第21話 10体
ケイの性癖である[自己愛]によって目の前にいるSMクラブに所属する立てこもり犯の名前が判明する。
ケイが事件現場に来た時は「一番博識」を使って、相手のことを知ることから始めるのだ。
今回も、その方法で相手の名前と性癖が判明した。
立てこもり犯の名前は浜屋良和穏で、性癖は[輪姦]であった。
「「「能力と名前がバレようと、戦闘に影響はない。幸い、こっちの能力は難解なものではないからな」」」
浜屋良和穏は、そう口にする。
実際、浜屋良和穏の持つ[輪姦]は、自分の肉体を増やすという単純な能力だ。
目の前で、それが行われている今、能力の名前が判明したところで今更感がある。
コンビニに侵入した俺とケイは、辺りを見回す。入口にいた一体は、もう既に倒されたから残りは見える範囲にいるのは9体だ。
「「「全力で相手する!」」」
その刹那、俺達2人に飛びかかってくるのは2体の浜屋良和穏。人だから、1人2人と数えるのが正しいのだろうが、これは分身であり複製体のような感じだからか、1体2体と数えてしまう。
まぁ、数え方なんか考える必要などないだろう。
「行くよ、[純愛]」
「わかってる。そっちは頼むぜ」
「当たり前だよ」
俺は、2体の内の片方をケイに任せる。もう片方を、[純愛]のエネルギーで生み出した刀を使って斬り伏せることにした。浜屋良和穏は、斬り倒しても霧消するだけだ。最初の1体が死亡するまでは、増え続けることができるのだろう。
俺は、迫ってきた浜屋良和穏に袈裟斬りを披露しながら、逮捕の仕方を思案していた。
自分の分身を作るキャラであるのであれば、手錠をかけても意味はないだろう。できることとしては、全ての分身に手錠を付けることだろう。だけど、一体全体何体まで増やせるかがわからない今、浜屋良和穏の逮捕はいたちごっこになる可能性が大きかった。
「それじゃ...こっちから行くよ」
そう言って、迫ってきた1体を倒した直後にコンビニの棚に当たらぬように店内を駆け巡るケイ。
「「「返り討ちにしてやろう」」」
そう言って、ケイに立ちはだかるのは数体の浜屋良和穏。それを、華麗になぎ倒していくケイ。
「こっちも、相手させてもらうよ」
俺も、浜屋良和穏に畳み掛けることを選択した。一体一体ならば、そこまで強くはない。
刀を振るって、1体2体と倒していく。
「残り1体」
「───クソッ、出てこい!」」」
そう言うと同時に、ボフンと煙が出て新たに9体の浜屋良和穏が姿を現した。
残り1体の状態から9体に増えたから、10体までしか出せないのだろう。そう考えると、10体全員に手錠をかけさえすれば、逮捕することができる。
「[自己愛]!俺達の目的は逮捕だ!能力を使わせた状態───だから、出現させられることができる上限であろう10体の時に全員に手錠をつけよう!それなら、逮捕も可能だ!」
「「「俺達を逮捕だと?」」」
浜屋良和穏は、口角を上げる。何か策があるのだろうか。
「「「できるものならしてみろよ。逮捕できるんだろう?」」」
そう煽るような口調で言葉を紡ぐ浜屋良和穏。
「何か策があるのんだね?きっと、狡猾な手口だ。でも、そんなものに聡明な僕達は屈しないよ」
ケイは、意外にも冷静にその煽り言葉をスルーした。
「「「じゃあ、逮捕をせず───」」」
「いや、逮捕するよ。君達には何もさせずにね」
「「「───ッ!」」」
俺が───いや、俺と浜屋良和穏達全員が気付いたときにはもう、浜屋良和穏全員の腕には手錠が付けられていた。
「俊足の僕の前で止まってるだなんて、愚かだね」
どうやら、ケイは「一番速い」と念じてスピードを上げたようだった。そのため、浜屋良和穏は全員手錠をかけられて逮捕をされてしまった。
「[純愛]、連行するのに手伝ってくれ。10人も一人で運ぶのは流石の僕でも一苦労だからね」
ケイはそう言うと、自分の前髪を手櫛で梳かしていた。
それにしても、浜屋良和穏はアッサリと逮捕することに成功した。今回の場合、浜屋良和穏が弱かった───というよりかは、ケイが強すぎたと言っていいだろう。
浜屋良和穏だって、SMクラブの一員なのだから、それなりの実力者ではあったはずだ。だけど、ケイには敵わなかったのだ。
戦う敵が悪かった───などと、心の中で浜屋良和穏に同情して、5人ずつ連れて俺達は留置場へ運ぶためにパトカーを呼ぶことにした。
誰かに電話をして、何台かパトカーを呼ぶ必要があるだろう。分身を作るだけの能力であるから警察に電話をして運んでもらおうか───などと思いながら、10体全てをコンビニの外に出したその時だった。
「「「外まで運んでくれてありがとな」」」
「───な」
コンビニの外に出た俺達を襲ったのは、50体は優に超える浜屋良和穏の姿だった。
「まさか...」
「「「そのまさかだよ、俺の能力は別れた分身も使用することができる。だから、次の相手は100体だ」」」
コンビニの外に俺達を出したのは、狭いコンビニで動けなくなることを避けるためだったのだろう。
───どうやら、浜屋良和穏はまだまだ底が知れない人物なのであった。