゃうんだよ!」

「鳥籠の中でずっと一緒は嫌だね」

「でしょ…だから」


「だから、一緒に出よう。二人なら外も怖くない」


「え…」

「世界は広くて、怖いところも沢山ある。二人一緒なら、何も怖くない。怖いものがやってきても、私が必ず守るから」

「なに、それ」

「覚えてないの?お父さんが死んだ後、部屋に閉じこもっていた私に琥珀がかけてくれた言葉だよ。これがあったから、私は外に出られた。琥珀が手を引いてくれたから、今の私がいる」

「そんなこと」

「言ったんだよ。忘れないでよ」


琥珀にとってはなんてことない言葉でも、浅葱にとってそれは自分を救ってくれた魔法の言葉。

浅葱はもう、琥珀の権能ことばにかかっていたのだ。十歳のころから、ずっと。


「琥珀、私は琥珀が望めば一緒に死んでもいいなって思うんだよ。でも、生きていた方がお得だよ。君の知らない世界が、あの先に、この外にあるんだ。それを見る前に死ぬのは勿体ないよ」


「…でも、私は上手く歩けないよ」

「まずは元気になろう」


「権能だって、使っちゃうかも」

「命令口調じゃなければ効かないんじゃない?今も効いてないし。てか、使わないとコントロールも上手くいかないでしょ。これからはバンバン使おう。コントロールができるようになったら、また歌えるようになるかも。琥珀の歌、大好きだから。また聞きたいな」


「…こんな私でも、あーちゃんの側にいていいの?」

「どんな君でも、私が探していたのは目の前にいる君だからね」


腕から手を離し、浅葱は琥珀の背に手を回す。

彼女の肢体を持ち上げて、痛みを覚えないように優しく抱きしめた。


「くーちゃん」

「うん」

「これから、どうしたい?」


浅葱の問いかけに対する琥珀の答えはもう決まっている。

その答えを伝えるために、琥珀は細腕で自分の身を浅葱に引き寄せ、彼女の唇に、自分のそれを重ねた。

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