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ディボード・ヘレスの物語  作者: 天音翠
第1章『アルデン編』
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第6話『選抜試験②』

第1章『アルデン編』

【本編】

「2時の方向に3、6時の方に4!まずそれを叩く!」

 級長の命令に対し、3時方角に配置されているオドンと6時方角に配置されているエーメントが対処にあたる。その様相は、本当に『対処』というべき一方的なものだ。

「“中位魔法『電光石火(ライトニング)』”。」

 オドンが『アルデミオン』から借りた双剣に『雷』を纏わせ、素早く斬り倒していく。

「“中位魔法『ド派手な打ち上げ花火(ワンダフル・ファイヤー)』”!」

 エーメントが『アルデミオン』から借りたハンマーを使い、『バケモノ』を上へ飛ばすと、花火のように華麗に散っていく。

「続いて、5時の方向から6、9時の方向から10!ヘレスの方は俺がフォローする!」

 5時方角に配置されているポッドと9時方角に配置されている私とフレスト、フォローで級長が対処にあたる。

「“中位魔法『毒針千本(ポイズン・レイン)』”。」

 ポッドが『アルデミオン』から借りたクナイに『毒』を仕込み、上へと放り投げる。すると、クナイは複数に分散し、雨のように『バケモノ』に降り注ぐ。

「“中位魔法『土壁妨害(グランド・ウォール)』”!」

 級長が『アルデミオン』から借りたナックルに魔法を使用し、地面に叩きつける。すると、地面の土が盛り上がり、壁となって『バケモノ』を半分に分断する。そして、それぞれに2人で対処する。

「“中位魔法『吹き荒ぶ(レイジング・ウィンド)』”。」

『“中位魔法『荒海一波(レイジンシー・ウェーブ』”!』

 私が『アルデミオン』から借りた剣を振るうと、吹き荒れる風が斬撃となって『バケモノ』を切り倒していく。また、フレストが『アルデミオン』から借りた杖を振るうと、周囲が相手に対してのみ質量を持つ海となり、荒れる海の波が『バケモノ』を次々と沈めていく。

 級長が周囲にもう一度視線を張り巡らせたのち、私達に告げる。

「周囲に性急対処の『バケモノ』及び異常なし。各自戦闘態勢を解け。ただし、警戒は怠るな。」

「了解!」

 全員が戦闘態勢を解き、ようやく一息つく。朝の集会から3時間たった程度だが、『バケモノ』の量が凄まじく、ここでやっと一息つけたのだ。全員だいぶ疲弊していることや、『バケモノ』の出現も一定の収まりを見せたことから、『アルデミオン』から休息の指示をいただいた。『アルデミオン』に戦場を引き継ぎ、仮拠点へと向かう。その間、ポッドが級長に対して言う。

「グレード先輩の指示、及び行動はとても分かりやすくて、動きやすいって感じる。…自信持っていいと思う。」

「…そうか。そうであれば良かった。」

「…でもさぁ、なんか引っかかるんだよねぇ。…ヘレス先輩の方に『バケモノ』来すぎっていうか。神出鬼没で予測不能なはずなのに、何で偏るんだろ。」

 確かにその通りなのだ。3時間程度だが、私に向かってくる『バケモノ』が、他のメンバーよりも多いのだ。配置を変えてみたりもしたが、それはどうも変わらない。

「級長がフォローしてくれてはいるが、それも一時凌ぎだ。それがこれからも続いて仕舞えば、必ず隙ができる。その対策も立てねばな。」

「…狙いでもあったりすんのか?」

 オドンがボソッと呟く。私はオドンにその真意を尋ねる。

「どういう意味だ?」

 オドンは言いにくそうな表情をしながらも、話し出す。

「…いや、憶測でしかないんスけど、配置を変えてもディール先輩にしか来ないんだとしたら、それはディール先輩が目的で、ディール先輩をどうにかしようとしている、って考える方が自然な気がして。何となく、今までの情報で『バケモノ』は予測不可能性が高いから、思考せずただがむしゃらに動いている、って考えがちっすが、それらも全部“思考の末の行動”だと当てはめて仕舞えば、その答えに行き着く気がするっス。」

