第2話『フレスト・ヘレス』
第1章『アルデン編』
【本編】
前にも語ったが、私の弟である『フレスト・ヘレス』は、『優良学生』でありながらも『魔力量』や『才能』は基準値よりもやや低い。確かに、その面だけ見れば階級社会で軽んじられる部分も仕方ない面があるかもしれない。だが、例え『家柄』の影響が大きい部分があったとしても、フレストには“挫けない強さ”がある。今の現状を悔しく思い、向上心を持って這い上がろうとする姿を私は近くで見ているからこそ、その面でもフレストは『優良学生』だと考える。…この世界において、『精神的な強さ』はとても大事なものだと、私は思う。
前には語らなかったが、この世界には、通称『バケモノ』と呼ばれている存在がいる。約5年前からその存在が目撃されており、予測不能な行動や神出鬼没性から、畏怖の念を込めてそういう通称で呼ばれているのだ。なぜ通称なのかと言うと、まだその存在の解明が中々進まないからである。…まぁ、十中八九『政府』及び『魔法教会』が真実を隠していると思うが、とにかく、正式的な定義付けがない以上、通称で呼ぶしかないわけだ。そして、その『バケモノ』は、無闇矢鱈に人を襲う。そのため、『バケモノ』の掃討に繰り出す組織が存在する。それが『魔法教会』である。政治や経済面を管轄にする『政府』と分けられ、魔法関連や『バケモノ』に関することは『魔法教会』が管轄だ。ただ、『魔法教会』自体が掃討に当たるのではなく、教会が管理している掃討部隊『アルデミオン』が実働部隊として活動している。『イーフォ学園』の卒業生の大半は、この部隊及び『魔法教会』に属している。『魔法教会』や『アルデミオン』に属することは、魔法を信仰するこの世界において大きい名誉である。…色んな場所にある階級制度の中で生き残るためにも、学園生同士で競い合う『試験』や『行事』がたくさん存在するのだ。私は、学園には誇りを抱かないが、『魔法教会』や『アルデミオン』に属する誉は理解しているし、納得もしている。だからこそ、『魔法教会』にまで上り詰め、今の腐っている教会全体を変えてみせる。そして、『魔法教会』こそが平和の証であることを証明できるようになってみせる。
その『魔法教会』に関してだが、この組織は前述した通り、魔法関連や『バケモノ』に関することを管轄としている。この世界に流通している『魔力』による等価交換システムや『アルデミオン』部隊による掃討実績、魔法に関する使用ルールの制定等、様々な功績を上げている。また、前述で『イーフォ学園』の学園生の大半が『アルデミオン』及び『魔法教会』に属していると話したが、卒業生の大半は『アルデミオン』の所属から始まる。実働部隊の隊員として働き、功績を認められた者が、昇級の末『魔法教会』に所属できるのだ。…まぁ、一部腐っている暗黙のルールが存在したりするが、それはまた話すとして、『魔法教会』内にも勿論階級が存在する。上から、“『魔法教会』の支配権限を全て所持する、偉大なる血筋の一族がなることのできる『魔教祖』”、“『魔教祖』のお言葉や意思を一番に汲み取ることのできる、『魔教祖』の次に支配権限を持つ『四柱』”、“『魔教祖』及び『四柱』の命令を受け、そのための体勢づくり及び下位に命令を行う『七幹部』”、“『七幹部』の下に存在し、『アルデミオン』に対する行動指針を示す、『魔法教会』の中では一番下の『魔教員』”となっています。そして、『魔教員』以外には側近である『援助員』がついております。フレストはよく、“お兄ちゃんは絶対『四柱』になっていくと思うから、その時に僕が、『四柱』を支える『援助員』になれるように努力するんだ”と言っている。その信頼を、フレストの努力を裏切らないためにも、必ず上に行かなければならない。そう言う関係もあって、授業を終えた放課後等は、戦闘訓練を行なっている学園生も多かったりする。その中で、後にフレストやオドンに聞いた事を踏まえて、魔法について語ろうと思う。
