第5話『選抜試験①』
第1章『アルデン編』
【本編】
いよいよ明日から『選抜試験』が始まる。そこで、これから『選抜試験』の説明をしておこうと思う。『選抜試験』を行う目的は、『現状のクラスが正しいかどうかを見極める』というものだ。この学園の仕組みとして重要な『ポイント』制度だが、通常のカリキュラムの中で獲得できるのが『通常ポイント』だ。通常の授業に関連して、頻繁に『戦績』『フォロー』『態度』『座学知識』『実績』の5つが可変で複数の教師に採点されている。また、不変ポイントとして『クラス』『家柄』『魔力量』が存在する。それらを総合して、試験前に発表される、というのが流れだ。『選抜試験』の参加に関してもポイントが必要で、消費型ではないが、唐突の予告時点で“100ポイント”獲得できていなければならない。次に、試験が行われる際に、その期間中に獲得できるポイントを『試験ポイント』という。獲得できるポイントの内訳は通常と変わらないが、通常よりもシビアに採点され、ここで得た『試験ポイント』に応じて、クラスが再編される。『選抜試験』の大枠のついてだが、日程は4日間であり、最初の2日間で『座学試験』を行ったのち、残りの2日間で『実践試験』を行う。ただし、『座学試験』での合否はすぐにわからない。また、『試験ポイント』は実践の比重が大きいため、『実践試験』の参加拒否や手抜きは余程のことがない限り誰もしないのだ。『実践試験』についてだが、5人チームがクラス関係なくランダムに組まれ、『バケモノ頻出地区』に指定されている場所で、『アルデミオン』の監視下の元、2日間戦闘を行う、というもの。勿論、休憩や睡眠、食事の時間は確保されているが、厳しいことに間違いはない。また、両試験で得た『試験ポイント』に応じて1位から10位まで順位がつけられ、その順位に応じて『通常ポイント』が加算される。1位が100、2位が70、3位が50、4位以降が30である。以上が、この『選抜試験』の内容である。…この『選抜試験』で1位を獲得し、『魔法教会』での地位を得て、魔法で差別されるのではなく、共生できる世界を目指す。そのためにも、明日に備えて、自己鍛錬や座学対策をして、早めに寝ようと思う。
翌日、いよいよ今日から『選抜試験』の始まりだ。『座学試験』に関しては、自己採点の結果のみ伝えておこうと思う。科目は5教科であり、それぞれ『魔法理論』『魔術応用』『魔導歴』『魔法文学』『特異魔法基礎』である。全部で500点であり、自己採点では496点だった。『魔法文学』と『特異魔法基礎』でそれぞれ2点落としてしまった結果だ。因みに、フレストは469点で、級長は497点、フーリは495点だと分かった。アナザーのテストでも、赤点という概念が存在し、『優良クラス1』に関しては、90点で再試の対象となる。だが、このクラスは1科目の平均点が95点なため、再試対象者はほとんどいない。自己採点と実際の結果が大きく乖離することはそこまでないため、大きな点数減がなかった安堵と、取りきれなかった悔しさを抱えつつも、次の『実践試験』に備える。ただ、誰と組むことになるかは、当日にならなければわからない。なので、準備できることとしては、戦闘訓練や戦闘演習等で記録されているログを確認することや、自己鍛錬あたりである。それらを行なった後、就寝する。
そして、いよいよ『実践試験』当日である。全学園生が余裕で入ることのできる、だだっ広い体育館に全員が集合し、学園長のお話を聞いた後、チームが発表される。私のチームは、『優良学生』でクラス1の級長『テッド・グレード』、『優良学生』でクラス1の私の弟『フレスト・ヘレス』、『優良学生』でクラス3の毒使い『テレード・ポッド』、『一般学生』でクラス2のギャル『ルエル・エーメント』、『劣悪学生』でクラス3の異質な『ガオル・オドン』だ。私のチームは、全体の人数の関係上、特別に6人になったみたいだ。…まぁ、直前で『魔力増強剤』の件もあったしな。発表が終わった後は、チームメイトが集まり、自己紹介とリーダー決めを行う。私達のチームが集まると、いの一番にエーメントが話し出す。
「はいはーい!アタシはルエル・エーメント!『属性』は『火』だよ!よろ〜!…てかさ、アタシのチームヤバない?『優良学生』めっちゃいんじゃん!それに、ガオルンの“強さ”も知ってっし。さいきょーじゃね?」
それに対し、オドンが反応する。
「おい、ガオルンってなんだよ。距離感バグりすぎだろ!初対面はまずファミリーネームだろ。」
「…えー、ガオルンって可愛くていいじゃん!しかも奥手な感じもよき!」
「はぁ?奥手って-」
「ねぇ、痴話喧嘩ならよそでやってくんない?ここ自己紹介の場だよね?会話だけポンポンされても迷惑なんだけど。時間も無限じゃないし。あ、ボクはテレード・ポッド。『属性』は『毒』。よろしく。」
と、ポッドが嫌そうな顔をしながら割って入ってくる。キツイ言い方だが的を得ており、2人は黙る。余談だが、遺伝的な『属性』が性格に起因することは多々ある。ポッドの毒吐きなところもそれが起因していたりする。エーメントが『火』のように明るく元気だったり、フレストが『水』のように穏やかで優しいのもそれがあるのだ。ポッドは押し黙ったオドンに対して睨みつけて言う。