 私はその考えが腑に落ちた。“思考できる謎の生物”ということを前提にすれば、“私に狙いがある”とはすぐに考えられるのだ。だが、その視点のすり替えは、普通思いつかない。…やっぱり、色んな意味で異質な男だ。

「何もわかんないんだから、憶測なのは当たり前。頭ごなしに否定するつもりもないから、その前置きはいらない。…でも、多分みんな思ったと思うけど、オドンの思考は腑に落ちるよね。どういう狙いかの具体性までは把握できないけど、とりあえずヘレス先輩が狙われてるってことは分かったから、先輩をカバーする動きを軸に対策案を立てればいいんじゃない?」

 ポッドの言葉にみな一様に頷く。…ただ、1人を除いて。級長が、さっきから会話に入ってこない、険しい表情をしたエーメントに声をかける。

「…エーメント、どうした?何か分からないことでもあったか?」

 エーメントはすごく驚いた表情をしたのち、その険しさを引っ込めると、笑顔に戻る。

「いや!ごめんごめん!単純にこれから先の事とか、今回の戦闘の反省とか色々考えてたら、そっちに思考が削がれて-」

「嘘つくのやめてくんない?それで誤魔化せると思ってるの?言いたいことがあるならはっきり言いな?」

 ポッドがはっきりと言う。私達も同じように“隠している”と感じたため、成り行きを見守る。すると、エーメントは苦しそうな表情をして、オドンを見る。オドンは、エーメント以上に苦しそうな表情をする。…何を抱えているんだ、この2人は。さっきオドンに感じた“違和感”も関係しているのだろうか。少ししたのち、エーメントが観念したように「…ごめん。」と言った後、言葉を発し出す。

「…ディーさん先輩に関してだけど、言わなきゃいけないことがあって。…ディーさん先輩、実は隣にいるあなたの弟、フレスト・ヘレスはもう-」

 エーメントの言葉が途切れる。すると、次の瞬間、

「“上位魔法『全方位盾(アラウンドディレクション)』“!!!」

 エーメントが突然、私達を覆う上位の魔法を使用する。だが、轟音と共にその半円は砕け散り、暴風によってグレード、ポッド、エーメントが吹き飛ばされていく。その行方を確認する暇もなく、ナニカが地面に轟音を立てて降り立つ。そこにいたのは、『バケモノ』よりも体格が良い、異形のナニカ。

「『バケモノ』…いや、今までこんな個体に出会ったことがない…!」

「…『バケモノ』の特異型…進化とも捉えられる。とにかく、『バケモノ』とは別物っスね…。」

 オドンが独り言のように言う。だが、正直意味が分からない。そんな存在が出てくる可能性など聞いたことがないし、それ以前に、

「…何で、そう推測できるんだ?」

 オドンは自分の発言に驚いている様子だ。

「分かんないっス…!…何で、そう思ったんだ…?」

 すると、フレストが叫ぶ。

『今は憶測の内容を深める場面じゃない!『バケモノ』と違うなら、『アルデミオン』に報告するために、一旦退避するのが得策だとおもう!』

 私は、フレストの言葉にハッとする。確かに、今は論議できるような余裕はない。『上位魔法』を軽々破壊されたとなれば、対処よりも退避及び報告が優先される。私達はあくまで”学生“だ。

「…そうだな。他3名の行方もわからない。そこのすり合わせも行わなければいけない。だが、まずはコイツを短時間でいいから固定する!…“上位魔法『縛る暴風(バインドストーム)』“!」

「了解っス!“上位魔法『超痺れ(オーバー・ナムボール)”!」

「うん!“上位魔法『沈む深海(シンク・ディープ)』”!」

 私の魔法で特異型の『バケモノ』の周囲に現れた暴風が動きを阻害し、オドンが投げた痺れ玉により動きを極端に制限、そして、フレストの魔法で深海の状態を再現、動きを完全に停止させた。

