15話 THE BOY STRUGGLES TO HELL
ベッドの上で目を覚ます。
一糸纏わぬ体を布団で隠し、痛む腰に気を配りながら上体を起こす。
横に眠る、私と同じ格好の青い髪の彼。
顔の輪郭を、指でなぞる。
愛おしい、ただなぞっただけだというのに、そう感じた。何も、行為の後だからでは無い。
そもそも彼とはそういう"行為だけの"関係では無い。純白な、胸踊りときめく関係。
彼は目を覚ます
目が合う
彼は私に手を伸ばす
「おはよう、バーゲンス」
忌々しい白装束の仕事も忘れてしまえるような、幸せなひとときだった。
気付けば、私は死地にいた。
鼻腔に広がる血の香り、血と土で汚れた白装束。目の間に聳え立つ半壊した黒い塊。
ロマと呼ばれた死徒。
半壊した死徒は、私たちのもとから逃げ仰る。
私の腕の中に、死徒と同じく出血した彼がいた。目頭がずっと熱くなる。
私は、何もできなかった。
彼の力になれなかった。
今の私には無く、今の彼にはあるもの。
その"無い物"さえあれば、きっと彼の身代わり程度には、なれていた。
そうして溢れる涙を、彼は彼自身の血で塗れた手で拭ってくれた。
「ねぇ、バーゲンス…僕を…忘れないで…そして…足掻いて…僕の行く場所に、来ないでくれ…」
「….君だけは、死んでも…失いた…く無いんだ」
彼の顔、匂い、色、抱きしめてくれた時の温もり。もう忘れかけている。
それでも、去る彼は、生きる私に呪いを刻む。
もう15年も前のことだ。
今日が休日であることに、ちょっとした喜びを感じる桑。しかし、葬人として生きる道を模索しなければならない現実に、また悲嘆していた。ベッドの上で軽く伸びると、リビングへ。
カーテンを開けて、ウインナーを焼いて、トマトとレタス、きゅうりのサラダを作る。ご飯を一合、先生のための味噌汁を作るために、電気やかんに水を張って、台座にセットしスイッチオン。
待ち時間のあいだ、桑は先生を起こすために先生の寝室へ。
眠るバーゲンス先生を起こそうと近づく。
バーゲンス先生が桑にだした宿題が頭を過ぎる。
「死徒を葬る、理由か…」
真っ先に思い浮かぶのは"復讐"。
最愛の姉を奪い、傷つけた事。
次に思い浮かんだのは、使命感。
守られるべき人を、守らなくてはならないと言う使命感。
まだ、答えを出すには難しい。
桑は先生に近づいたその時。
「アレン…私、忘れてないよ…だから声を…」
顔を顰め、うなされながら寝言を発する先生。
アレンというのは先生の旧友なのだろうか。
桑は今日は休日だからと、少しだけ、もう少しだけ眠ってもらうことにした。
先生が起きたのは、それから5分後。
「おはよう、桑。今日は起こしてくれなかったんだな」
「おはようございます、魘されていらっしゃるようでしたので」
桑はそう言い、味噌汁とご飯を机の上へ。
バーゲンス先生は素早く席に着き、召し上がる。
「そうだ、桑。今日なんだが、お前の補助役兼相方をつけようと思う」
「補助役兼相方…?」
途端、その人物はドアが開けられ中にずしずしと土足で入って来た。
白髪に、青い髪が混じりいった髪。
「バーゲンスさん!私の相方ってのはそこの奴かしら?」
バーゲンスは席から立つことなく、一瞥もくれず彼女の紹介をした。
「紹介しよう、アレがお前の補助役兼相方のヴァミリタスだ」