第4話『風紀委員』
第1章『アルデン編』
【本編】
『選抜試験』まで残り1ヶ月となった頃、学園内のピリつきはピークに達し、そこら中で喧嘩や言い合い等が発生していた。素手や口くらいならまだしも、魔法を使う事は絶対にあってはならない。本来、一般人は『無位魔法』以外使用禁止である。そのため、我々がいかに恵まれて、成長できる特別な環境にいるか、ということを忘れてはならない。
そんなときに忙しく働くことになるのが、風紀委員長である私だ。『家柄』と『戦績』と『内申』から選ばれたわけだが、他の役職以上に上等のものを求められるところで選ばれたのは嬉しく思う反面、責任の重圧もひしひし感じる。この時期に入ると、『見回り強化週間』に突入する。見回りの人数が増え、範囲も広くなる。そんな中で私が見回りをしていると、毛が生えそろってきた級長と誰かが何か話をしている。またフレストに突っかかってたり、フーリの尻に敷かれてたりするのかぁ?と思いながら近づくと、柱にもたれかかりながら座る『一般学生』の女性とその友達と思しき女性がおり、その友達と級長が話をしていた。
「何があった?」
「…あぁ、ヘレスか。…『魔漏』だ。」
「放課後の戦闘訓練で?」
「話を聞いた感じそうだな。保健医は別の対応で出払っている。そっちが終わり次第向かうとは聞いた。一応応急処置はしている。」
『魔漏』と言うのは通称で、正式名称は『無意思魔力漏出現象』だ。魔力を使用した魔法を使い続けると体質により起こってしまう、まだ完全には解明されていない現象。特別に意識していないのに、体内から魔力が出ていってしまうのだ。処置としては『精神安定剤』や点滴による『血液循環促進剤』の処方だ。応急処置としては、“初位魔法『共有』”により、魔力を供給することで漏出と対抗させるというものだ。顔色は悪いが、少しは落ち着いている様子だ。
「…保健医がいない以上、無闇に動かすのは危険だな。とりあえず、ここで待機か。」
私の言葉に対し級長は頷くと、私に対し疑問を投げかける。
「…そう言えば、お前は見回りか?」
「まぁな。今の時期は色々大変だしなぁ。…生徒会もそんな感じだろう?生徒会長さん?」
「何故か棘があるように感じるのは気のせいだろうか?」
「毎回お前の“幻覚”による暴走を止めてるのは誰だと思ってるんだ。それでフレストにまで色々やりやがって。」
「…確かに、それぞれに関して本当に申し訳なく思うが、何故今更フレスト・ヘレスの話が出てくるんだ?」
「は?今更ってお前なぁ-」
私が続きの言葉を発そうとするよりも先に、顔色が悪い女性が呻き声を上げ始め、首を抑え、のたうち回る。私は級長に対し疑問を投げる。
「…何が起きている?『魔漏』じゃないのか?」
「…俺にもわからん!…だが『魔漏』に似た現象が最初に出て、状態が急激に悪化する、と言うような件、他にも似たようなの無かったか?」
「…まさか。風紀と生徒会合同で徹底処理に当たった、『魔力増強剤』を違法に所持している者がまだいたのか?」
「わからんが、この様子は可能性が高そうだ。」
『魔力増強剤』と言うのは、その名の通り魔力を外部から無理やり増幅させることで、一時的に倍の魔力量を手に入れられると言う代物だ。危険な代物であるため、適切な治療行為以外に所持・使用するのは、魔法教会規定により違法である。だが、それが一時期学園内で広く使われていた。それを止めるため、風紀委員会と生徒会が合同で作戦を実行し、広めている人間達を洗い出し、組織化されていたグループを潰したのだ。…しかし、副作用として出てくる症状と照らし合わせると、『魔力増強剤』の使用以外あり得ないのだ。級長は私に対し提案を行う。
「…また合同で洗い出しするか?」
「…いや、あそこまで徹底的に捜査して潰したのに出てくるってことは、“捜査した側”を疑うべきじゃないか?」
「…『スパイ』がいるってことか?」
「可能性としてな。だが、警戒して掛かるべきだな。とりあえず後で作戦会議だ。」
そのような話をしている最中、保健医が現れ、のたうち回っている女性を保健室に運んでいく。それを手伝ったのち友達に話を聞くと、やはり3日前から唐突に魔力量が増えて、演習でも訓練でもかなりの好戦績を出していたそうだ。友達も怪しんだようだが、突っ込んでも否定したとのこと。私達は秘密裏に作戦会議を行い、数日後、風紀委員と生徒会の全員を合同会議室に集め、とある“作戦”を実行した。
