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第7話 目覚め

 

「レン...どうして...」

 俺の腕の中で目を覚ましたのは、俺の恋人であるカスミであった。どうやら、枕田胡蝶(まくらだこちょう)性癖(ラヴィット)である[睡姦]の範囲から外れたようだった。距離を見るに、どうやら通常は約数メートルほどなのかもしれない。


 ───と、ここでカスミが目を覚ましたのは問題だった。


「カスミ、大丈夫だったか?」

「大丈夫って...あ。あれ...もしかして、私...」

 カスミは、自分が誘拐されたことに気が付いてしまう。もしかしたら、カスミは誘拐そのものを「夢」と認識していたのかもしれない。


 戦闘を行っているこの状況で、カスミが目を覚ますのに問題点は2つ程思いついた。

 一つは、一般人であり戦うことがないどころか、人が人を殴る姿でさえもテレビ以外で見たことがないカスミには、戦場は非常に刺激が強すぎるということ。そして───


「人質は返してもらいます」

「───ッ!」

 一瞬、俺の意識が落ちそうになる。ギリギリで踏ん張り意識を保つことだけは成功したものの、手の中にいたカスミは枕田胡蝶(まくらだこちょう)の元に逆戻りしてしまった。枕田胡蝶(まくらだこちょう)は、俺から数メートル先に着地した後に、体を半回転させて俺の方を向いた。


 ───前回と今回で違うのはカスミが眠っていないということ。


「あ、アナタは...」

「人質ごときに名乗る名はありません。アナタは、海外で高く売られるんですよ」

 枕田胡蝶(まくらだこちょう)は、そう口にする。それが、トリガーだった。


「───私、売られちゃうの?それは、レンも一緒?それとも違うの?私とレンは離れ離れになっちゃうの?嫌だよ、そんなの嫌だよ。私、レンと約束したんだから。死ぬまでずっと一緒にいるって。一緒にいれなくなったら死ぬって。一緒に死ぬって」

「まずいッ!」


 発動してしまう。カスミの性癖(ラヴィット)が。



 ───カスミの性癖(ラヴィット)である[破滅]が。


 破滅・・・任意の人物を自分もろとも「破滅」に導くことが可能。多くの場合、死を意味する。


「カスミ、やめろッ!」

 俺は、精一杯カスミを制止させようとする。俺の目的は、相手を───枕田胡蝶(まくらだこちょう)を殺すことじゃない。捕らえることだった。


「レンと一緒にいられないのなら...えへへ、私、死んじゃおうかな」


 "ゴオオオオオオ”


 そんな音を鳴らして、俺達がいる交通事故の現場に走ってくるのは巨大なトラック。そのトラックの運転手は、眠りについていた。


「───ッ!」

 トラックの運転手が眠っているのは、枕田胡蝶(まくらだこちょう)性癖(ラヴィット)ではない。純粋に眠っているのだ。だから、枕田胡蝶(まくらだこちょう)が起こす───と言った芸当はできない。


 このままでは、カスミと枕田胡蝶(まくらだこちょう)が死んでしまう。枕田胡蝶(まくらだこちょう)にも、SM(soul mate)クラブのことについて話してもらわなければならないのだ。


 犯罪を減らすための糸口なのだ。

「させっかよ!」

 俺は、枕田胡蝶(まくらだこちょう)の立つ場所と、トラックの間に割り込む。そして───


「カスミ!俺はカスミとずっと一緒だ!」

 俺はそう叫び、[純愛]の能力でナイフを数本用意する。トラックを相手取るには、小さく見えるだろうけれど、そうではなかった。


「止まれぇぇぇぇぇ!」

 俺は、手元にあったナイフを投げてトラックの前輪をパンクさせる。


 真っ直ぐこちらへ突き進んでくるトラックの大きなタイヤに、ナイフを当てることは容易い作業だった。

 タイヤが俺の[純愛]で傷つき、破裂した音と同時に、トラックがガタンと揺れて、そのまま前転するかのようにしてトラックの頭から倒れてきた。


 ドンッと大きな音がなり、トラックはひっくり返された亀のようになってエンジンがから回る音だけを鳴らしていた。

「よかった...止まった...」


「れ、レン...ごめん、私...」

 カスミは、我に返ったのか、夢から覚めたように俺のもとに駆け寄ってきた。枕田胡蝶(まくらだこちょう)は、トラックが突っ込んできたことに驚き腰を抜かしてしまっていたようだった。


「カレンは周りで寝ている人達を起こしてくれ。俺は、枕田胡蝶(まくらだこちょう)を───誘拐犯を捕まえる」

「うん、わかった」

 俺は、カスミに指示をした。京子さんや国重さんが起きてくれれば、問題ないだろう。


「あ...あばば...トラックが...」

「全く、邯鄲の夢だったな...もう、お前は硬いベッドでしか眠れねぇよ」

 俺はそう言うと、枕田胡蝶(まくらだこちょう)に手錠をかける。


「───有罪(ギルティ)


 ───こうして、俺は枕田胡蝶(まくらだこちょう)を捕まえて、カスミを取り戻すことができたのだった。


「純浦廉さん」


 ───と、俺の名前を呼んだのは京子さんだった。


「京子さん、大丈夫でしたか?」

「えぇ、私は大丈夫でした。そちらも...大丈夫そうですね。彼女さんも助かってよかったです」

「本当です。逮捕もできましたし、今回はハッピーエンドです───ッ!」


 京子さんが、口を動かそうとした刹那、その異変は起こった。


 ───そう、俺が捕らえた枕田胡蝶(まくらだこちょう)に何者かが触れたのだ。


 その人物は、黒いローブに身を包んだ、170cm程の身長を持つ顔のやつれている、浮浪者のように長い前髪を持つ人物だった。その人物は、俺達の方を見て、こう口を開く。


「天国だなんて夢見んなよなあ。地獄に生きてる俺達が天国に行けるなんてまた夢の夢なのに」

 その人物は、体を後ろに仰け反らせつつそう口にした。


「───お前は...」

「[純愛]、動かないでください」

 俺は、京子さんに制止されて行動しなかった。そして、その謎の男はどこかへ走り去っていった。


 ───そして、俺達は気が付いた。


「嘘...」

「んな、マジかよ...」



 ───その謎の男に触れられた枕田胡蝶(まくらだこちょう)は、外傷一つ付いていないままに死亡していた。

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