第39話 反撃開始
───SMクラブのアジトの最奥。
「大変ですよー、睡蓮様ー。『正愛』のメンバーが攻めてきていまーす」
そこにいるのは、合計4人の人物。
一人は、モフモフとしたピンク色の服に身を包んだ少女。そして、彼女の後方にあるのが巨大な触手の大本となるような人物だった。
この職種が、レンを建物の中に引きずり込んだのだろう。そして、そのピンク色の服に身を包んだ少女───綿飴蝕が、[触手]の性癖を持つ人物で間違いないだろう。
「蝕」
「どうしかしましたかー?睡蓮様ー?」
「レンをこっちの部屋に連れてこい。『正愛』のメンバーが来ているのだろう?ならば、人質は一つにまとめた方が楽だ」
「了解しましたー」
綿飴蝕に命令するのは、睡蓮と呼ばれている人物であった。
───睡蓮は、SMクラブの幹部だった。
敵の総本山として、現在この室内で待機しているのだった。彼こそが、カスミを誘拐した張本人で、レンの自宅の襲撃を企てた犯人であった。
今回の、アジト襲撃のボスはきっと彼になるだろう。
───と、まだこの部屋にいる4人の内3人しか紹介できていない。
だけど、睡蓮の言葉からも理解できるだろう。最後の一人───カスミは、この部屋にいたのだった。
今も、目を覚まさずに眠ったように失神している。昏睡している。
「こっちも応えてやれ。『正愛』ごときに負けないことを教えてやれ」
睡蓮はそう言うと、笑みを浮かべる。
───彼の言葉から、戦闘の激化が予想できた。
***
俺の目の前では、戦いが行われていた。[ナース]の性癖を持つみーちゃんと、何の性癖を持っているのかも名前もわからないけれど、『正愛』に属していることはわかっているヤンキーのような人物の戦いだ。
「───おらッ!」
「───ッ!」
ヤンキーのような人物の攻撃がみーちゃんに入る。今、ヤンキーのような人物はみーちゃんのことを噛んだような気がする。
「───骨を噛み砕くって...どんな歯をしてるのよ...」
そんなことを呟くみーちゃん。まさか、あのヤンキーのような人物は歯でみーちゃんの肩の骨を砕くとは。
「ハッ!俺様の[八重歯]の前ではお前の骨なんかこんにゃくみてぇなもんよ!」
「こんにゃくって、いいのかどうかわからない例えね!」
「アァ?いい例えに決まってんだろ。柔らかいものの最上級の例えじゃねぇか!」
「───」
俺も、別にこんにゃくが最上級の柔らかいものだとは思わなかった。もっと、豆腐とか無かったのだろうか。
「───まぁ、どうでもいい。そのままお前の体中の骨を砕いてやるよッ!」
ヤンキーのような人物───長いので、今度からは性癖の名前である[八重歯]と呼ぶことにした。
八重歯・・・自分の八重歯を長く鋭くさせることが可能。伸縮自在。
「この程度の傷なら...一瞬で治せるわ!」
みーちゃんも、持ち前の性癖である[ナース]の効果で肩の怪我を治す。双方、一進一退の攻防と言えるだろう。
「───おいおい、治しやがって!面倒な野郎だ、一気にぶっ殺す!」
「えっと...[八重歯]!殺すのは駄目だ!」
「駄目だぁ?お前、人質に取られてるくせによく言うぜ!コイツを殺さなけりゃ、お前も殺される可能性があるんだぞ!それをわかった上での馬鹿な発言か?」
「殺す必要はないと思う!」
「おま、とことんアホだな!状況すらもわかってねぇのかよッ!」
[八重歯]は、呆れたようにそんな発言をする。その目は、愚かなものを見るような目だった。
随分と失礼だ。俺だって、自分の置かれている状況だってわかっている。
現在、俺は弛緩剤を打たれてほとんど動くこともできずにいる。弛緩剤が無くとも、触手が体にまとわりついて四肢を縛っているので、動くことができないのだけれど。
───と、その時。
俺のことを縛っていた触手が動き始める。ぬるりと動き、俺の身体に絡みついてきたのだった。
「「───ッ!」」
俺と[八重歯]の2人は、驚きで声を失ってしまう。
───その隙を、みーちゃんは見逃さなかった。
「麻酔よ!眠ってて!」
「───クッ!」
[八重歯]に麻酔剤が打たれるのを目視する。その数瞬後、俺の体は触手に引きざれるようにして壁を破って別の部屋へ移動していった。
すごい勢いで触手に引きずり込まれた俺が到着するのは、少し広い一つの部屋だった。
そこにいたのは、4人の人物。
───ピンク色の温かそうな服に身を包んだ少女と、俺のことを捕まえた触手に体を蝕まれている人物。
それと、黒いスーツに身を包んだ褐色の肌を持つおじさん。
───そして、俺の最愛の恋人であるカスミであった。
「カスミッ!」
俺は、カスミのことを視認すると同時に、その名前を呼ぶ。
───カスミを見た俺は、弛緩剤などを気にせずに覚醒する。
「カスミを...返せッ!」
「───ッ!」
俺は、自らを縛っていた触手を、[純愛]のエネルギーで作り出した刀で切り落とす。
触手は切れて、俺は地面に着地した。
「えー、斬られちゃうのー?」
「ッチ、面倒だ。一つの場所で管理しようと思ったら暴れるとはな」
「大暴れしてやるよ。お前達がカスミを誘拐したんだろ?俺は絶対に赦さない」
そして、俺は刀を両手で握る。
───反撃開始だ。




