20話THE GIRL FOUND THE ANSWER
「助けて先生ぇ!」
「クソがッ!掴まってろ桑ァ!」
地盤がまるで崩落したかのように、一斉に崩れて行く。紳士服の男もまた、落下に巻き込まれたようだ。
舞い上がる土煙。
崩落が終わったようで、四人は立ち上がる。
奇跡的に全員無事のようだ。
あのお婆さんを除いて。お婆さんは瓦礫の下敷きになり、即死したらしい。
なぜなら桑の前に、そのお婆さんの手らしいモノが落ちているから。
桑は嘔吐してしまった。
「可哀想に…だが、死体は拾って行けねえぞ。
装束を着て居ないから、一般人にも見える。」
土煙が舞い終わると、広い空間にやって来る。先ほどとは比べようもないほど広い空間。まるで地下貯水槽のようだ。そして、ここもまた薄暗く、カビや埃で塗れていた。歩くたびに、それらが舞い上がりどうも居心地が悪い。
「しぶといぞ、君たち。もうそこの下級葬人と中級葬人は死んでいる計算なんだがな…」
紳士服の男は、そう言い何かを呼び寄せる仕草をする。
「何はともあれ、そこの執行官は難しくとも他の葬人には死んでもらう。それでは、ごきげんよう諸君」
そう言い、紳士服の男はポケットから取り出した拳銃で頭を撃ち抜いた。
「何をして!?」
再び倒れる男。
その撃たれた頭の傷口から、黒い煙が溢れてくる。
空間いっぱいに広がると、何かを生み出した。
それは、あの時倒した操り人形や多数の死徒。
その数は多く、軽く数えただけでも50以上はいるだろう。
「さて…どうしたものか。ここじゃ私の強みを発揮できないな。」
そう呟くとハベルさん。
人形達に構える四人。
生き残れるのかすら怪しいこの状況。
桑は固唾を飲んだ。
「桑、私の後ろに隠れてなさい!」
「何か策があるのですね。」
ハベルさんの問いに、ヴァミリタスに変わってバーゲンス先生が肯定を返す。何も彼女を葬人として育てたのはバーゲンス先生。
お互い口に出さずとも、息を合わせずとも、これから行う動きは分かるのだ。
襲いかかる死徒達。
ヴァミリタスは、隠し持っている投げナイフをそれぞれ一体ずつに傷をつけていく。
軽く40体ほどに傷をつけると、即座に地面に剣を突き立てた。
「皆、私の近くへ!」
寄る他の三人。
流れが遅くなって行く時間。
地面から浮かび上がる、狼が太陽を追いかける紋様。
その空間には、夜の帷が下された。
空に浮かび上がるのは月というよりも、皆既月蝕の時に見える太陽。
場所は森の中、人形達も、そこにいた。
しかし全てでは無く、それはヴァミリタスがナイフで傷をつけた対象だった。
「狼蝕葬、真神千疋月蝕(ろうそう、まがみせんつちげっしょく)」
途端揺れる地面。
やって来たのは狼の群れ。
狼の群れが、人形達を襲い始めた。
「な、なんですか、これ!?」
「ヴァミリタスの葬具、その二つ目の能力さ」
葬具の能力というのは、必ずしも一つでは無い。バーゲンス先生の葬具の副作用、"自身以外の誰かの軽い怪我を治すことができる"能力のようにだ。ただ厳密には、副作用では無い。
葬具を手に入れるための条件と言うのは、"人生、死に様、生き様に答えを見出すこと"。
その答えによって、能力は二つ以上保有することもあるのだ。
昔々、あるところに幸せに暮らす少女がいた。
朝起きれば、優しい家族が温かい朝食を食べさせてくれ、学校では友達がたくさんいて、勉強や運動でも優秀な成績を収めることができていた。来週には、弟が生まれる予定だった。
だが、彼女には、唯一不幸と言えるところがあった。それは、彼女にしか見えない黒い塊が存在していること。
誰にも言い出せず、自身以外の誰にも見えず、ただ少女だけにしか見えない存在。ただそこにいるだけの存在。
そう、思い込んでいた。
ある日、その黒い塊は少女から全てを奪って言った。家族を殺め、学校を壊し、母の腹を切り裂き、父をちぎる。
気付けば少女は、森の中に逃げていた。
そこで少女は、三日ほど過ごすことに。
そして、三日目の夜。腹も空き、孤独感に一杯になりながらも、必死に生きようと、人を探す。空は朝だと言うのに暗く、太陽は巨大な何かに隠されているようだった。
「…!?」
そしてその日、その生き物たちは現れた。
鋭い牙と爪、尖った耳、銀色の毛。
狼の、群れだった。
弱った少女をその群れは見る。
少女は、自身はこれから母のように腹を裂かれ、父のようにちぎられ、貪られると思った。
しかし、狼の群れの長は震える少女に、肉を差し去って行く。
その後ろ姿を彼女は確かに見た。見たのだ。
気高く高潔で、この暗き昼間に動ずる事なく堂々としている、その姿を。
少女は、その狼を追いかけようと思った。
その狼になろうと思った。
いっそ喰われても良いと思った。
言葉で表せなくとも、感情が形を成し、彼女に答えを与えていたのだ。
あの生き様こそ、自身の求める姿だと。
求める少女の名は、ヴァミリタス。