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1話 THE WORLD AS SEEN BY OTHERS

「自分以外の誰かが見る世界と、僕の見る世界は、本当に一緒なのだろうか?」

高校生の夏用学生服を着た黒髪赤目の少年、"白百合(しらゆり) (くわ)"はそう疑問を心のうちに浮かべた。


 誰しも人生で一度はこういった、それぞれの見る世界、視界の合致性について考えた事はあるのではないだろうか。

例えば、「自分が認識する「赤色」は、他の人が認識した時、こちら側から見れば「黄色」になっているのではないか。」

「自分が認識している左右上下は、他の人が認識した時左右上下が逆になっているのではないか」などだ。

そう思った


だが、この"白百合 桑"はその程度を遥かに越した物を、日常の中で孤独に認識していた。


朝5時、桑は目を覚ます。

そして、自分の住む家の2階。そこの窓から外の景色をみる。彼はいつも、彼にしか見えないであろう、恐ろしいものを視る。


「うぎ"ぃ、うぎゃ"っ…」


窓の外から漏れる、音。

複数の眼球、黒で塗りつぶされたような漆黒の塊、沢山の伸びる腕。

"それ"は窓に張り付いたままかと思えば、いきなり何処かに、霧散するように消えていく。

"それ"はどうやら僕にしか見えないらしい。


"それ"が見えてからもう何年経つだろうか。


あぁ、それは確か4歳の頃。

家族と中古の軽自動車に乗り遊園地に遊びにいくことになった日。

高速道路、彼岸に見える白い百合の花、軽自動車と鏡合わせのトラック、脳を揺らす衝撃、合間見える黒い翼___


「くわー、ご飯できたよ〜!」


下の階から桑を呼ぶ声が聞こえる。それは桑の姉、"白百合 櫟"だ。「はぁい!」と桑は返事をすると、部屋を出る。


食卓の席につくと、姉がマーガリンを塗ったパンと醤油のかかった目玉焼き、トマトサラダが桑の前に出される。

姉は桑と向かい合うように席に着いた。


「珍しいね、くわが私より後に起きるなんて。三日経ったら私は21かぁ…5日後で桑も18…あっというまだなぁ…」


姉はそう言い、食べ始める。

この家に、大人はいない。何故いないかと言われたら、もちろん死んでいるからだ。


桑が4歳の頃。白百合一家は交通事故に遭ったらしい。らしいと言うのは、桑自身がよく覚えていないからだ。

事故で桑は3ヶ月ほど植物状態にあり、やや記憶障害があった。4歳より前の記憶は曖昧なまま。


「あっという間に、僕たち大人になっちゃうね。そういえば姉さん、今日は何時ごろに帰って来るの?」


「えっとねぇ…多分深夜1時くらいじゃないかな…」


桑はそっかと言った。

姉がなんの仕事をしているのか、どういう組み分けの仕事なのか、桑は知らない。

姉の仕事は長時間の重労働、深夜1時に帰ってくる事もあれば、翌日の昼に帰ってくる事もある。そして時折り、体の何処かに傷をつけて帰ってくるのだ。

ここまでブラック労働だと、労基の出番のように思われるが、姉曰く「言っても変わらない、そういう仕事」だそう。


2人は歯を磨き、着替えると家を出る。

時刻は6時。桑の住む街、淋小卓(りんこたく)(ちょう)には未だ朝靄ともう一つのモノがたむろしている。


"それ"を見た。"それ"は花屋の屋根に張り付いている。窓の外から見えた"それ"とは形や付いている物が違った。

何とも形容できない形の獣の頭に大量の目、大きな2枚の翼、獅子のような胴体と太い足。

首の付け根から外に向かって手を伸ばすように伸びる人の腕。

"それ"らは形はそれぞれ違えど、いつも、何処にでもいる。桑にとっては、もはやそういう蠅や蚊のような存在だった。

そして"それ"は、ごく稀に人を飲み込む。

桑が6歳の頃に見た光景だった。百足に酷似した"それ"が、人を飲み込んで行った。

飲み込まれた人は、血溜まりの中に倒れ、側には血塗れのトラックが。きっと"それ"が引き起こしたことだろう。

桑は"それ"に害があるとわかると、必然だが"それ"を避けるようになった。


獣の"それ"は通学路の脇に飛び降り、こちら2人を見つめている。その横を通り抜けようとする姉。


「ね、姉さん!…別の道から、今日は行かない?」


「…え?まぁ、良いわよ。しかしなんで?」


姉さんは回れ右でこちらに振り返り、そばにやってくる。微量の白髪が混じる黒い髪は淋小卓町の風に靡く。


「い、いやぁ…たまには良いかなぁって!」


言い訳を言おうと考えていると、途端"それ"と目が合った、ひたすら冷や汗を流す。

"それ"はこちらにずし、ずし、とゆっくり迫ってくる。桑は腰が抜けそうだった。がくがくと脚が震える。息が荒くなる。

ただ恐ろしく怖い、それだけだった。


「クワ…? きゃっ」


気付けば桑は姉の手を握り別の道に、姉を引き摺るようき疾走していた。桑の頭に入っていた景色は、白装束に、白と黒がベースの玩具の兵隊のそれと酷似した帽子、剣や鎌などを持った複数人が、"それ"に向かって歩き始めていた事。

姉はクワの手を、優しく振り払う。


「ちょっと、クワ!どうしちゃったの?!」


「んぁ、ご、ごめん姉さん…本当に…」


「んもー、私は別に遅刻しても良いけど、桑は学校があるんだからね!それに__________ 」


桑は固唾を飲む。

"白装束"、最近になって徐々に見え始めたモノ。何が目的で、何がしたいのか、何なのか。

何一つわからない。

声をかけ、質問しようにも、人とは思えないほどあまりにも素早く動くものだから、すぐに何処かに行ってしまう。

白装束は、どうやら害は無いらしい。

ただ、"それ"と同じくいつも、何処にでもいる。不気味で、不気味で、仕方が無かった。


「___だから…って、聞いてるの桑!!」


「う、うん。本当に、本当にごめん。行こうか…」


桑は来た道とは別の道へ。

学校へ向かう。

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