第3話『戦闘演習』
第1章『アルデン編』
【本編】
12月にある『選抜試験』まで、残り2ヶ月を切った。一挙手一投足が『評価』に値し、学園内のピリつきが酷くなっていく中で、授業内容は必然と『戦闘演習』が多くなっていく。他クラスと行う『合同演習』も面白いが、やはり、高レベルが集まる同じクラスでの演習は学びが多い。普段共に授業を受ける者達が、この中だけは敵になる。手の内をよく知っている相手が、だ。だから、いかに相手を出し抜けるような手を出せるかが、大事になってくるのだ。
『戦闘演習』の授業内容は、クラスの人間の中でランダムに選ばれた相手と戦う、というかなり単純なものである。ただ、卒業後の『実践戦闘』を想定しているため、クラス内の強さが加味されない。演習用に作られた擬似HPが0になる、もしくは15分を経過した時点で終了となり、これを50分の授業時間で何回も繰り返すのだ。まず私が初めに戦ったのは、誰に対しても分け隔てなく優しく賢い、生徒会書記にしてフーリ一族の才女『ガーネット・フーリ』である。フーリは、私に対して丁寧なお辞儀をする。
「今回はお相手、よろしくお願いいたします。フーリの名に恥じぬよう、美しく咲いて見せますね。」
「あいも変わらず丁寧な口上だなぁ。本当の戦場でもそれを述べるつもりか?」
「えぇ、当然です。フーリを名乗るならば、相手にも自分にも礼儀を尽くす。それこそが美しさであり、それで尚勝ってみせます。」
「…そうか。では、よろしく頼む。」
…フーリの厄介なところは、精神の揺らぎが極端に少ないことだ。彼女にとって『“フーリ”とはこういうものだ』という確たるものが存在するのだろう。精神的な攻撃は通用しない。それに、フーリ一族には先祖代々から創り上げてきた“魔法”が存在する。
「では、先手必勝という点で、私から参ります。“上位魔法『散り際も美しい花』”」
見惚れてしまうほどに美しい花が辺り一面に咲き誇り、刹那げに散るが、その花弁は眩く光り輝く。…言ってしまえば光を発するのみの閃光弾だ。
「“初位魔法『疾風』”」
だが、本体は花弁だ。風を仰げば吹き飛ぶ。…フーリ一族には、彼らにしか扱えない『花』の『属性』が存在する。祖先が『水』と『木』と『光』を掛け合わせて作ったものらしい。
「やはり、この程度は軽く防げてしまいますか。では、“上位魔法『気高く咲く一輪の花』”」
フーリの目の前に、長く大きい一輪の花が現れる。その花は、私に向かって花粉を一斉に放射する。…だが、これの正体も見切っている。『水』と『光』の持つエネルギーを利用した爆弾だ。主成分は『水』であるため、『土』で防げばいい。
「“初位魔法『大地』”」
…しかし、本当に“それだけ”か?前回も使った同じ手を、コイツは二度も使うのか?
…いや…そうか!
「ようやく気づきましたか?プラス“中位魔法『花言』”!」
花粉が内包していたのは『水』ではなく『風』であり、『土』の壁をいとも容易く削ってしまう。
「…“中位魔法『三方位盾』”」
三つの方向に出現した盾が攻撃を防ぐが…属性が存在しない防ぐためだけの魔法はあまり使いたく無かった。得意も苦手も存在しないこれは、損も得もなくうまみがないからだ。だが、手っ取り早いのは事実である。
「えらく初めから色々使ってくるな?魔力切れ起こすかもしれねぇぞ?」
「思ってもないことを。精神的な攻撃は無意味だとわかっているでしょう?それに、あなたと私が戦えば単に持久戦です。であれば、初めから手数で有利をとります。」
「『海風』とか『砂漠』とかは?」
「あれは情感が高い人です。あなたには意味ないでしょう?」
…やっぱ厄介だなぁ。だったらこっちも、手数で畳み掛けるか。
「“中位魔法『大地の牙』”プラス“上位魔法『果てしなく伸びる蔦』”」
先程土の壁に使った土が三角錐型に変化して周囲の大地に無数に出現する。そこから大量の蔦がフーリに襲いかかる。
「…なるほど。最低ですね。“特位魔法『枯花大量剪定』”」
空中に巨大な鋏が出現し、丁寧かつ大胆に刈り取っていくが、
「…ほい、フィニッシュだ。」
蔦が出現していない三角錐の一つが伸び、心臓を一突する。どれだけHPがあっても、心臓を突かれれば1発アウトだ。
フーリはこちらを少し睨みながら言う。
