21話THE GIRL FOUND THE ANSWER
人形や死徒に臆することなく遅いかかる銀色の狼達。ささやかな反撃も容易く躱し、喰らいつく。瞬く間に人形達は戦闘不能となっていった。
「す、すごい、あの数が、一瞬で…!?」
たじろぐ桑。
「ヴァミリタスは、私達上級葬人に限りなく近い中級葬人。よく見ておけ、お前の姉弟子を。」
一通りくらい尽くすと、帷が消えて行く。
またあのカビ臭い空間に引き戻されると、そこにはわずかな死徒や人形達しかいなかった。
「幻術の類かと思ったが、そうでは無い…やはり、死徒を操る能力は確立されているか」
死徒の一体を、一瞬で切り裂くハベルさん。
桑の出番は、まだ無いようだ。
すると、奥からさらに、人形達の増援がやって来た。構えるバーゲンス先生と桑達。
バーゲンス先生は、ハベルさんに言う。
「ところでアンタ、いつになったら本領発揮してくれるんだ?」
「…さぁ、いつでしょう。
その必要も無く、終わるように思えますが。」
不適な笑みを浮かべてそう言った。先生は舌打ちをする。
現れた増援の数は約20体。そのほとんどが死徒だ。人形とは比べようもないほどに戦力が高い。
ヴァミリタスのナイフはもう切らしてしまっている。先程のように一掃は難しいだろう。
バーゲンス先生とハベルさんは葬具で生き残ったとしても、桑とヴァミリタスは、おそらく無理だろう。先生の葬具は、あくまで自身を超強化するもの、誰かを庇いながら戦うことは大変難しいものだった。言わば、防御力にのみ特化したタンクだ。
そんな中、全員生き残る方法はないかと模索するバーゲンス先生。
(どうしたら良い…。私は、どうすればコイツらを守れる?)
「廻葬、廻神黄泉繰」
すると、死徒の一体が細切れになる。
「一体、なんの呼び出しだいハベル。
これから可愛い愛弟子二人のたこ焼きパーティーをする予定だったのだが…」
次々と死徒が細切れになって行く。
現れたのは、デビッドさんとそれに付き添うあの2人。歓声を上げる桑、死滅した死徒達。
全員、助かったのだ。
桑は付き添う二人を見ると、あっと声を上げた。一人は、鼠色の髪をもつ女の中級葬人、もう一人は白髪の下級葬人だった。
「あ、あの時の、運んでくださった方ですよね!ええと…」
「早瀬剣禪です。死徒との戦いから生き延びることができていたようで、何より。」
そう返す剣禪さん。
桑はにっこりと笑った。
デビッドさんは、ハベルさんに近寄る。
「…ハベル、素直に助けてほしいと言いたまえよ。」
「すいませんね、仕事の関係で実力を完全に明かすことができないのですよ。ここは、元執行官の貴方が適任かと思いまして。私は忙しいので、ここらで失礼しまーす。」
そう返し、帰って行くハベルさん。
額を押さえため息を吐きながらも、それを了承したデビッドさん。バーゲンス先生以外の二人は、デビッドさんが元執行官であることに驚いた。
「それじゃ、バーゲンス達。
地上に戻ろうか、さらに買い足してたこ焼きパーティーでもしよう。」
「え?」と驚く一同だった。
やって来たのは、広いとは言い難いボロボロのアパート。何か訳ありな感じがプンプンしていた。デビッドさんの部屋を開ける。
「「お邪魔します…」」
入る一同。
中は意外にも綺麗で、清潔感があった。デビッドさんが改築でもしたのだろうか。
「皆、驚いているようだね。ここは、意外といい家でね、騒いでも防音性が良いから苦情を出す事も出されることも無い。外観を除けば、ほぼ完璧な賃貸さ。」
早速、たこ焼きパーティーの準備を始める一同。
「いやしかし、驚きましたよまさかデビッドさんが元執行官だなんて」
そう驚くヴァミリタスとデビッド。
世界に13人しかいないと言われている執行官、その元一人がこの部屋にいるというのだ。
有名人とたまたま知り合ったような感覚だ。
「たいして良い職でも無いのだがね…失明して、四年前に辞めることになったよ」
そうデビッドさんは言う。失明してなおあの強さなのだと言うのだから、驚きだ。
デビッドさんがタコを刻み、ヴァミリタスと桑がソースを作る。
バーゲンス先生がたこ焼きの生地を作り、剣禪さんと草士郎さんが台をセットして温める。
時刻は夕方。
晩御飯の手間が省けたようで、桑はホッとした。早速、みな食卓につく。
生地を注ぎ、たこを生地の中へ入れ、焼き上がるのを待つ。香ばしいたこの匂いに一同は誘われる。
しかし、焼き上がるまでが暇だ。
どうしたものか。
桑は暇つぶしに剣禪さんと草士郎さんについて聞いてみた。
「そういえば剣禪さんと草士郎さん、いつも一緒にいるようですが、どういったご関係なのですか?」
桑は二人に聞く。
すると、剣禪さんは答えた。
「そうね…"家族"かな」
そう言い、草士郎さんの手を上から握る彼女。
草士郎さんはそれについて何も思っていないのか、はたまた聞いていないのか、俯いたままだった。きっと、この二人には何かあったのだろう。桑はそう思った。
とうとう、たこ焼きが焼き上がり、桑はそれぞれの皿に均等な個数に分けて行く。
みな待ち切れないのか、分け初めて早々にタレをかけて口へ入れて行く。
桑もまた、タレをかけて口の中へ。
熱々のたこ焼き。表面はサクサクとして柔らかい生地の中に、歯応えと旨みの詰まったタコ足が、桑達の箸を進めさせる。
「あ〜、ウマわ!」
「私の生地の作り方、成功だ!」
「はい、草士郎。あーん」
「あぁ…む…おいしい」
家族のような、和気あいあいとした空気。
きっと、真っ当な人生を歩む運命にあれば、こんな風に家族とたこ焼きパーティーでも楽しめたのかも、桑は思った。
パーティーは終盤に差し掛かり、僅かな生地と僅かなタコ足。
じゃんけんによる争奪戦が始まろうとしていた。
「さぁ、この中でお腹がいっぱいの者はいるか?」
「居るわけないじゃないですよ…こんなに美味しいのに、今更ご馳走様なんて…」
「御託はいい、バーゲンス達よ。じゃんけんしようじゃないか。」
全員が手をたこ焼き機の上に握り拳をかざす。
「最初はグー__」
運命の、たこ焼き争奪戦の決着が、今始まり、今終わろうとしていた。
「__ジャンケン、ポン!」
たこゼロ、1発で終結、勝者あり。
勝者とは…
「ふぇー、たらふく食ったわぁ!」
…バーゲンス先生だった。