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ディボード・ヘレスの物語  作者: 天音翠
第1章『アルデン編』
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第1話『ディボード・ヘレス』

第1章『アルデン編』

【本編】


 『パラレルワールド』という存在をご存知だろうか?


 今まで、我々は歴史という長い道のりを歩んできて、その中でいくつもの『選択』に迫られてきた。それを必ず一つ選び、そして我々の世界は創られてきた。だが、もし”別の『選択』をしていたら“…。そうして考えられてきた世界を『パラレルワールド』と呼ぶ。…実は、私の住んでいる世界は『パラレルワールド』だ。学者は『パラレルワールド』の可能性について幾度も研究を重ねてきたが、その過程の中で、あなた達の世界を『オリジナル』と仮定し、我々の世界を『アナザー』と定義した。『オリジナル』と『アナザー』が分けられた所謂『分岐点』は、「科学が魔法を淘汰した」ことにある。そのため、『アナザー』では科学と魔法が共存し、顕著に秀でることなく信仰されている。こちらの世界は、国が7つに分かれており、私はその内の一つ、『アルデン』という国の出身である。『アンデル』は、主に魔法を信仰していて、『魔力量』による先祖代々からの階級制度が存在する。一方で、私の住んでいる『イーフォ地域』は比較的都会であるため、差別意識は比較的少なく、科学も学びやすい。だが、比較的少ないだけであって、『魔力量』の少ない者を軽んじることはある。私には弟が存在する。名前を『フレスト・ヘレス』という。フレストはとても愛らしく、目に入れても痛くないほどの可愛さだ。だが、フレストは、上流の家が占める第1区の家の者としては、『魔力量』が基準よりもやや少なく、魔法の才もやや低かった。そんなフレストを、両親は酷く冷たくあしらい、最終的にはいない者扱いした。また、『家柄』の影響で、私達が通う『都立イーフォ学園』では『優良学生』として扱われていることから、周りも良くは思っていない。…だからこそ、私がフレストを守らなければいけないのだ。


 とある朝、私が目を覚まして廊下に出ると、フレストが既に目を覚ましており、私の部屋の廊下の前に立っていた。

『おはよう、お兄ちゃん!ご飯できてるから、下で一緒に食べよ!』

そう言って、ほんわかした雰囲気でにこやかに笑う。それはそれは本当に愛らしいが、もっと愛らしい部分が存在した。

「おはよ。挨拶が元気なのはいいことだが、寝癖がついてるぞ〜。」

と言って笑う。フレストは顔を真っ赤にして、

『えっうそっ!直さなきゃ〜!…って、そんな笑わなくたっていいでしょー!?』

と慌てて洗面台へと向かっていく。学園では結構しっかり者だが、家では抜けている部分もあったりする。こういうところも愛らしいのだ。


 私の家の食卓は、できる時は家族全員で食べることになっている。…だが、私はこの時間が嫌いだ。両親は、当てつけかのように、私にしか話を振らないのだ。

「…で、学園での学習態度や成果に弛みはないだろうな?お前に、この家の価値や未来がかかっているのだから、泥は塗るなよ?」

イーフォ学園の卒業生であり、成績上位10名の中に当然の如く入っている父親は、尊大な態度で言う。

「…はい。この先の『選抜試験』に向けて、座学・演習共に手を抜かず努力しております。」

私がそう返すと、

「まぁ!そういえば、もうすぐ『選抜試験』の時期だったわね。あなたには充分に才能があるのだから、お父さんと同じように、上位を目指してちょうだいね!」

と、母親がにこやかに言う。…いつも通りの薄っぺらい会話だ。『選抜試験』に関しては、また別で詳しく説明するが、今は、”学園生が『優良学生』か『一般学生』か『劣悪学生』のどれかになるかが決まる大事な試験“と言う認識でいてくれ。『選抜試験』には“座学”と“実践”が存在していて、ここで得たポイントは、とても難易度の高い『卒業試験』の合格ポイントに加点されるため、挑戦者は死ぬ気で点数を取りにくる。父親は無表情のまま、

