12話 THE HELL THAT BOY FIGHTS FOR
桑は目を覚ます。
そして、起き上がりあたりを見回す。町が漆黒の炎により燃えていた。立ち上がる。服も燃え尽き、焼け爛れた左腕を抑えながら、市街地へと歩き出す。見覚えのある道、見覚えのある風景、見覚えのある燃えた家。
彼にとって最も恐ろしいものを見る。
「ぼくと…姉さんの…家が…」
きっと、何かの見間違いだろうと思った。
きっと、自分じゃない誰かの家だと思った。
きっと、姉だけは、巻き込まれないと思った。
だが、結果はその思いを裏切った。
桑は漆黒の炎の中へ身を投じる。ドアを開けて中へ入った。玄関を駆け抜けて先、リビングに出る。そこには…
「姉さん…?」
ソファの上で黒く焦げ爛れた女がいた。
意識は無い、いや、もう死んでいるんだろう。
もう顔もわからないほど焼け爛れているが、桑にはわかる。身長、手の大きさ、顎の形。全て姉のものだった。
桑は、焼け爛れた姉を優しく抱き上げ、外へ歩き出した。
なぜかそこで、昔のことを思い出す。
『珍しいね、くわが私より後に起きるなんて。三日経ったら私は21かぁ…5日後で桑も18…あっというまだなぁ…』
ああ、そうだ、明日で姉は21になるのだ。
もう実は誕生日プレゼントの櫛も買ってあるし、日頃の感謝をと、メッセージカードも作った。きっと姉さんも喜んでくれる。
そう、そう、姉はきっと生きてる。だって、まだこんなにも体温が暖かいじゃないか。
バーゲンス先生の葬具の副効果で治してもらおう。また、元通りの姉に戻してもらおう。
焼け爛れてしまっては、可哀想じゃぁないか。
桑はドアを越え、外にでる。
すると、とある人物と顔を合わせる。
「い、生きてたか、白百合!よかったぞ、ロマはこの地を去った!勝ったんだ、アタシたちは!」
そう喜ぶバーゲンス先生。
桑はそっと近づき姉を差し出した。
「バーゲンス先生、治してください…」
「…白百合、この遺体はなんだ?」
頬を涙が伝って、地に落ちる。
「死んでません…生きてるんです。まだ、姉は…」
「白百合…一度死んだ人は、葬具の力だろうとなんだろうと、決して戻らない。」
首を振るバーゲンス先生。桑は、膝から崩れ落ちた。
姉は何も関係ないのに。
姉はただ生きていただけなのに。
巻き込まれた他の住人も、群になって空を泳ぐ鴉も、学舎で必死にペンを走らせる学徒たちも。
ただ生きていただけなのだ。
なにも罪は犯していないし、何も巻き込まれる筋合いもない。
「桑、怪我をしているだろう。
ついて来い…櫟さんも連れてな。」
桑はただ頷き、下唇を噛み、歩き出す。
すると桑たちは、沿岸部の交戦後までやってきた。デビットさんや、桑を運んでくれた早瀬さん達。他にも複数の葬人、それとは別に無垢金で飾られた白装束を見に待とう葬人がいた。
その横には、並べられた人、人、人。
「桑、良いか。」
「…なんでしょう。」
「死徒ってのは簡単に、少しずつ人の命も奪っちまう。だから、私たち葬人がいる。
だが、この"大死徒"ってのは違う、一度にとんでもない数の命を奪っていく。
それが自分であろうと、他人であろうと、家族であろうと。」
バーゲンス先生は振り返り、桑を見つめる。
「暗闇が人を飲み込む時、入り好みなんてしない。私達には、力が足りない。暗闇を照らし、消しさる力が。」
桑はバーゲンス先生を見つめる。
噛み締めていた下唇も、気づけば力を抜いていた。
「だから、桑。お前も、"消しさる力"の一つになってくれ。」