11話 THE HELL THAT BOY FIGHTS FOR
「まず、あなたの名前は?」
張鳴は自分の部屋で、紳士服とハットを被り、大きな仮面で顔を隠す男にそう尋ねた。
「私の名前は、ヴェーネス。君の見たその黒い固まり、"死徒"の研究を行っている。」
「じゃぁ、あの白装束の人たちと同じように、ふつうの人には姿が見えないのは?」
「その白装束の連中の名前は、"葬人"と言う。
見えないのは、私の紳士服と同じように、衣服を染め上げる時の染料に秘密があるのだ」
その秘密について、張鳴はひどく気になったが、ヴェーネスは頑なに明かすることを、よしとしなかった。
張鳴は機嫌を悪くしたが、気を取り直して次の質問をする。
「どうして私は死徒が見えるようになったのかしら…?」
「本当に何も知らぬのだな。
説明してやろう」
死徒には、視える条件なるものがあるらしい。
1つ、"死を体験する"。これは、いわゆる心肺停止状態からの蘇生。
2つ、"死と隣り合わせの状態が一定以上続く"。これは、臨死状態や仮死状態が一定以上続いた上での復帰。
3つ、"元々の才能"。これは、いわゆる霊能力や超能力とかの類いのことだ。
4つ、"脳に傷を負う"これは、脳の一部(前頭葉)に傷を負うことで発現する。
この四つがおもの条件らしい。
私は4つ目の条件のようだ。あの日、瓦礫に挟まれて、おぶられた。
そこから先はよく覚えていないが、頭に強い衝撃を感じたことだけは、妙に鮮明だった。
「じゃぁ、この傷が早くなおっているのは…?r
ヴェーネス曰く、これに関してはわからないそうだ。
「ヴェーネス…一体、貴方何が目的…」
そう問おうとした瞬間、窓に炎の柱が映る。
振り返り、ちゃんと見てみると、それは4km先の沿岸部からだった。
押し入れから双眼鏡を取り出して、拡大して見てみるとそれは、漆黒の炎を纏う角が、真上に飛んでいっているようだ。
この世の終わりとも思えた光景に張鳴は腰を抜かす。
「…もうじき時間切れか…」
小さな声でそう呟いたヴェーネス。
その瞬間、淋小卓町沿岸部から内陸部へ1500mを黒炎混じりの暴風が包みこんだ。
張鳴が目を覚ますと、家は焼け爛れ、崩れ落ちていた。目の前には、煤と汚れだらけのヴェーネスの姿があった。
辺りを見回すと、ソファだった物の上には、人影が。台所らしき場所にも、一体黒ずんだ遺体を見つける。
もはや骨だけとも表現できる。
「張鳴、生きているかね?」
「けほっけほっ…えぇ…この遺体は…まさか…」
張鳴は状況証拠だけだったが、確信してしまう。自分の最悪の妄想、両親の死を。
「…私の実力では、守りきれなかったよ…」
張鳴は嘔吐した。
その妄想は実現してしまった。
自身が余燼となることに気づきもせずに、死んでしまった自身の両親。
紳士服についた煤を払うヴェーネス。そして彼は、地面にへこたれる張鳴に手を差し伸べる。
「さぁ、立ち上がりたまえ。君も、私と同じ境遇になってしまったな。」