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婚約破棄は、時と場所を選ばなければいけない話

作者: 椎名正

 婚約破棄をするのに、最適な時と場所はどこだろうか?

 卒業パーティーなどはいいかもしれない。

 別れ話は人目がある場所でやった方がいい、と先人の格言もある。

 逆にやってはいけない時は、食事中だろう。

 逆上した相手に、料理を投げつけられる可能性がある。

 一番やってはいけないのは、王家の内輪の会食会の時だ。



 王家の仕事は、大雑把に言ってしまうと偉い立場にいる接待係だ。

 失礼な言い方をしてしまったが、この国の王族のほとんどの人の意識はそうなのだ。

 偉そうにしていればそれでいい気楽な地位にも思われることもあるが、歯車の一部として求められる役割を果たさなければならない。

 下に命令するのにふさわしい態度をしなければならない。

 それはある意味、常に相手のご機嫌とりのために、王族にふさわしい行動をしなければいけないことである。

 食事のさいでも、他者と同席する場合は気など抜けない。

 食事中にため息ひとつついたなら、憶測と深読みがされる。

 料理を食べる順番も一口単位で決められていて、外れると食材の生産地に対して政治的なメッセージがあるのではないかと勘繰られる。

 王族の生活はとても窮屈なのだ。

 だから、息抜きが必要になる。

 それが、月に一度の王家の内輪の会食会。

 好きな順番で料理を食べていい。

 好きな柄の服を着ていい。

 なんだったら、料理に手をつけないで残してもいい。

 月に一度の、気を抜くための会食会。

 そこに爆弾を投下した馬鹿が、この国の第三王子で私の婚約者だ。



 婚約破棄自体はわかるよ。

 結婚相手を自分の好みで選びたい気持ちは理解できる。

 でも、それだったらちゃんとした手続きを踏めよ。

 正規の手順で婚約を解消できる方法があるんだから、ちゃんと利用しろよ。

 なんで、みんなが王族の責務から解放されるこの時間に、面倒ごとをぶち込むのよ。

 さっきまで談笑していた王族のみなさん、表情をなくして沈黙しているじゃないの。

 この地獄の空気、どうするのよ。

 私に婚約破棄の宣言をつきつけドヤ顔している馬鹿王子と、私から婚約者を奪ってやはりドヤ顔している風の乙女。

 馬鹿二人も、この重苦しい空気に焦り始める。

 いや、これ以外のどういう反応を期待していたんだ?

 「兄さん。兄さん。父上が手品を」

 第四王子に耳打ちされ、ようやく最悪のタイミングで婚約破棄の宣言をしてしまったことに気がつく、第三王子。

 今まさに現王が余興の手品を披露するところだったのだ。



 この会食会にいる者は、全員が現王のことを尊敬し好きだった。

 本人の根本的な性質が気弱でお人よし。

 その王に向かない性格の人物が、戦乱や飢饉を乗り越えこの王国を平和で盤石なものにしたのだ。

 これまでに、どれほどの辛い決断をしたのか、私には想像もできない。

 その現王が、はじめて国のためではなく自分だけの趣味を作った。

 それが手品なのだ。

 けして上手いとは言えない現王の手品を見るのが、みんな好きだった。

 その現王が、トランプを取り出しかけた状態で固まっていた。

 手品のための小道具であろうハトが、勝手に飛び出して部屋を飛び回る。

 第一王子が手品を始めるように声をかけるが、現王は普段取り繕っている威厳がある態度は消え失せ、素の人の好さが出てきている。

 「手品とかやっている場合じゃあないよ」

 私は現王に頼む。

 「私が見たいのです。この心が張り裂けそうなわたくしを、手品でなぐさめてください」

 「そ、それなら、このトランプを一枚引いてくれ」

 動揺している現王はトランプを取り落とす。

 床に全てハートの三になっているカードがぶち撒かれる。

 がっつり種明しを見てしまい、今更見ていないことにはできない。

 「すみませんが、わたくし、カードマジックよりも先月見せていただいた切断マジックがみたいです」

 「あれは準備が一時間ぐらいかかるから・・・」

 第二王子が腹心の部下を押し出す。

 「父上。私の部下が、最近聞いた小話を披露したいそうなので、順番を譲ってください」

 腹心の部下は、驚愕の表情になる。

 「今のうちに、手品の準備を」

 「わ、わかった」

 絶対にうけない重い空気の中で、おもしろ小話を泣きそうな顔で話し始める第二王子の腹心の部下。

 第二王子は、母親の王妃の方を見る。

 小話は五分も持たない。

 王妃は、自分の腹心の部下の背中をつかんで、第二王子に頷く。

 王妃の腹心の部下、ロザリー伯爵令嬢の特技はダンス。


 「ヘイ!」

 「ハイ!」

 「ヘイ!」

 「ハイ!」

 ロザリー伯爵令嬢は泣きそうな顔でダンスを踊る。

 いや、実際に泣いている。

 地獄の空気の中で、余興のダンスを披露するロザリー伯爵令嬢。

 「ヘイ!」

 観客にむかって掛け声を上げるロザリー伯爵令嬢。

 「ハイ!」

 観客が悲痛な掛け声を返す。

 おまえだけは絶対に許さんからなと、ロザリー伯爵令嬢は風の乙女の前で踊る。

 「ヘイ!」

 「・・・ハイ」

 消え入りそうな声で、掛け声を返す風の乙女。

 そんなものでは許さないロザリー伯爵令嬢。

 「ヘイ!」

 「ハイ!」

 「ヘイ!」

 「ハイ!」

 「ヘイ!」

 「ハイ!」



 地獄の余興大会は続けられている。

 第三王子は男性陣に、風の乙女は女性陣に、取り囲まれガン詰めされている。

 だけど、そんな場合じゃない。

 私は、風の乙女の肩に手を置く。

 悲鳴を上げ、謝罪してくる風の乙女。

 私はその謝罪を無視する。

 「手品の準備がまだかかるようです。風の乙女さんは、確か、風の音色の歌声と評判でしたね。即興で曲と歌詞を作るそうですね。歌はいいですね。余興としてはぴったりです」

 「許して」

 私は王妃の方を見る。

 もちろん、王妃は許さない。

 「やらないとギロチンよ」

 現在、第一王子の腹心の部下の絵本朗読が行われている。

 一切の盛り上がりはなく、場は冷えるだけ冷える。

 私は風の乙女に言う。

 「風の乙女さん。あなたは根性も実行力もある。第三王子を支えてください」

 「私を許してくださるのですか?」

 「許すも、許さないもありません。我々は、国を守る同士です。これから共にこの国を守っていきましょう」

 「はい」

 「では、まずは責務を果たしなさい」

 私は風の乙女を押し出した。


       おわり


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