「…あなたは手数で攻めると言った。だから、最終的な一手は単純かつ姑息なものだと今までのあなたを見てよくわかっていました。でも、それをもあなたはわかっていた。そこで、蔦を無数に伸ばして、植物を大事にする私に“処理をさせる”ようにした。そっちに思考と魔力を割かせ、最後の一手を防がれないようにした。…ですよね?」
「…気持ち悪いな。」
「そちらこそ。」
戦場では姑息だの何だの関係ないが、演習では手の内を知られないためにもあまりそういった手段は使わないようにしている。だが、フーリは無理だ。『精神』『魔法』『魔力』『観察眼』『思考』どれをとってもトップレベル。姑息な手段も取らざるを得ないのだ。…と、このようなハイレベルな読み合いによる戦闘が行われる『戦闘演習』は本当に面白い。この後4戦ほど行ったが、結果は『引き分け』『勝ち』『引き分け』『引き分け』となった。…まぁ、戦績を見る限り『選抜試験』に参加することはできるが、ポイント稼ぎはかなり大変だと思う。…みんな本当にレベルを上げてきてて、恐ろしいな。そんなことを考えている最中、遠くからこっちまで聞こえるほどの叫び声が上がる。…何となく色々察しながらそっちに向かうと、そこにはフレストと『優良クラス1』の級長『テッド・グレード』がいた。級長は責任感がとても強く、自他共に厳しい。そのため、『優良クラス1』に見合わないフレストが居ることをよく思っておらず、なにかと突っかかっているのだ。どうやら、今回は最後の演習相手になってしまったらしい。周囲が止めようとしているが、言葉は止まらない。
「何故だ!?何故お前のような弱い者がここにいる!!確かにお前は努力しているのだろう。それは理解している!だから、『アルデミオン』入りを否定するつもりはない!だが、名折れでは組むチームにも迷惑がかかる!!…俺が助言するから、クラスを下げてもらえ。クラス5なら努力次第で戦えるのではないか?」
フレストはそう問われるが、是とは答えない。
『…確かに才がないのは分かっています。家柄のおかげでここにいることも。でも、チャンスはチャンスです。折れる気はありません。』
そう言い切ると、級長は手を上に掲げ、黒い弾丸を出現させる。…責任感強くて、厳しくて、短気なのに何で『火』じゃなくて『闇』なんだよ。
「俺がこのクラスの級長だ!このクラスの権利も責任も俺が受け持っているんだ!!俺がこのクラスを守るんだ!!!!!“特位魔法『銀河を穿つ闇の弾丸』”!!」
黒い弾丸がものすごいスピードでフレストに向かっていく。
…もうすぐだな。
私はそう思いながらフレストに近づき、前に出る。
「時間切れだからいいよな?“特位魔法『銀河を照らす光の砲弾”」
空中に砲弾を出現させ、弾丸にぶつける。ぶつかったそれらは、巨大な音と風圧と共に消え去る。程なくして、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
翌日、“私情の魔法使用”としてポイント減を受けた級長が、頭を丸刈りにして現れる。朝のHRで謝罪の言葉を口にした。
「級長である俺がこのようなことを行い、クラスの輪を乱し、看板に泥を塗ってしまったことを深く謝罪します。申し訳ございませんでした。以後、このようなことが無いように精神鍛錬を徹底して参ります。また、どのような処罰もお受けしますので、決めていただけると幸いです。」
すると、すかさずクラスのお調子者達が言う。
「だったら〜、“級長”として放課後の戦闘訓練付き合ってよ!」
「私は“級長”として、昨日の戦闘データを見て改善点を出して欲しい!」
そんな声が次々と上がる。私も含めてだが、誰一人として彼を級長から下す気はない。短気で暴走気味であっても、彼の厳しさに、責任感に、このクラスは何度も助けられてきたからだ。
…まぁ、あのときも少しだけ倍にして返したから後腐れも特にはない。
【エンディング】
ー『丸刈りに対して』ー
《ディボード・ヘレス》
「…将来もしかしたら…いや、まぁ、反省の意思は伝わったぞ。」
《フレスト・ヘレス》
『やっぱり申し訳なく感じるけど、でも、それを思ってしまうことは謝罪の意思を否定してしまうから、考えないようにしよう。』
《ガオル・オドン》
「級長先輩…ハゲたんすか?…丸刈り…はぁ。…よくわかんねぇっすけど、ドンマイっす。」
《ガーネット・フーリ》
「日々是精進です。態度で示しただけで終わらず、心も磨きなさい。」