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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
13/40

13:鴉羽と撫子

漆黒の扉の先。

操り人形のように、ふらりふらりと廊下を進み、撫子は部屋の中へ戻っていく。


「おや、早い帰りだったね」

「……」


壁一面は本棚で構成され、寝る場所を含めて至るところが本に埋め尽くされた空間。

それこそが、撫子が専属を務める鴉羽の私室。

彼女の権能は「統治する知能を蓄える」権能。

ただ物覚えがいい権能なのだが、鴉羽はその知識を有効活用し、ある種の予知を可能にしてしまっている。


彼女は賢い。歴代随一の「鴉羽」と謳われ、鴉羽になる前も、三歳年上の姉を越えて才女と呼ばれ、高名な学者と論議を交わした逸材だった。

ただ、知識や名声は得られても、欲しいものは手に入らなかったし…。


「…おい、いつもみたいに小言を言ってみたらどうなんだ。「おかえりも言えないの」とか。おい、ロリ女。どうした怒っているのか。なんか怖いぞ」


———年相応の振る舞いも、身についてはいない。

目を虚ろに、ただ呆然と部屋の中心で立ち尽くす撫子に恐怖心を抱きつつも、鴉羽は恐る恐る撫子に近づく。


「おい、返事ぐらいしろよ…そんなところに突っ立ってないで、こっちこいよ…注文した椅子が届いているぞ。読書も快適だぞ?」

「……」

「わたっ…僕がこうして話しかけているのに!返事ぐらいしろぉ!」


無言の撫子が恐ろしくなった鴉羽は、感情に任せて撫子の顔面を、本で思い切り叩く。

その瞬間、撫子に付着していた黄色い粒子が弾け飛び、霧散していく。


「あだっ!?」

「あ、起きた…いつもの撫子だ」

「なにすんのよ!?」

「い、いつも朝からされていることのやりかえしだ。ねぼすけをたたき起こすのはこれが最適なんだろ。さ、さっさと起きろ。いつもの調子に戻れ。気味が悪いんだ」

「…鴉羽様」

「な、なんだよその目は。怒るなよ。様子がおかしいお前の意識を取り戻してやったんだぞ。感謝しろよ」

「様子がおかしかった、とは具体的にどういうことなの?」

「そ、それが人にものを聞く態度か…」


文句はいいつつも、普段通りに戻った撫子が、いつも通りにしてくれるのが嬉しいのは、言わなくてもいいだろう。

自分の襟首を掴んで全身を揺らし、問いかけて来る姿を堪能してもいいのだが…これ以上遊んでいる時間は鴉羽にも撫子にも無い。


「…お前に付着していた黄色の粒子。あれに類似したものを何回か見たことがある。恩寵を受けし者が権能を使用した時の痕跡だ。お前、金糸雀に権能を使用されたんじゃないか?」

「金糸雀様に…確かに、最後の記憶は浅葱と金糸雀様と一緒にいたときのことだけど…」

「何か粗相をしたのか?お前がするとは思えないけど」

「買ってくれてありがとう。でも本当に心当たりがないのよ?」

「ふぅん…でも、しばらく金糸雀とその籠守には近づかない方がいいんじゃないか。お前の存在が金糸雀を刺激している可能性だってあるわけだし」


「…嫌われるようなこと、したかしら」

「お前、あいつの籠守と仲がいいんだろう?お前に自覚がなくとも、金糸雀からみたら、「私の専属と仲良しでむかつく!むっきー!」ってことはあるだろう?」


「一週間ちょいで、そんな関係になれるかしら?」

「自分の専属との関係を振り返れ」

「それは貴方が二十歳過ぎのお子様だからできたことでしょう?貴方自分がチョロいこと自覚してる?」

「だだだだだ誰が単純だ!?」

「お菓子あげたら専属だって認めてくれたのに…」

「過去の話だ!」

「一週間前のね〜」


権能の効果が解け、普段通りに振る舞う撫子は仕事に取りかかろうと近くにあった本を手に取るが、鴉羽から阻まれる。

彼女の腕を強く引き、先程まで自分が読書をしていたベッドスペースに転がした。


「…なによ。仕事しようとしただけじゃない」

「お前は先程まで権能に、精神や肉体を操られたことを自覚しろ。何をされたのかわからないし、お前がどこからここまで帰ってきたか分からない現状、身体が無茶な動かし方をされている可能性がある!今日はゆっくり休んでいろ!明日から働け!」


本の整理をしていた影響か、割と強い力でベッドに縫い付けられた撫子は堪忍し、力を抜く。

それを確認した鴉羽は、そっぽを向いて読書を再開した。


「ありがとね、鴉羽様」

「…ふん。明日のおやつは、お前の手製ロールケーキで勘弁してやる」

「材料ないわよ」

「買ってこい」

「動くなといったわ」

「…じゃあ、明日は特別だ。ありもので勘弁してやる」

「はいはい」


素直じゃない鴉羽と共に、撫子はのんびり過ごす。

しかし、頭の中はしっかり働いている。

まさかあの金糸雀が権能を使用したとは思っていなかった。


———浅葱は今、大丈夫なのだろうか。


金糸雀は浅葱の会いたい人である可能性が非常に高い存在だ。

もしも彼女が、浅葱が探していた幼馴染みで親友の琥珀であるのなら…。

仲がいい友達に、嫉妬したりする…なんてこともあるのだろうか。


いやいやまさか。

ありえないと、あり得る話を頭から追い出して、瞳を閉じ、彼女を思う。

浅葱は今、何をしているのだろうか、と。

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