13話 THE BOY STRUGGLES TO HELL
あれから、1ヶ月が経った。
学校は、「建築方法に問題があり建物全体を一度再検査する」として、校舎が使えなくなった。代わりとして、使われていない公共施設などを借りて授業を行うことになった。
あのロマの攻撃による被害もあってか、学校に行ける回数は激減。多くの学徒は、今後の人生に対する不安を抱えている。
これは、その"学校の崩落事故"と"沿岸部での火災"についての黙祷式だった
『一同、黙祷!』
皆が目を瞑る中、桑はなかなか目を瞑ることができそうになかった。
沿岸部での大死徒8のロマの襲撃は、医薬品会社の火災が住宅街と暴風で巻き上がったものとして発表された。一部の者にしか見えない死徒という怪物がいて、それが町を焼き、桑の居る高校を崩落させた、だなんて、言ってもただの狂言としかとらえられないだからだ。
だが、桑も家族を失った身。ここで目を瞑るのは、真実から目を背けているような気がして、どうにも瞑れなかった。
そして、学校の授業が終わり桑は帰路につく。
姉、白百合 櫟を失い保護者のいない身となった桑は、バーゲンス先生の元で養子となって居候させていただいていた。
バーゲンス先生はマンションの一室に住んでいて、エレベーターが無く、登り降りが大変だった。
そして、ドアを開ける。
「おじゃましまーす…」
「おかえりだろう、桑。」
「そうですね、はは。」
そこには服を乱雑に脱ぎ捨て、スポーツブラジャーとパンツだけになったバーゲンス先生が、ソファの上に寝っ転がっていた。
「まぁた乱雑に脱ぎ捨ててる…ちゃんと洗濯籠に入れてくださいよ、先生。」
「すまんねぇ…」
そう謝り服を洗濯籠にいれるバーゲンス先生。
桑はやや呆れていた。バーゲンス先生の私生活は一言でいえば"乱雑"だ。葬人の仕事や、学校の先生としての業務を終え、帰宅すると服も乱雑に脱ぎ捨て、ゴミも乱雑に処理し、ご飯も乱雑に作り、明らかに栄養価の偏ったものが多かった。
葬人としての仕事と教員としての仕事の二つで忙しく、仕方ない面もきっとあるのだろう。
桑は自分用に空けてもらった部屋に行き荷物を片付けると、台所でご飯を作っていた。
「桑、今日は8時からだ。ちょっと座学寄りになるぞ〜」
「はーい!」
だし巻き卵を作りながら桑はそう答える。
桑は、本格的に葬人となるために、バーゲンス先生に鍛えてもらっていた。
今日は、座学寄りの訓練。つまり知識に関しての訓練をするようだ。
「桑、今日もあそこに行くのか?」
「…はい。きっと1人は寂しいでしょうから」
桑はだし巻き卵等、晩御飯を作りラップで包み冷蔵庫に入れる。そして、黒装束と自身の財布を持ち、家を出る。
すると、とある花屋に寄る。
桑は花屋にて、白百合や菊の花を何本か選び、店員さんにお金を払う。
そして、桑はそのまま墓地に向かった。
墓地にて、とあるお墓を掃除し、先程買った花達花をお供えする。
お墓には「白百合櫟之墓」と掘られていた。
そう、姉さんの墓だ。
家族が若くして亡くなり、姉と桑はいろんな里親を転々としていた。ほとんど、桑のせいだった。子供が"人を殺す怪物がいっぱいいる"なんて言っていたら、気色悪くてとてもじゃないがきっとその子を自分の子にしようなんて思わないだろう。
姉さんはそんな気持ち悪い桑を庇ってくれていた。桑は、姉にとんでもない迷惑がかかってしまって、頭が上がらなかった。
そして、桑が11になった夏。
桑はとうとう、死徒が見えることを黙るようになった。姉にまだ見えるかと聞かれると、"もう見えないよ"と返した。
姉は、まだ桑の事を信じていたのだ。
桑は手を合わせて姉に今日あった出来事を心の中で、姉に話す。もちろん、物言わぬ骨片となってしまった姉からは、何も帰ってこない。
桑は立ち上がり続いて別の場所へ向かった。