「今のうちだ!“上位魔法『超疾風逃避(オーバーウェイウィンド)』”!」

「“上位魔法『雷一閃(ライトニングソニック)』”!」

「“上位魔法『進水泳法(スイミング)』”!」

 魔法を使用して、その場からの戦線離脱を図る。『上位魔法』での拘束と逃走、私達ができる最大限の組み合わせだが…


 それは意味を為さなかった。


 異形の『バケモノ』は簡単に拘束を外すと、私達の上空を獲り、この世界には存在し得ない『測定不能魔法』を放ってきた。隕石のような質量の岩が、上空から降り注ぐ。私とオドンは何とか範囲から出ることができたが、フレストが逃げ遅れ、集中砲火を受けている。

「…フレストッ…!!!!」

 私はフレストの前に立ち塞がると、剣に『風』を乗せ、斬っていく。…ただ、魔力も剣の耐久もどんどんすり減り、ダメージが体に蓄積していく。


 …フレストを守ることで、命が潰えてしまうのなら、それはそれで悪くないか…。


 残りの体力を鑑みてそんなことを思考し始めたとき、オドンが私の前に立ち塞がり、雷を纏った斬撃を繰り出す。そして、視線は異形の『バケモノ』に向いたまま、告げる。


「もうやめてくれッ…!!そんなことをしても、何の意味もないッ…!!」


「…はぁ?」


 何を言ってるんだ、コイツは?弟を守るのは、兄の役目で-


「アンタの弟、フレスト・ヘレスはもうこの世界に存在しないんだよッ…!!」


「…は、ぁ…?」


【エンディング】

 -『sideテッド・グレード』-

「グレレ先輩!早く起きて!」

 エーメントの声とゆすりにより、俺は目を覚ます。完全にはっきりしたわけではない頭で整理すると、あの突如発生した暴風に吹き飛ばされた俺は、数分気絶していたようだ。また、互いの位置確認をした際、俺達3人がいる場所とヘレス達がいる場所はかなり離れていることが分かり、事の重大さを改めて思い知る。…一体何が起こったのか。エーメントは予測できていたようだが、俺には分からなかった。だが、そんな談議は道すがらできる。とにかく合流が先決だ。

「ヘレスと合流しよう。道すがら細かい状況の整理だ。」

 俺の言葉に対し、2人とも頷く。そして、歩き出そうとしたそのとき、

『まぁまぁ、ゆっくりしていきなよぉ〜、面白いものが見れるんだからさぁ〜。』

 背後の上の方から声がする。そちらを振り向くと、木の枝に乗っかって、足をブラブラさせている存在がいた。だが…その顔は…。

「…どういう冗談…?…これ…。」

 ポッドが愕然とした表情で呟く。俺もそれに内心同意しつつも、驚きが隠せない。

「…お前は…存在しないはずだッ…。」

 “ソレ”は俺達の内心など知る由もなく言葉を続ける。

『え〜、いるじゃん!ここに!勝手に存在を抹消するなんて-』

「一回黙ってッ…!!今はあなたに構ってる場合じゃないの…!…グレレ先輩、今は動揺とか詳細とかそんなのどうでもいいの…!合流しなくちゃでしょ…!」

 エーメントが感情を噛み殺しながら言う。それもそうだが…だが…。

『だからー、今はあっち面白い展開に-』

「黙れッ……!!」

 エーメントが叫ぶ。そして、こっちを振り返ると、

「少しは頭を働かせてッ…!優先度合いを考えてッ…!アタシ達はあくまでチームだから、それ相応のフォローはするけど、これ以上どうもしないなら置いていくッ…!!」

 そう俺達を睨みつけながら言う。だめだ、でも、分かってはいるが、心が追いつかない、何が、どうなって…。

『無理だよ〜。君と違って、そんな合理的な判断は彼等にはできない。僕の“顔”を見ちゃったらねぇ〜。それに、分かってんでしょ?僕が“あっち”じゃなくて“こっち”に来た意味。』

 その言葉を聞いた途端、エーメントはため息をついて、苦虫を噛み潰したような表情をしたのち、少しニヤリとして話し出す。

「…やっと喋った。回りくどいったらありゃしない。アンタの目的は時間稼ぎでも、こっちを潰すでもない…」


「アタシ、でしょ?」


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