23話THE WOLF STOOD SILENTLY
「さぁさぁ、二人とも起きてください!」
桑はフライパンの裏をお玉で叩きそう言った。
時刻は朝7:00。二人は目を擦りながら起き上がる。
食卓の上には、黄金に光り輝くフレンチトーストが、蜂蜜とバターの匂いを漂わせながら鎮座していた。
「んにゃっ…いただきます…」
ヴァミリタスは、目を細めながらフレンチトーストを食べ始める。口の中に広がる芳醇な蜂蜜の香りと、表面はサクサクとしているが中は卵がよく染みており、ふわりと柔らかい食感もまた、蜂蜜と共に口の中いっぱいに広がった。
朝食を食べ終えると、桑は下着と着替えを二人に差し出す。昨日は二人とも風呂に入っていないようだったので、入らせようとした。
「うぇぇ…いいじゃらいの…後でも…ここわ日本の家だけど…私達外人らし…ふぁわあ。
それはそうと、毛布なりお風呂なりありがとう…」
「そうだそうだ…お前は私たちのお母さんじゃないんなぞ…」
いまだに眠いのか、目を擦りながら回らない呂律でそう桑に訴えた。
桑はなんだか腹が立ったので二人を風呂場に押し込むとドアを固く閉ざす。
二人は致し方なく風呂に入ることにした。
「なぁ桑よお、ムカついたんなら口にしたっていいんだぜ…」
ひと段落がつき、ヴァミリタスは先生とテレビを見ている。桑は家事をこなしていた。休日の朝にはぴったりな穏やかさだった。
すると、バーゲンス先生が桑に言った。
「あ、桑。死徒を葬る依頼が入ったぞ。そんで、今回は私やデビッドの指導者無しでの教育実習だ。」
それを聞くと桑は、なんだか不安になった。そしてその感情が全身を包んだような感覚に陥った。いつもだったら、きっと姉が桑を元気づける一言をくれるのだ。
だが、今の桑にもう姉はいない。独り立ちする時がしてしまったのだ。
ただ、周りよりも少し早く。
「それで、実習の課題は死徒を殺し無事に帰還する事。それが課題だ」
桑は一つの地図を渡された。とある路地裏に印がされていた。恐らく集合場所だろう、紙によると時刻は四時らしい。
バーゲンス先生は、桑に己の感情を寄せる。
(さぁ、桑。見せてみろ、お前の力の真髄を…)
夜、桑は予定通り地図に記されていた路地裏までやってくる。そこには、二人ほど先行している者がいた。
「おや、桑さん」
「桑…さん…。」
早瀬剣禪さんと、林峰草士郎さんだ。
桑は二人に駆け寄った。
二人も、デビッドさんから独り立ち実習に行くように言われたらしい。
「それじゃあ、任務を始めていきましょう」
そう意気込み始まった死徒討伐。
討伐以来の内容は、この路地裏内で同一の特徴を持つ死徒が2体ほど確認されたため、捜索し、発見次第葬ることだった。
桑たちは路地裏に足を踏み入れる。