「せっかく喋ったんだったら自己紹介もしたら?」
「…あぁ。オレはガオル・オドンっす。『属性』は『雷』。よろしくっす。」
その後も、ポッドが適度な毒を入れながら回す。
「俺は生徒会会長兼『優良クラス1』の級長テッド・グレードだ。『属性』は『土』。俺はこの級長の経験を生かしてこの班を全力でサポートできればと思っている。俺がこの班のリーダーに選ばれた際は-」
「長い。ウザい。演説かよ。今は自己紹介のターンだって言ってんでしょ?暴走気味とは聞いてたけど趣旨も理解できないわけじゃないよね?時間ないんだから後でやって。はい次。」
『僕はフレスト・ヘレス。『属性』は『水』。足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いいたします。…こんな感じで、いいかな?』
「あぁ。級長と違って簡潔とした自己紹介で素晴らしい。」
「…?…ねぇ、アンタ誰に向かって何言ってんの?」
ポッドが発した言葉に、フレストが不安がり、あたふたしていると、エーメントが話し出す。
「まぁまぁ!アタシが言えたことじゃないけど、さっさとやっちゃおうよ、ね、ポンちゃん先輩!」
ポッドは凄い形相でエーメントを見る。
「は?ポンちゃん?なに、ボクのことポンだって言いたいわけ?それあだ名というよりもはや蔑称じゃん。バカにするのも大概に-」
「私はディボード・ヘレスだ。風紀委員会委員長。『属性』は『風』。よろしく。」
「ナチュラルにボクの言葉を遮るな!」
「まぁまぁ落ち着きなって〜!自己紹介ターンが終わったっしょ?だったら次はリーダー決め!アタシ、リーダーはグレレ先輩がいいと思う!なんたってクラス1の級長で、生徒会長だしね!」
その言葉に対し、ポッドが意外そうな表情をする。
「へぇ、案外『アタシがやる!』…とは言ったりしないんだ。」
「まぁ、やれる人間がやれるべきことをやればいいと思うし、変にプライド張って迷惑かけちゃ、それはチームとは言えないっしょ?アタシがリーダー味なさげなのは明白だし、グレレ先輩じゃない?」
ポッドは少し考え込んだのち、エーメントに聞く。
「…ヘレス先輩は?選択肢に入ってないわけじゃないんでしょ?ボクは性格とか実力とか鑑みても、ヘレス先輩の方がいいように見えるけど。」
「…う〜ん。もち悪くはないんだけどね?…引っかかってる部分があって、何となくそれが倒れたらドミノ倒しで崩れそうだから、そこ取れない分ムズめかなぁ?」
「私に対して引っかかってることがあるのか?チームで組む以上、そこは解消しておいた方がいいと思うから、教えて欲しい。」
私の言葉に対し、エーメントは悩んだのち、明るく言う。
「まぁ、気のせいで周り混乱させるのも無理味高いし、後で個人的にってことで。とりま、アタシはグレレ先輩リーダーに1票!」
引っかかる部分があるものの、私もメンバーも、級長をリーダーにすることに対して大きな反対はないため、リーダーは級長に決定した。その後、エーメントと話をしようとするも、『アルデミオン』との交流や、地区への移動等に時間を割かれ上手くいかず、引っかかりが解消されないまま、『実践試験』に突入した。
【エンディング】
ー『勘違いの正否』ー
アタシは、僅かな時間を捻出して、感じた引っかかりの正体を探ろうと、ガオルンに声をかけた。
「…何でオレに声をかけた?」
「だって、勘違いじゃマズイし、なおかつ、ポンちゃん先輩の“鋭い発言”を止めようとしたのはガオルン“も”、だったし。何となく知ってるんじゃないかってね?」
ガオルンは、驚きの表情を隠せないでいる。
「…察しが良すぎやしねぇか?」
「だって、アタシはそもそも勘が鋭いし、人間の情報の9割を占める目や耳があるからね。分かりたくなくてもわかっちゃうんだよね。…まぁ、ディーさん先輩の“それ”は、あんまりよくなさそうだけど。」
ガオルンは少し表情を正すと、目を見て真剣に話し出す。そこから紡がれる言葉を聞いたアタシは、勘が外れていないことに最悪な気分になった。
「…ガオルンは、それをまだ続けんの?」
「事実を知ってしまうまでは、オレは、続けるつもりだ。」
「…危ない橋渡りじゃない?それが正しいと思ってんの?」
「いつだって正しいなんて思ったことがない。そもそも、正否を問う問題ではないだろ。」
「…ま、そうだね。じゃあ、アタシもフォローするわ。…“1人より、2人っしょ”?」
アタシは飛び切りニヤリ顔で言う。ガオルンはまた少し驚くと、
「…本当に、どこまで察しが良いんだよ。…ほんと、助かるわ。流石に“共有”できる人間がいないと苦しい場面に入ってきたからな。」
「ま、“なんかあったら”遠慮なく頼んなよ?やれることはやるし!」
「さんきゅ…って、やべぇ!全然準備終わってねぇ!エーメントも早くやらねぇと-」
「アタシは終わってっし。」
「本当に器用だな!オレもさっさと終わらせるわ!また後で!」
そう言って、ガオルンは自分の持ち場に戻る。アタシはその背中をじっと見てた。表情は、客観的なものがないから、知らないけど。おそらく…寂しげな感じだったと思う。
「ガオルン…本当に、なんかあったら頼れよ。ディーさん先輩のこともそうだけど、アンタも同じくらいのモン抱えてんだし…。」