19話THE GIRL FOUND THE ANSWER
突如としてやって来た人形。
ぎこちない動きから、操り人形と言う言葉がよく似合っているように思える。そんな動き。
人形の各関節部から天井に向けて糸らしきものが伸びており、おそらく操られているのだろう。
人形は見たこともないような動きで桑に飛びかかる。桑は躱し、胴体に一撃。
人形はぴくりとも動かなくなる。
続いてさらに、暗闇の奥から無数の人形がやって来た。
「まずいな…」
バーゲンス先生は牽制程度に銃で人形を撃つが、桑の時と違って効果が薄い。
弱点はおそらく胴体部の破壊だ。
ヴァミリタスは曲剣で人形を流れるように、凛麗に、そして優麗に切り裂く。人形はバラバラになって倒れた。
「す、すごい…!?」
そうたじろぐ桑。
「ヴァミリタスは、こと剣術においては上級葬人と同等の実力がある。」
そうバーゲンス先生は言った。
粗方人形を片付けておえると、驚くほど隠し通路内は静かになった。ハベルさんは"頼もしい"と言って、桑達に拍手をする。
掴めない人、そうヴァミリタスは思った。
先程、倉庫部屋にあった死体を調べる。
「間違いない、取り逃した墓荒らしだ。」
死体は喉を頸椎まで掻っ切られており、即死のようだった。血だまりが乾いておらず、死んでからまだそれほど経っていないらしい。
「仲間だろうに…」
バーゲンス先生はそう呟く。
ハベルさんによると、常套手段なのだとか。
葬人や墓荒らしには、追跡能力を格段に向上させる葬具がある。真っ先に見つかった者が、死ぬまで追跡される。そんな環境なのだ。
追跡を振り切るには、見つかった仲間を殺すしかないのだ。
玩具屋に潜んでいた理由と言い、行動の目的が読めない。最後に目撃された黒狼・ヴォルニムスと冷鳥・アニムスの目撃情報。
ハベルさんは猛烈に感じる嫌な予感に、狼狽した。
倉庫部屋と反対の方向に進むこと数十分。
カビと埃の匂いを段々と感じなくなってきた。
嗅覚が若干麻痺し始めている、職業病でも患ったような気分に桑は嫌気がさしてきた。
そして、だんだんと奥へ、暗く、深く。
すると、あかりが見えて来た。
そこへ4人は息を潜めながら近づく。
話し声が聞こえて来た。
「あの玩具屋で、黒狼という苗字の夫婦が働いていましたよね。」
「わ、私は何もしらない…」
椅子に縛られているお婆さんとあの紳士服の男がいた。怯えるお婆さんに尋問するあの紳士服の男。何も喋らないお婆さんを、杖でぶつ。
何度も、何度も。
しかしお婆さんは何も知らないようで、終始何も知らないと言い続けていた。
桑は葬器を持って飛び出そうになったが、バーゲンス先生に首元の裾を掴まれた。
「せ、先生、なんで!?」
「黙って見てな。傷は後で治してやれるから」
紳士服の男は、お婆さんをぶつことに夢中になっているように見えるが、そう見えて隙がないらしい。2人の出したわずわかな音にも反応し、こちら側の壁を見つめる。
何もいないと思ったのか、再びお婆さんに問い詰めた。
「さて、最後の質問です。黒狼という苗字の夫婦について、本当に知らないんですね?」
「知ら…知らない…」
お婆さんがそう言おうとしたその時、ハベルさんが、炎から形成したナイフを投げる。
ナイフは紳士服の男の頭蓋を貫き、男は糸が切れた人形のように倒れた。
ハベルさんは近づく。
「…やはり、あのお方を追っているのか?
それとも…」
そうハベルさんが言ったその時。
紳士服の男は立ち上がる。
ハベルさんは炎からフランベルジェを形成し、剣を構える。
「じわじわと君たちを殺す予定だったが、面倒になってきたな。まぁ良いさ、私達の影を掴むことは、誰もできないのだから。」
そう紳士服の男が呟くと、地面が崩れた。