結果的に作戦は成功し『スパイ』を捕まえることができた。違法に所持していたのは、風紀委員の『劣悪学生』の1人であり、前回の捜査の際に『魔力増強剤』が高い金額で売買されていることを知って、金に目が眩んでしまった、とのことだ。散々“人体に多大な影響を及ぼす危険な代物”として話していたはずだが…彼の行いは非常に愚かであるし、それを見定めきれなかった私も反省せねばなるまい。作戦としては、まず役員全ての人間を校内全面捜査と言う名目で捜索に向かうようにし向けた。直接的にやり取りしている取引であれば、少なからず『スパイ』は何か怪しい行動を行うはずだ、と踏んだからだ。しかし、特に動揺や行動変化を見せる役員が存在しなかったため、次に、何か媒介を介して取引をしているのではと考えた。権限を駆使して、学校の管理ネットワーク全て漁り、最近削除された怪しい取引の履歴を発見した。あとは、それから嘘の取引を持ちかけ、それにまんまと騙された、というわけだ。囮要員はあまり作りたくなかったため、オンライン上での取引にしてくれて逆に近づきやすかった。また、取引相手も少なかったため、全ての『魔力増強剤』の回収にそれほど時間はかからなかった。処罰に関してだが、『魔力増強剤』を使用した学園生はポイントを大幅減とし、殆どの人間が選抜試験参加不可となった。また、『劣悪学生』に関しては、役職剥奪のみならず、退学処分となった。…当然の結果であると言える。
“魔法を使える”と言う特別性は、非常に危険なものである。それを未熟な子どもに与えてしまうのも、その危険性に拍車をかける。だから、今一度、魔法の存在意義と、何のために魔法を駆使して強くなるのかを考えていかなければならない、そう感じた。
【エンディング】
ー『side???』ー
本当に人間って野蛮で愚かだね。失くしたことに嘆いて、偶像に縋って、傲慢に行動し、他者を切り捨て、欲望を叶えることに直走る。それで手に入ったとしても、それはニセモノでしかないのに。…まぁ、僕も色々言えたことではないけどね。おっと、目的の人間が来たね。欲望に目が眩み、全てを失った人間。僕は木の枝から飛び降りる。
『ねぇ。今の現状、君はどう思ってるの?』
男の子は驚いた表情をして固まっている。
『そりゃあ、びっくりするか。でも、そんなことは置いておいてさ、君はこの処分をどう思ってるの?』
「処分…?役職剥奪兼学園退学のこと?」
『そう。』
「…まぁ、俺がやってしまったことはとても重いことだ。下手すれば人の人生を奪ってしまうところだったんだ。今回は全員助かったようだけど…。だから、当然の処分だとー。」
『本当に?』
「え?」
『本当にそう思ってる?…だってさ、おかしくないかなぁ。これを売買に使った他の人間はやり直す機会が与えられてたんだよ?なのに、君は釈明も聞き入れてもらえず、重い処分を受けた。不当じゃない?』
「…でも、それは、俺が役員で、危険性は知っていたのにー。」
『他の人間も知ってたじゃん。そう考えるとさ、「何で自分だけ」って思わない?
「他の人間にはやり直す機会が与えられて」
「釈明もさせてもらえなかった」
「不当に重い罰を与えられた」
「本当に使用した人間はポイントが減るだけで済んでいる」
「死んだわけじゃないのに」
…溢れ出してくるでしょ?憎しみが。』
男の子の体から、黒い靄が出てくる。
『…解放しちゃいなよ、その憎しみ。誰も肯定しなくても、僕だけは肯定するから。』
「…そうだ。何で、誰も俺の味方じゃないんだ。認めてくれないんだ。不当だ。不当だ。」
そう言ったのち、黒い靄が激しく吹き出し、風のように周囲を吹き荒れる。僕は彼に近づくと、歪な鍵を取り出し彼の背中に刺す。すると、彼の姿がバケモノに似た悍ましい何かに変化する。
『…ふふ、もうすぐ大事なイベントが始まる。遠慮なく狂ってくれよ?…「ゼドン・ネオ」。』
そう言うと、ゼドン・ネオは悍ましい雄叫びを上げながら消える。僕は再び木の枝に座り、足をぶらぶらさせる。ここの眺めが好きだったりする。
…でも、彼にバレずに行動することは大変だなぁ。いっつも近くにいるし。だからこそ、それに見合った報酬はくれよ、“お兄ちゃん”。