第4話 自縄自縛
「にゃはは...面倒にゃ相手だにゃあ...」
「───[ケモノ]?」
空中を揺蕩うようにフヨフヨと動く10本の縄。それを、目で追っては今にも飛びつきそうなのは、無類のケモノ好きで、自身も猫の獣人となった猫又ほのかだった。
「大丈夫、にゃあは猫じゃにゃくて猫の獣人。だから、別に動くものに釣られるとかは...にゃい...」
「[ケモノ]、ここは戦場だぞ?我慢しろよ?」
「だ...大丈夫だにゃん...」
フルフルと足が動き、もう今にも飛びつきそうだった。
「ほーれほれ。お前に縄は取れるかなぁ?」
「にゃー!」
「おっし!馬鹿が!捕まえた!」
「にゃおーん...」
「この馬鹿猫...」
馬なのか鹿なのか猫なのか。
揺蕩う縄に飛びついて、亀甲縛りされた猫又ほのか。ほのかは今、プランと3mほど頭上でプラーンと縄に縛られて空中に垂れている。
俺は、愛のエネルギーでできた刀を両手で持って、その刃先を敵である長縄丈に向けた。
コイツの縄は、鋭い剣筋で触れば斬ることも可能だ。しっかりと振りきれば行ける。
「───覚悟しろ」
刹那、俺は長縄丈の方へ移動を開始する。ほのかを縛っている1本以外の残りの9本が、俺の方向へ迫ってきた。
前方から迫ってくる縄を体を左に傾けることで避けて、右側から迫ってくる縄を両足飛びでなんとか避ける。
そのまま、下から迫ってくる縄を空中で回転しつつ斬り伏せる。そして、左から迫ってくる縄を、地面に着地すると同時に前転することで回避し、後ろで絡まっている3本を、瞬く間に斬り伏せた。
「───クッソ、なかなかやるな...」
そう呟く長縄丈。俺は、そんな言葉に耳を傾ける日まもなく、斬り伏せることを続けていた。
ブンッという、空中を刀が空回る音がして、俺の周りに蔓延る触手のような縄が、俺に近付かぬよう牽制する。そして、長縄丈へと続く道が確認できたと同時に、俺はその道に沿って行動を開始した。
大きく刀を振るい、縄を怯ませ俺への接近を遅らせた後に、そのままダッシュで長縄丈へ近付く。後頭部を狙って伸びてくる縄を中腰になって避けた後に切り落とした後、左右から迫っていた2本の縄を、這い這いになることによって、回避する。そして、2つが交わったところを下からバッサリと斬った。
そのまま、腕の筋肉を使って立ち上がった後に、長縄丈への接近を再開。そして、俺は叫んだ。
「[ケモノ]!お前、爪で切り落とせるだろ!サボってんじゃねぇ!」
「あっれれー、おかしいにゃあ...どうしてバレたのかにゃあ。あ、にゃあはひ弱でか弱いから動けないにゃあー」
「もう遅いわ!プリンの1個くらいやるから、お前もやる気出せ!」
「プリンの為にゃら、頑張れる!」
そう言うと同時に、ほのかは亀甲縛りを爪で切り落として脱出してきた。そして、さながら猫のようなキレイな着地を披露して、そのまま俺と同じく長縄丈へ接近していった。
「[純愛]!駆除はそっちに任せるにゃ!」
「あぁ、人質の保護を優先しろ!」
俺は、ほのかに人質である田村花さんの回収を任せる。2人がかりで行けば、田村花さんのことを救えるし、そのまま長縄丈を失神させることもできるだろう。
縄は残りの3本全てが、俺の方へ向いていた。だから、現在ほのかは完全にフリーに動ける状態だった。
「お嬢さん。お迎えにやってきましたにゃあ」
そんなことを言って、ほのかは長縄丈から人質である田村花を奪い取った。
「このッ、泥棒猫!」
「負け惜しみでも惜しみなく言えばいいにゃん」
俺は、長縄丈がほのかに気を取られている一瞬で、長縄丈に接近する。
「これで終わり───だッ!」
俺が、刀を振るい長縄丈を失神させようと思ったその刹那。後方から俺の足に巻き付いてきたのは、1本の縄だった。
「───クッソ!」
「残念だったな、お前の注意不足だ!」
俺は、長縄丈に接近するその直前に転倒してしまう。
「レン!」
「[ケモノ]、こっちは大丈夫だ!」
ほのかは、俺が失敗したことに焦って俺の本名を呼んでしまう。どうにか、足に付いている縄を切り落とせば───
「残念、刀は届かない」
俺の足に絡みつく縄に、俺の刀は届かない。そのまま、俺は足を上にして空中にあがっていくのだった。
「まずはお前から殺してやる。覚悟しろよ、クソガキが」
俺は、逆さまにされながら釣られていた。逃げることはできない。長縄丈は、縄の内の1つを俺の口の中に入れて窒息を試みる。どうやら、俺はここで死ぬ───
{───そっか、頑張ってね。今日の夕飯はレンの好きなカニクリームコロッケだから}
その時、俺の脳裏に浮かぶ恋人であるカスミの言葉。
───俺は、こんなところで死んでられない。
「───んなっ!」
俺は、パワーアップする。俺の手にあったのは、これまでの刀とは違って、片手でも振るえそうな小型のナイフだった。もちろん、このナイフも純愛パワーで黄色く光っていた。
”ザシュッ”
「───ッ!」
俺は、口腔内に入ってきていた縄を切り落とし、足に絡まっていた縄を、ナイフを投げることで切り落とした。
俺は、そのまま重力に従って落下してくれるナイフをキャッチして、長縄丈に接近した。
「クッソ、もう無理か!」
後ろに、数歩下がって俺から逃げようとする長縄丈。俺は、逃したりなんかしない。
「───有罪」
俺は、ナイフを長縄丈の右の胸に投げる。ここならば、心臓に当たることはない。そして、体を守るようにされている亀甲縛りだって、その位置なら気にする必要はない。
「自縄自縛だ。後悔しろよ」
───こうして、田村一家殺害事件の犯人の親玉である長縄丈を捕まえることができるのだった。
”プルルルルルルプルルルルルル”
───と、その時俺のポケットに入っていたスマートフォンに着信が入る。
俺は、その着信に出た。
「もしもし...あぁ、京子さん。どうかし───」
俺の耳に響くのは、京子さんの信じられない───否、信じたくないような言葉であった。
「純浦廉さん、緊急事態です。あなたの恋人が───藤原香澄さんが、犯罪者組織SMクラブに連れて行かれてしまいました!」
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