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第9話 日曜日

 

 ───ここは、まだ『正愛(せいあい)』の誰にも───否、SM(soul mate)クラブに参加している幹部しか知らないSM(soul mate)クラブの総本山とも言えるような建物の中であった。


 そこの最奥で、自分の指をチュパチュパと咥えて片方だけ曲げてある足に抱きつくようにして椅子に座っていたのは、枕田胡蝶(まくらだこちょう)を殺害した、黒いローブを身に纏い浮浪者のような長い黒髪をダランと垂らしている人物───SM(soul mate)クラブの大元でありボスであり真骨頂である屍屍(しかばねかばね)なのであった。


 屍屍(しかばねかばね)の座る椅子の数メートル程手前に、跪くような状態でいたのは、見覚えのない人物だった。だが、幹部しか知らないこのアジトにいることから、SM(soul mate)クラブの幹部であることがわかるだろう。


「ねぇ...君の部下、『正愛(せいあい)』に敗北して捕まってたんだけどさぁ?これって一体全体どういうわけ?」

「───すみません、(かばね)様」


 そう謝罪を述べる、屍屍(しかばねかばね)に跪いた人物。

「信じてたのになぁ...死んじまうことになっちまったからなぁ...」

「次こそは失敗しませんで!どうか...どうか!」


「失敗しないなんて、笑っちゃうよねぇ。まぁ、いいよ。部下のミスを取り繕うのがリーダーってやつだし、ペットを育てるのがブリーダーってやつだ」

 そう言って、ニヤリと狂気的な笑みを浮かべる屍屍(しかばねかばね)。だけど、幹部は跪いているのでその表情が見えることはない。


「でもまぁ、適当に選んだ女一人だって誘拐できないだなんて...実に不愉快だよ」

「申し訳ございません」

「いや、謝らなくていいよ。全部、死んだやつのせいにすればいい。死ぬのはいつも他人ばかりで、死人に口なしなんだから。不躾に罵詈雑言を吐こうよ」


 枕田胡蝶(まくらだこちょう)がすべて悪い。屍屍(しかばねかばね)はそう言ったのだった。


「───ねぇ、悔しい?」

「───はい?」

「だから、悔しいかって聞いてるの」

「悔しい...です」

「そうだね、悔しいね。虚しいね。だったら、頑張ろうよ。今度こそリベンジだ。できる、できる、君ならできる。メメントモリで頑張ろう」

 屍屍(しかばねかばね)は体勢を変えて、座っている椅子の肘掛けの片方に頭を乗っけて、もう片方に足を乗っける。

 そんな体勢で、幹部を応援したのだった。


「んじゃ、次の任務は言わないでもわかるでしょう?俺、枕田胡蝶(まくらだこちょう)が連れてこようとした女の顔を見てるから。リベンジしてこいよ?」

「───わかりました。部下を向かわせます」

「よく言った。そんじゃ、報告待ってるからね」

「わかりました」


 そう言うと、その場からいなくなる跪いていた一人の幹部。

 屍屍(しかばねかばね)は、親指をチュパチュパと不愉快な音を立てつつしゃぶりながら更に体勢を変えて、足を背もたれにかけて頭をダランと重力に任せて下げた。

 重力に影響で、その素顔が明らかになる。虚ろな目に汚い肌が明らかになったのだ。

 お世辞にもキレイと言えないようなその顔面を持つ屍屍(しかばねかばね)は、正しく生者と言えるだろう。正しく人間と言えるだろう。


「───いやあ...愚かだね、本当に愚かだ。努力が報われないことは死人が蘇る事くらいあり得ない話だって言うのに」

 そう言うと、屍屍(しかばねかばね)は突如として白目を向いて動かなくなった。

 先程まで咥えていた指は、重力に従って床に落下してボトリと小さく音を立てたのだった。


 ───これが、いつも彼が眠る時の姿なのである。


 ***


「───はぁぁぁ...よく寝た...」

 枕田胡蝶(まくらだこちょう)の事件があった3日後。要するに、日曜日だった。


 昨日、午前中だけ仕事に行ったので今日明日は休むことができるのだった。

 俺は、午前中の大半───というか、ほとんどをベッドの上で横になることで使用した。


 今思えば、一昨日は連戦だった。

 長縄丈(ながなわじょう)を捕まえるために戦闘を行ったと思ったら、次に舞い込んできたのはカスミの誘拐の話。俺は、急いで京子さんと合流して誘拐犯である枕田胡蝶(まくらだこちょう)に出会った。


 事故は起こったが、最終的に死亡した人は謎の男性に殺された枕田胡蝶(まくらだこちょう)以外はいなかったので、住民の皆さんに死傷者が出なかったので、大成功とは言えなくとも、成功だろう。


 俺は、ベッドから降りて寝間着のままリビングに向かう。

「あ、レン。おはよう」

「おはよう、カスミ」

 俺が目を覚ました時には、もうカスミは朝ごはんを食べ終えていたようだった。まぁ、もうお昼の10時を過ぎているのでそれも当然だろう。


「やっぱり、疲れてたよね。お疲れ様」

「あぁ、ごめんな。長く寝ちゃってて。家事は一緒にやる約束なのに...」

「ううん、大丈夫だよ。私も、誘拐されて迷惑かけちゃったし...」

「迷惑って訳じゃないんだけどな。それに、カスミは悪くないんだし」


 誘拐される側が悪い誘拐など、この世には存在しないだろう。それに、カスミは誘拐されようと思って誘拐されたわけでは無いのだから、謝る理由は無いのである。


「───そうだ、明日休みだし...どっかデートでも行く?」

 俺は、カスミのメンタルを元に戻すためにも、どこかデートに行くことを提案した。


「いいの?私は行きたいけど...疲れてるんじゃ...」

「カスミとデートに行って疲れるわけ無いだろう?だから、カスミの行きたいところに明日行こう」


「わかった...じゃあ、水族館。行こう?」

「あぁ、いいよ。どこにしよっか」


 ───こうして、俺達は水族館に行くことに決定した。

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