9話 THE WORLDS I HATE
「はぁ!?どういうことだ!」
バーゲンス先生は、走りながら手に持っているスマホに向かってそう叫ぶ。通話相手はデビットさん。
死徒についての緊急の連絡があったのだ。
バーゲンス先生の周りには、多数の葬人がいた。
[それは僕が上層部に対して言いたいセリフさ。それはともかく、出現は統計でみてもあと30分後。できる限り戦力を集めたまえ!]
デビットさんの方もいそういでいるようで、時折り息切れのような、息の音が聞こえる。
「わかってるよ、くそ!しかしなんで"大死徒8のロマ"がこんな都会田舎に現れるんだよ!
大死徒は普通ニューヨークとか東京、台湾とかに現れるもんだろ!クソロマめ!」
大死徒、それは死徒の中でもとりわけ強い個体に授けられるコードネームのようなものだ。
個体数は12体。
大死徒一体で、首都が文字通り焼け野原になるようなこともある、とてつもなく危険な個体達だ。
そして、"8のロマ"は大死徒の8体目の個体だ。
[例の彼も連れてくるんだ!
時間が無い、育成はまるでしてないが微々たる戦力にはなるだろうさ!]
「まじで言ってんのか!?」
自宅の中に入る桑と姉。
姉はすぐさまソファに寝転がる。
「あー、美味しいもの食べたーい!
病院のご飯、やっぱり不味かったよ…」
「待ってて姉さん、作ってあげる。」
桑は冷蔵庫を開くが、中身は空。
ここで思い出した。
買い物を済ませていなかったのだ…
桑は姉にそれに加えて今から買いに行くことを伝えると、サイフとエコバッグをカバンに詰め込んで家を出た。
そして、最寄りのスーパーに向かっていると、とある人物と出会う。
「はぁ、はぁ、いた!」
「ば、バーゲンス先生!?」
なぜこんなところにバーゲンス先生が、と思った途端、バーゲンス先生は遮るように桑に言った。
「黒装束持って来い!はやく!」
言われるがままに自宅に戻り、ソファーの上で寝る姉と家族写真を横目に桑はすぐに装束を持って家を出る。
バーゲンス先生の他にも様々な葬人が集まっていた。
「よし、行くぞ!」
沿岸部に向かうという、バーゲンス先生たち。
そこで上陸前に撃退、または消滅を狙うのだとか。そして走りだす葬人達。
桑は文字通りその瞬間に、おいていかれた。
先生を含んだ葬人達は、徒歩だと言うのに、車並の速度で走っていた。
屋根から屋根へ、塀を飛び越えその先へ。
人間とは思えない身体能力。
桑は唖然とするばかりだった。
すると、背後から…
「草士郎、彼を。」
「…」
桑は気付けば葬人の集団に追いついていた。
お姫様抱っこをされながら。
自身を抱くのは、無表情で白髪の男。
すると、横の鼠色の髪の女が、桑に話しかけた。
「貴方、もしかして新人ですか?」
「え?えっと、はい!」
「そう、私の名前は早瀬剣禪今、貴方を抱えているのは私の友達の林峰草士郎、よろしく頼みます。」
桑はそのまま、2人に沿岸部まで"輸送"されて行った。
そして、沿岸部へ到着すると、桑は優しく下される。
「助かりました!」
「ええ、次回からは誰も助けてくれないから気をつけて」
「は、はい!」
そういうと2人はどこかに駆けて行った。
そして、バーゲンス先生がまた桑の元へやってきた。
「すまん、まだお前は走れないんだった。あの2人には生きていたら、私の方からも感謝の言葉を伝えておいてくれ。」
そういうと、バーゲンス先生は桑に役目を任せた。その役目というのは、怪我人の運搬。
ロマとの戦の最中に出た負傷者を後方へ運ぶ役割だ。
「ロマは私達がなんとかしてやる。だから、お前は怪我人を助けることと、生き残ることを考えておけ!」
「はい!」
17:25分、ロマ沿岸部から距離250メートル。
葬人"仮狙撃隊"による狙撃。
___効果無し。
17:27分、ロマ沿岸部から距離170メートル。
葬人"仮狙撃隊"、"仮召令抜剣隊"による攻撃。
いずれも効果無し。
17:30分、ロマ沿岸部から距離120メートル。
葬人による一斉攻撃を開始。
___一般人、葬人ともに死傷者多数。