16話 THE CLAW MARKS LEFT BY THE WOLF
土足で立つその少女、ヴァミリタス。
桑と同じかそれ以下ほどの身長をしている彼女に、ひとまず桑は靴を脱がせた。
誰がどうとか、どうでも良いほどに玄関を汚されたことを不満に感じている。
「あ、そっか、ここ日本だものね。」
何か合点のいった様子の彼女。
靴を脱がせるとリビングへ案内した。
「…荷物、預かりますよ。」
「あら、ありがとう」
彼女は無垢金で飾られた白装束を桑に手渡した。この人、上級葬人だ。桑はひとまず玄関でそれらを払いハンガーの上へにかけた。
彼女は食卓の席に着く。
「バーゲンス先生、彼女は一体誰なんですか?」
桑はなんの断りも無しに、桑の朝飯を食い始めた彼女を見つめながら聞く。
「そいつの名前はヴァミリタス。
ドイツから来てもらったよ、私がアメリカに住んでいた頃の弟子さ。」
彼女はそう紹介されると、桑に向かってピース。食べかすが口周りについていたが、満面の笑みだった。何がピースだ。床も汚して、人の朝食を食べやがって。そう言いたいが、今は心の奥底に眠らせておこう。
「あ、おいヴァミリタス、それは桑の飯だ」
「え、あ、ごめんなさい。てっきり、私のために作り置きしてくれていたのかと…」
「まぁ良いですよ、もう食べちゃったんですし…でも、せめて行儀よく食べて…綺麗さっぱり無くして…」
「sorry…」
桑はひとまず、新たな朝食として、カップラーメンを作った。
朝食、身支度の後。桑は2人にとある場所へ連れていかれた。今日はバーゲンス先生とヴァミリタスの仕事の見学。見学次いでの手伝いだった。
その場所と言うのは、とある玩具屋だった。
「さて、今日の仕事は…ちぇっ…墓荒らし関連、ハズレか」
そう先生は呟いた。
"墓荒らし"と言うのは、先生たち葬人の所属する葬人協会と敵対している勢力のことらしい。
死徒に関する研究を、なんの許可もなく行なっていて、それによって多くの死者がでているのだとか。
そして彼らの掲げる死徒を研究する目的と言うのは、「全人類が死を恐れぬ世界」だそう。
この玩具屋では、またその墓荒らしによる被害が多数あったために、こうしてバーゲンス先生たちの調査が入ったのだ。
「さて、行くか。
どちらにしろ、長生きするには仕事だ。」
「精々死なないよう私の後ろに隠れていなさい、桑!」
「は〜い、お邪魔しまぁす…」
桑は廃れた玩具屋の雰囲気にじゃっかん気圧されていた。何も、ただ怖い雰囲気だからと言う理由ではない。
肌で感じる、奥の宵に確かにいるのを感じるのだ。
きっと、それを感じているのは桑だけでは無いだろう。
きっと、他の2人も感じているはずだ。
しかしそれでも歩みを止めなかった。
玩具屋の少し奥までやってきた。店内は大きく荒れていた。人形のおもちゃや、人型のぬいぐるみ等が散乱、きっと子供が見たら大泣きしてしまうだろう。
バーゲンス先生は銃を取り出した。
それに応じて2人も葬器を取り出す。
ヴァミリタスの葬器は、曲剣と呼ばれる曲がった剣の形をしていた。
「軽く見ている感じ、居る感じするな。
ヴァミリタス、詳しい反応は?」
「そこのスタッフルームの向こうよ。」
彼女はスタッフルームに指を指してそう言った。何がいるのか。そう桑が聞くとバーゲンス先生真顔で答える。
「何がいるかって、そりゃ墓荒らしだよ」
墓荒らし。この玩具屋の被害は、従業員3名が死亡、ほか6名も重軽傷をおったそうだ。きっと、人の命を簡単に奪うことのできる連中。
桑はそんな奴らとは、もちろん戦いたく無い。
桑は話の通じる相手である事を祈り、ヴァミリタスの背後について行った。