4話 THE BOY NEEDS A WAY TO SURVIVE
「まず一つ目、"死徒"が見えているんだな?」
桑は返答に困る。桑の喉元に突きつけられた刃物はより桑の喉に近づき、触れていないと言うのに、金属特有のそれとはまた違った冷たさを喉仏に感じる。
「ぇぇっと…その…」
「はいかいいえで答えるんだ!」
バーゲンス先生はそう言い立ち上がると、さらに何処かに隠し持っていたリボルバー式の拳銃を、桑の眉間に突きつける。
桑は慌てて「は、はい!よくわかんないけど違います!」と答えた。
「心象鏡に反応は無い…何も知らないだけらしいし、"墓荒らし"とも関わりは無いようだ。
間違いや嘘だったら殺す、解いて良し。」
その合図とともに、桑に突きつけられた武具や刃物の類いはその使い手たちによって引き下げられた。
桑は未だに状況を掴めずにいる。
「何処から説明しようか…まぁ、まずはお前が見えているモノについて話そうか。」
「見えているモノ…?」
バーゲンス先生によると、桑が視ていた"それ"は、死徒。
死より生まれ、生を貪る存在。
また不幸から生まれ、不幸を振り撒く存在なのだという。
貪られた者は、事故に巻き込まれたように死に至る事もあれば、死徒の攻撃で押しつぶされ、その前に死ぬ者もいるのだと言う。
死より生まれ死をふりまく、人間にとってろくでもない存在なのだと。
「そして、私達は死徒を狩り、葬う存在、葬人だ。ここで、お前に二つ選択肢をやる。」
「選択肢…?」
「あぁ、こう言うやり方は好きではないんだけどな。
一つ、私達と共に葬人になること。
二つ、死ぬ」
桑は呆けた顔でそれを聞いた。
狡いと桑は思う。当然と言えば当然、退路を塞いだ上で、仲間になるか死ぬかの二択を突きつけるのは人としての優しさが、バーゲンス先生方にはないように思えた。
しかし、どれだけ不満持ち吐き出したとしても、Noと言えばきっと本気で殺される。
何より、ただ自分のことばかりでいたくは無いのだ。
「…はい、仲間になります」
「うし。んじゃぁ、お前らもどっていいぞ」
桑の周りの白装束は、その合図の直後すたすたと部屋の外に出ていく。これだけの大人数でありながら、隣の病人たちも、病人たちの家族も、誰も不思議に思っていないようだった。
本当にバーゲンス先生と自分にしか見えないのだな。
「それじゃあ白百合、退院するぞ」
「へ?」
花常張鳴は目を覚ます。
そして、今自分の居る病院の4階。そこの窓から外の景色をみる。彼女は初めて、恐ろしいものを視る。
「黒い塊たちが…街に…?」
目覚めて早々、彼女は街の景色を視ることとなった。いつも通りの日常、自分が居なくとも回って行ける退屈な淋小卓町の社会の外面を視る。ただ、今回は少し違った。
街の至る所に人の手足や目玉を生え揃えた黒い塊、葬人達が"死徒"と呼ぶ存在を目にした。
「あぁ!はりな、目を覚ましたのね!」
「あぁ、良かったよ!」
張鳴のママとパパは張鳴にそう言葉をかける。
相当心配だったのだろう。
奥から、白衣を来た貫禄のある老いた医師がやってきた。
「おやおや、目を覚ましたのですね。
まずは、おめでとうございます。
そして、張鳴さんの健康観察を始めていきます。」
「お願いします、先生!」
「1人娘なんです、何か異常があったら困る!」
いつものように過保護な両親。
張鳴は痛む頭を抑えながら、これまでの経緯や記憶を思い出していくことにした。
最後の記憶は、上から崩れ落ちる瓦礫に体を潰されて、そこへ誰かが駆け寄ってきて…それから…それから…
それから先は思い出せなかった。
張鳴は医師の言葉に耳を傾ける。
「ではまず、記憶から。貴方の生年月日は、何月何日ですか?」
「えっと…2001年、12月7日です。」
「よし、ではこれまでの出来事については____ 」
張鳴は耳を傾けようとしていながらも、その対象は医師ではなく街だった。
黒い塊が街の至る箇所に蔓延り、蠢いている。
きっと頭を打って幻覚でも見ているのだろう、そう思った。
すると…
「うわぁ!?」
「ん?、どうしたのです張鳴さん?」
天井にその黒い塊が張り付いていた。