「…今度の休み、私が訓練をしてやろう。“実践”がメインだが、“座学”もちゃんとテストしてやる。私が出すものくらい容易に解けるようにしろ。そして、私の成績さえ超えてみせろ。」

と言う。私は内側に抱いた苦い思いを押し殺して、手を合わせると、

「…ご馳走様でした。…ありがたいお言葉です。是非、よろしくお願いいたします。…では、学校へ行って参ります。」

と言って、食器を片付けたのち、家を出ていく。…本当は訓練など受けたくないが、私は強くならねば、良い成績を残さねば、もしかしたらフレストにその皺寄せがくるかもしれない。それだけは避けたいのだ。

『…ごめんね、お兄ちゃん。僕、何もできなくて…。』

フレストは申し訳なさそうにそう言う。…フレストがそんな顔をする必要はないのだ。だって、

「…お前が苦しむのが一番怖い。だから、そんな悲しそうな顔すんな!…お前には笑顔が似合うぞ〜。」

そう言って、顔を引っ張る。フレストは『やめてよ〜!』と言いながらも、笑っている。…私は、この日常を守りたいのだ。


 私の家から学園までは徒歩15分程度の距離だ。家柄の影響もあって、学園までの距離がとても近い。他愛もない話をしながら歩いていると、学園の前にたどり着く。イーフォ地域の上流である第1区に属する最高位学園『都立イーフォ学園』。外観は見る者を圧倒するような巨大で荘厳な佇まいであり、そこに入っていく学園生も、見てくれや中身は個性的だが、いかにもエリートだ。潤沢な財源を投じたそこに通うことは、学園生にとって限りない名誉なのだ。…まぁ、私にとっては名誉でも何でもないが。玄関ホールを抜け、『優良クラス1』と書かれている教室に入る。クラスは1〜5まであり、『魔力量』や『家柄』、『才能』等により振り分けられている。私達がクラスへと入ると、クラスメイトの殆どが私に挨拶等をしてくる。だがそれは、“これから先を見据えて”“家柄も含めて”仲良くしたいというものであり、純粋な気持ちは存在しない。だからこそ、アイツは異質だ。…やっぱり、今日も私の椅子に座っている。ただ私を睨みつけ、不敵に笑っている男の名は『ガオル・オドン』。…当然の如くこのクラスに入っているが、オドンはそもそも『劣悪学生』である。また、私の席に座っているのは…単なる嫌がらせだろう。オドンは立ち上がると、私を指さし、

「おはようございます、ディールセンパイ!…オレ、今日の合同演習こそアンタに勝ちますから。覚悟しておいてくださいね!」

と堂々宣戦布告する。これまでの戦歴やオドンの階級を鑑みて、クラスメイトは彼を思いっきり謗るが、彼は意に返す様子なく立ち去ろうとする。これだけなら、面倒臭く生意気な存在としての認識しかなかっただろうが、オドンはそれだけではないのだ。

『おはよう、ガオル君。今日も頑張ろうね!』

フレストがそう挨拶すると、オドンは一瞬フレストを見て、視線を外すと、

「…っす…。」

と言って去っていく。これがあるから、私はオドンのことを嫌いになれないのだ。…何かといって突っかかるくせに、礼儀とか、思いやりとかは忘れていない、本当に異質な人間だ。まぁ、それでも『合同演習』は私が勝ってしまうのだが。


【エンディング】

ー『秘めたるもの』ー

『お兄ちゃん、おかえりー!今日の委員会の会議どうだった?』

「あぁ、今日もいつも通り可愛い天使がお帰りの挨拶をしてくれた!これだけで明日も頑張れるな!」

(あぁ、いつも通り大変だったが、しっかりまとめることができたぞ。)

『…ありがとう、でも、ちょっと恥ずかしいかな?』

「…?…何が恥ずかしいんだ?」

『えっと…僕のこと天使っていってくれたから…。嬉しいんだけどね?天使って、ちょっとオーバーかなぁって。』

「あ、えっと、これは違くて、いや違う訳じゃないけど、そうじゃなくて…。」

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