10話 THE HELL THAT BOY FIGHTS FOR
何もかも、燃えていた。
黒い地獄そのものだった。
17:34分、大死徒"8のロマ"
____________上陸。
桑は崩れた建物の瓦礫の影にて震えていた。
崩れゆく街や建物、降ってくる腕や脚。
全てがひたすら怖かった。
震えることしかできなかった。
もう、10分経った頃だろうか。
目の前にとある人物が投げつけられる。
「うごはっ…」
「…!ば、バーゲンス先生!?だ、大丈夫ですか、あ、足が!?」
左下半身が無い。何も見間違えてはいない。
出血もしているし、内臓も垂れ下がっている。
だと言うのに、バーゲンス先生は立ちあがろうと、四つん這いになった。
すると…
「忘れるな…彼を…忘れるな…彼の匂いを…」
途端、生えてきたのだ。
それと同時に、身体中にあった擦り傷や切り傷、打撲、さらには服も再生していた。
「…桑、いいかよく聞け!」
「は、はい!」
「この瓦礫から飛び出して左斜め先に、負傷者が2人いる、引きずってでも後方の医療班んとこまで連れてけ!」
「で、ですが…」
桑には、自身が上から降ってくる肉片に自分が混じるのを、容易に想像できた。
故に狼狽えた。
だが、誰かがやらなくては、あの2人の葬人は助からないだろう。
桑は腹を括り、頷いた。
「…わかりました!」
「稼げて30秒だ、いけ!」
「はい!」
桑は駆け出す。
ロマの姿が視界の端に映る。
身体中から角を生やした牛のようなシルエット。53mはあるであろう巨大なその姿。
ロマの体の上部では、葬人たちがロマに切り掛かり、角を折ろうと切り掛かり、それを振り払おうと体をゆらし、ロデオのように暴れるロマの姿があった。
「第二波くるぞ!」
どこからか、そんな掛け声が聞こえた。
すると、ロマの身体中にある角が一斉に回転を始め、黒い炎のような揺らぎがロマの体を覆い尽くす。
桑も自体の危うさに気付いたのか、一度体を隠す場所を探そうとしたが、それでは前方63m先の2人が助からない、残り23秒。
桑はまた一歩、また一歩と走りを続ける。
残り14秒、10m。
加速していくロマの角。
波が引いていくように、葬人は各自岩陰に引いていく。全てがスローに見える。
加速しきったロマの角。
あと5m、ほんの少し飛べば手の届く位置にある。
だが、ロマには知ったことではない。
ロマの角が、黒き炎を纏った角。
"黒角"が、ロマの体から飛び出した。
黒角は、空気を引き裂き、虚空を焼き拡散していく。
その角は当然、桑にも向けられた。
ゆっくりと流れる時間の中、迫る黒角。
_____________死ぬ。
桑には確信があった。
走る道中、視界の端に転がっていたのは白骨死体。きっとあの黒角の炎に肉を綺麗さっぱりに焼かれたのだろう。
そして、自分もそうなるのだろう。
そう桑は思ったその時…
「廻葬、廻神黄泉繰(りんそう、りんしんおみくり)」
桑と葬人2人に降りかかる無数の角は、杖を持つ1人の人影と無数の斬撃によって弾かれた。
桑たちを守ったであろう、1人の人影と言うのは…
「人命救助ご苦労、桑くん」
デビットさんだ!
デビッドさんの葬具、おそらく無数の斬撃を出す葬具で、桑たちを助けてくれたのだ。
桑は急ぎ葬人2人をもの影に引きずる。
2人とも瓦礫による負傷で、一方は肩の動脈。
もう一方は腹部へからの出血だった。
どちらも傷は浅いが、だからと言って放っておけば生命に関わる。
目的地は後方、市街地入り口前にある白いテントだ。桑にはまだ大の大人2人を担ぐことなどできない、さらには戦いに巻き込まれかねない。素早く引きずって運ぶ必要があった。
背後ではまたもやロマがロミオの動きをする。
巻き込まれるのは時間の問題だった。
桑は2人のうなじの襟を掴むと、一気に走り出した。
しかし、絶望の炎はすでに広まりつつあったのだ_____________