ある日の放課後、豪華さと耐久性を兼ね備えた広いグラウンドで、多くの学園生が魔法を存分に使用した戦闘訓練を行っていた。魔法は、『階級』によって変わるが、威力の大きいものが多いことから何処でも使える訳ではないのだ。『階級』に関しては、全部で7つ存在しており、一番下から、“社会システムの中で使用されている、誰もが使える『無位魔法』”、“どの学校でも最初の頃に学ぶ、基礎的なものである『初位魔法』”、“基礎の応用であり、少し技術を必要とする『中位魔法』”、“高い技術と知識、才能を必要とする『上位魔法』”、“災害級の威力を持った、一握りの才能の持ち主が使える『特位魔法』”、“『バケモノ』等が使う、この世界では本来あり得ない謎の魔法である『測定不能魔法』”、“所謂禁忌と称される、理をも凌駕する『禁忌魔法』”だ。『測定不能魔法』と『禁忌魔法』以外は学園で学ぶことができる。また、この『階級』の面白いところは、『属性』の相性次第で『初位魔法』でも『上位魔法』と戦える点だ。魔法には、『階級』以外に『属性』という要素も存在し、遺伝的要因・内外的要因から得意とする『属性』が決まっている。
水 → 火 → 木
↑ ↓
土 ← 風 ← 雷
闇 ↔︎ 光
このように、『属性』は主に8つ存在し、矢印の方向に対して強いことを表している。私の場合は『風』であり、『風』関係の魔法を使用する場合の魔力消費や技術はある程度緩和されるが、『雷』の魔法は厄介だったりする。ちなみに、フレストは『水』で、オドンは『雷』だ。少し話がそれたが、例えば『土』の『上位魔法』を使用したとしても、『風』の『初位魔法』を得意な人間が使えば、防ぐことができるんだ。そんな魔法を使用した戦闘訓練は、いつもはもう少し和気藹々として行われているが、今は『選抜試験』が近いこともあって、空気がピリピリしている。そんな中で、『一般学生』の男女2人が訓練を行っていた。最初に男性の学園生が魔法を放つ。
「“中位魔法『龍の息』”!」
「…だったら、“初位魔法『疾風』”!」
「おい!火属性の魔法に風属性の魔法をぶつけたら相乗効果でやばくなるだろ!!早く逃げろ!!」
周りも少しざわついていたらしい。…まぁ、当然と言える。先程の説明に付け加えるが、この図の中の、対面に位置する『属性』達は、同時に使うと相乗効果が発生して、威力が爆発的に増加する。いくら『中位魔法』と『初位魔法』に重ね合わせと言えど、威力は『特位魔法』と大差なかったりする。すると女性の学園生が、
「逃げるのはあんたよ!この前私がいるのにも関わらず、平気で別の女とイチャイチャしてたわね!お仕置きに食らいなさい!プラス『弾力す(はじきかえす)盾』!」
と『中位魔法』を放つ。ただ、そのままじゃ男女間のいざこざでは済まされない。
「…それは悪かった!だが、これ俺だけ巻き込まれるんじゃすまねぇぞ!?」
「…あ。…みんな、逃げてっ!」
…後先考えず、感情に任せて魔法を振るえば、こうなる事など考えればわかる事だろうに…。すると、フレストは“どうにかしなければいけない”という思いのもと、他の学園生の前に立つ。
「何してるの!?あなたも早く逃げて!」
女性の学園生がそう叫んだが、フレストは逃げる気配さえ見せることはなかった。“初位魔法『盾』”の魔法を構えて、弾き返そうと画策していると、後ろからオドンが現れる。
「『盾』じゃ、まず無理だぞ。あの威力のものが飛び散らねぇようにするには、飲み込むしかねぇ。…“上位魔法『閃光を呑みこむ闇の渦』”!」
オドンの前に出現した黒い渦が、土や埃、葉を巻き込んで暴走した魔法を呑み込んでいく。オドンは汗を垂らしながら片膝をついて今にも倒れそうな様相だった。…無理もない。“上位魔法”のしかも“闇”だからな。…無理もないが…。…フレストが駆け寄り、オドンに“初位魔法『共有』”の魔法を使用し、魔力の共有を図ったが、それも虚しく、黒い渦が全てを吸い込んだのち、オドンは倒れる。
その後、オドンは保健室に運ばれたが、少ししたら回復した。また、『一般学生』に2人は反省文+ポイント減の罰だそう。この時期でそれは痛手だな。フレストは、この件で、魔法の恐ろしさや次善策を考える大切さを改めて知ったと共に、彼の強さを感じたらしい。オドンのように他者を守り、支える強さを手に入れる、と意気込んでいたが…アイツの“違和感ある強さ”は何なんだ?
【エンディング】
ー『照れるなよ』ー
「あの時は、フレストを守ってくれてありがとう。」
「…いや、別に身体が勝手に動いただけで…。」
「それでも、あの時の行動がなければ、フレストはどうなっていたかはわからない。」
「…まぁ、受け取っときますよ。」
「…照れてる?」
「…うるさいです。」
「…顔赤いよ。」
「…いつも通りです。」
「な訳ないだろ。」